大規模強制捜査 ―暴かれる事実―

 教師としての正装であるハーフテールコート姿をしていた彼らは突然なだれ込んできた軍警察部隊に騒然となった。当然のように抗議の声が上がった。


「何だ君たちは!」

「何をしている? ここは学校だぞ!」


 校長や教頭らしき中年男性が立ち上がって抗議の意思を示したが、そんなもの何の意味もない。リザラム候は真正面からこれを制止した。


「黙れ! 下郎! 国の未来を食いつぶす国賊が!」


 軍警察の大隊長のあげた怒声に誰もが気圧されて言葉を失った。リザラム候は更に続けた。


「本校の教師陣よる生徒や生徒父兄への寄付強要の事実が確認された! また寄付を拒んだ生徒や父兄に対する嫌がらせや虐待の教唆も確認されている! 現在すでに全校施設における臨検行動が行われている! 同時に本校教師陣の主任級以上全員の身柄は軍警察によって拘束される! それ以外の教員も身分を問わず重要参考人として尋問対象となる! これは軍警察総司令部と国家検察本庁の承認を受けた法的根拠に基づく行動である! 一切の抵抗はコレを認めない!」


 さすが軍警察の最前線にて犯罪取締を続けてきたベテランだった。その凄みを帯びた警告の声には誰も抵抗することはできなかった。戸惑い狼狽えて呆然とするだけだった。

 私も告げる。


「校長と教頭は誰ですか?」


 私に求められて恐る恐る立ち上がった者が二人いる。細身の長身と、やや背が低くガッチリした体型の人物だ。


「わ、私師が校長ですが?」


 細身の長身の彼が言う。ならば隣の背が低いのが教頭だろう。これから自分が何をされるのか? すっかり怯えている。彼の態度を無視して私は告げた。


「アルセラ・ミラ・ワルアイユと言う生徒をご存知ですね?」

「は、はい、それが何か?」


 私はあえて低い声で凄みを利かせて告げた。


「アルセラにあなたは何をしましたか?」

「な、何を? と言われましても個々の生徒の問題は――」

「今更シラを切れるとお思いですか? だとしたらあまりにおめでたい頭をしてらっしゃるとしか言いようがないですね」

 

 私はかたわらのリザラム候に視線で許可を求めた。それにリザラム候は頷いてくれた。


「本学校の教師陣上層部の教唆により、ある女性生徒の集団がアルセラ嬢への虐待行為に及んだと確認されています。そしてその虐待教唆の理由となっているのが、寄付の強要を拒んだことへの報復です。これはアルセラ本人の証言と、虐待行為の実行者であるマリーツィア・グース・レオカーク自身の証言により事実であると確認できています」


 そして私は強く足を踏み鳴らしながら告げた。


「もう言い逃れはできませんよ」


 鋭い視線で睨みつければ蒼白な表情で身体を震わせながらなおも反論をしようとしていた。


「で、で、デタラメだ! どこにそんな証拠が! それに証人がマリーツィアだと? あんな素行不良娘の言うことを真に受けるのか!」


 語るに落ちた、そして、ゲス男ココに極まれりだ。私は言う。


「あなた、かなりおめでたい頭をしてらっしゃるようですね? マリーツィアさんのフルネームをお忘れですか?」

「なに?」


 戸惑いの声が漏れ、教師たちは互いにかを見合わせながら首を傾げている。わたしはきっぱりと告げた。


「〝マリーツィア・グース・レオカーク〟それが彼女の名前です。そして、ここに控えてらっしゃるリザラム大隊長の名前をご存知ですか?」

「リ、リザラム? ――あっ!!」


 校長はそこで驚きの声を漏らした。自分がどんなうかつな発言をしたかやっと気づいたのだ。真っ青という言葉では足りないくらいに血の気が引いた顔を校長と教頭はしていた。

 リザラム大隊長が進み出て怒気を纏いながら叫んだ。


「私の名前はリザラム・マオ・レオカーク! マリーツィアは私の姪だ!! マリーツィアがどんなにひどい虐待を両親から受けていたのか! そしてその事に苦しんでいたかも判明している! 生徒に日々接している貴様らなら気づかぬはずはあるまい!」


 私も告げる。


「マリーツィア嬢の全身には肉体的な虐待を受けていた傷跡が明確に残されていました。学校の生活の中で気づいた方は居られたはずです」


 そして私は教師陣を眺めながら言う。


「あなたがた、気づいていてあえて見過ごしましたね?」


 すると1人が恐る恐る手を挙げる。スペンサーコート姿の女性教師だ。


「あの、マリーツィアさんの身体の傷跡の件は分かってました」

「君!」


 教頭が叫んで遮ろうとする。するとリザラム候が手にしていた牙剣の切っ先を突きつけながら凄みを帯びて言う。


「黙れ」

「――っ!」


 私は言う。


「続けて」

「はい、それでその事を学年主任に相談したところこう言われました。『教師の仕事を続けたければ余計なことは言うな』と」


 リザラム候は吐き捨てる。


「口封じか、いずれバレるであろうことを愚かな!」


 私は問う。


「それでは今の事実、証言していただけますね?」

「はい、全てを包み隠さずお話します。もうこうなったら今の仕事にしがみついていたくはありません」

「けっこう、過去をしっかりと悔いるのであれば、救われる事はあるはずです」


 するとその女性教師は立ち上がると、自ら進み出てくる。警備隊員の1人が彼女を保護した。そして、ついにヤケになったのだろう。校長は怒鳴り声を上げた。


「お前は一体何なんなんだ! 服装からして職業傭兵らしいがなんの権限で軍警察に同行している! 何なんだ貴様は!」

「よろしいでしょう、お教えいたします」


 私は胸の内側に入れていた、あの緑色の卵型のペンダントを取り出すと片手で操作してカバーを開いて中身を露出させた。


「そ、それは?」

「―人民のために戦杖を掲げる男女神の紋章像―?!」

「ま、まさか?!」

「十三上級候族!?」


 驚きの声が次々に漏れる。それを無視してペンダントを掲げながら告げた。


「私の名前は〝エライア・フォン・モーデンハイム〟――十三上級侯族の一つ、モーデンハイム家の現当主の家孫です。そして、公式には開示されておりませんが、今回の問題の被害者であるアルセラ・ミラ・ワルアイユ嬢は、当家モーデンハイム家において〝家族待遇〟で遇されております。すなわち――」


 私は進み出て低い声で告げた。


「私はアルセラの家族として、そして、正当法的後見人として、ここに参上しております」


 驚きの声が広がる。ざわめきが起きる。だが私はそれを一喝して告げた。


「静まれ! 本学校における教師陣の愚行はすでに明白になっている! 理事長の無能につけこみ拝金主義のやりたい放題! 心ある生徒や教師はすでに見切りをつけている! ましてや意のままにならぬ生徒や父兄に対する制裁役として、一部の生徒を弱みを握った上で〝イジメ〟と言う名の虐待行為役に仕立て上げた! これに耐えきれずに失踪したものも居るという! これらの悪行に直接加担したのでなくとも、意を決して告発することも出来たはずだ! だが今日に至るまでなんの行動も起こしていない! ここに居る教師全員、同罪だと知れ!」


 そしてリザラム候は言った。


「まだ、お前ら全員、叩けば埃が出るはずだ。徹底的に調べさせてもらうぞ」


 すると大会議室に飛び込んできた隊員が居た。


「大隊長!」

「どうした?」

「隠し帳簿が見つかりました! 内容の精査はこれからになりますが、おそらくは不正寄付金を管理するためのものと思われます!」

「どこで見つけた?」

「はっ! 校内図書館の司書事務室です! 本棚の一部が二重構造になっておりそこに隠匿されておりました!」

「図書館か、それで図書館の職員は?」

「はっ! 校舎裏側の塀を乗り越えて逃走しようとしていたところを拘束いたしました!」

「よくやった。徹底的に調べ上げろ。一切の隠蔽を許すな! 逃げるということ自体が自らの罪を認めているのだからな」


 そしてリザラム大隊長は振り向いて教師たちに向けて告げる。


「さぁ、茶番は終わりだ。悪事の事実、洗いざらい吐いてもらうぞ! 不正を行った者、不正を見過ごしていた者、そのどちらもな!」


 リザラム候は足を強く踏み鳴らした。


――ダンッ!――


「連行ッ!」

「はっ!」

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