誕生会開催とその裏で ―グルンド少年の覚悟―

 それから一週間ののち、私の誕生会が行われた。

 誕生会は私的な意味合いを持つ催し物になる。なので私が招きたいと思う人たちを中心にして紹介状が発行されることになる。

 軍界隈、職業傭兵界隈、学術関係者界隈、候族同士の付き合いがある方たち。こういう方たちを中心にして招待状を発行する。

 もちろん私の親友たちもご招待した。

 そして、もっと重要なのが――


「エライア様!」

「グルンド君。よく来てくれたわね!」

「はい、お招きいただき誠にありがとうございます」


 アルセラのクラスメイト達も招くことになった。 

 すでに誕生会会場の片隅に一塊になって集まっている。グルンド君には別の用事があり本邸の方へと呼んだのだ。


「今日はアルセラのエスコート役よろしくお願いね」

「はい! お任せください!」


 見事なロングテールコート姿のグルンド君はアルセラを迎えに来たのだ。

 私は彼を邸内用のリージェンシードレスで迎えた。

 そんな時だ。


「グルンド君!」


 頬を赤らめながら、薄手のエンパイアドレス姿のアルセラが現れたのだ。本正装姿でパールホワイトに輝くドレスの背面には薄紫色のトレーンが引きずられている。頭にはミスリルシルバーで作られたティアラが載せられていた。

 グルンド君が言う。


「今日よろしくお願いいたします」

「ええ、こちらこそ」


 私は二人を応接室に二人きりにすることにした。

 自室へと向かいながらメイラさんに告げた。


「着替えます。準備を」

「はい。承知いたしました」


 私も誕生会の準備をすることにした。そして私は衣装を変えて会場へと臨んだのだ。


 着替えた衣装はエンパイアドレス。純白色のシースルースタイル。内部に下着の上に極薄の金色の光沢のキャミソールドレスを合わせた。トレーンは引かずに、両肩から床に引きずるほどの長さはハイロングの青白く光るケープコートを重ねた。

 頭にはティアラを重ねたがサイズは大きめでより目立つものだ。

 エスコートしてくれるのは今回はセルテスだった。


「では参りましょうか。お嬢様」

「ええ。よろしくてよ」


 こうして誕生会は始まった。私はアルセラとグルンド少年を伴い、セルテスと腕を組みながら誕生会会場へと向かったのだった。


 誕生会で多くの人々と挨拶を交わし、数えきれない贈り物をいただき、美食とお酒に酔いしれた。

 知人や友と談笑をし、アルセラの級友たちとも一人一人と挨拶を交わした。


「これからもアルセラをよろしくお願いね」

「はい!」

「これからはみんなで力を合わせてやっていこうと思います」


 明るく弾けるような笑顔で答えてくれたのが心に強く残っていた。

 そしていよいよ最後の挨拶だ。


「皆様! 今宵はわたくし、エライアの誕生会にご参列いただき誠にありがとうございます! 名残惜しくはございますがこれにて一旦、お開きとさせていただきたく思います。本当にありがとうございました!」


 終りの口上を高らかに名乗れば、会場全体から割れんばかりの拍手が起こった。こうして無事に私の誕生会は成功裡のうちに終わりを告げたのである。



 †     †     †



 会場から帰参する人々を見送って私ができることは一通り終わりとなる。アルセラと伴に談話室と向かう。そこにセルテスとグルンド少年が待機してくれているはずだったからだ。

 談話室の扉を開けようとした時だった。中から声が聞こえた。


「セルテスさんにお尋ねしたいことがあるんです」

「何でしょうか?」


 私たちは扉の前で声を潜めて聞き耳を立てた。


「執事役になるにはどうしたらよろしいですか?」

「誰の執事役ですか?」


 グルンド君は言う。


「もちろんアルセラさんの執事です」


 彼は本気だった。それにセルテスは真摯に答えていた。


「執事役になるにはいくつかの方法があります。まず一つは大きいお屋敷に入り、ページボーイから初めて地道に実績を積み上げていく方法です。定番の方法ですが非常に時間がかかります。私が執事になったのはこの方法によるものです」


 セルテスの語りは続く。


「もう一つは〝学校〟に通うものです」

「学校ですか?」

「ええ。執事として必要な素養と技量を身に付けられる〝執事養成学校ギャリソンスクール〟と言うべきものがあるのです。そこで数年をかけて学び卒業後に契約を結んでいたお屋敷にて近侍役見習いから始めるのです。中小のお屋敷ではこちらの方が短期間で養成できるので定番となっています」


 セルテスは言う。


「もしあなたがワルアイユ家の執事役となられることを望むのであれば、こちらの方が適切でしょう」

「はい! ありがとうございます」

「それにしてもなぜ執事に?」


 その問いにグルンド少年は明確に答えた。


「アルセラさんをこれからも支えてあげたいんです」


 思わぬ言葉にアルセラは顔を真っ赤に染めて両手で口元を覆っていた。


「聞けば、アルセラさんの現在の執事役の方は大変ご高齢だとお聞きしました。ならば新たに執事役となる者が必要となるでしょう。それならば僕がそのお役目を果たしたいのです」


 彼は力強くはっきりとそう告げたのだ。

 セルテスは言った。


「その言葉、お待ちしておりました。私も同じことを強く望んでおりました」

「はい。それでは」

「あなたが執事として必要な技量を身につけるための学校に進む際にその支援をさせていただこうと思います」

「ありがとうございます」


 もういいだろう。ここまではっきりと彼の意志を聞かせてもらったのだから。


――ガチャッ――


 私は談話室の扉を開けた。その瞬間アルセラがグルンド少年のところに駆け寄って行く。


「グルンド君!」

「アルセラさん?!」

「ありがとう!」

「えっ?!」


 私は補足した。


「全て扉の外側で聞かせてもらったわ」


 そう教えられて彼は少し困ったように微笑みを浮かべるとソファーから立ち上がりアルセラをしっかりと抱きしめた。


「これからもよろしくお願いします」

「いいえ、それは私の言葉よ。これからもお願いね」

「はい。もちろんです!」


 ああ、これは二人きりにしておいた方がいいだろう。


「セルテス」

「はい。お嬢様」


 私はセルテスを連れて談話室から姿を消したのだった。

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