第4話 ブラック盗賊団

 フィーナを村に送り届けた。

 彼女の父親が、こちらに向き直る。


「君がフィーナを送り届けてくれたのだな。礼を言う。俺は父のダインだ」

「俺はリキヤだ。なに、大したことじゃないさ。ところで、こいつらはどうするんだ?」


 俺は、引きずって連れてきた賊どもを前に出す。

 ダインが賊どもを見る。


「……むっ。こいつらは、確か指名手配されていたブラック盗賊団の構成員だ。村長を呼んできて確認してもらおう」


 彼は、そう言って村の奥に去っていった。

 そして少しして、1人の老人を連れて戻ってきた。

 彼が村長らしい。


「ほっほ。確かに、こやつらはブラック盗賊団の構成員のようじゃ。街まで首を持っていけば報奨金が出るぞ。できれば、生きたまま連れていったほうがいいがの。奴隷として売り払えるからの」


 村長がそう言う。

 何やら手元の紙と賊たちの顔を交互に見ている。

 指名手配犯の似顔絵でも描かれているのだろうか。

 

 それにしても、盗賊団? 首を持っていく? 奴隷?

 なかなか物騒な話だ。

 ここは、いったいどこなんだ?


 まさか、神隠しにでも遭ったか。

 日本ではないのかもしれない。

 フィーナたちの顔立ちや服装は、あまり見慣れないものだ。


 かといって、外国というわけでもないだろう。

 日本語が通じているからな。


 夢、幻覚、神隠し、ゲームの中へ迷い込んだ。

 可能性としてはどれも考えられるが……。

 よくわからんな。


 とりあえず、”神隠しで地球とは異なる不可思議な世界に迷い込んだ”という認識にしておこう。

 ムリに急いで日本に戻る必要もない。

 どうせ、最強を目指す戦いも行き詰まっていたところだ。

 この不可思議な世界なら、地球とは異なった刺激や技術、経験などが得られるかもしれない。


「奴隷か。街へ行く機会があれば、そこで売り払うことにしよう。とりあえず、数日はこの村に滞在させてもらって構わないか?」


 急いで街に向かう必要もあるまい。

 もう少し状況を整理しておきたい。

 この世界の常識とかな。


「ああ、構わないとも。君は村の恩人じゃ。我らの村からも、何度も盗賊団の被害が出ておったからな。これで少しは安心して暮らしていけるじゃろう」

「少しは安心? まだ完全には安心できないのか?」

「まだ頭領や他の構成員たちは健在じゃからのう。安心はできん」


 なるほどな。

 俺が撃破したのは、頭領や副頭領ではない構成員だった。

 頭を潰さないと、こういう組織はなかなか活動を停止しないものだ。

 かつて俺は、こういう違法組織を片っ端から潰して回ったことがある。

 最強を目指すためのいい鍛錬になったものだ。


「なるほど……。よし、俺に任せてくれ。俺がブラック盗賊団とやらを一掃してやるよ」


 この奇妙な世界の盗賊団が、どの程度の強さを持っているのかは知らない。

 先ほどの構成員程度であれば、まったく問題なく討伐できる。

 もっと強いやつがいたとしても、それはそれで大歓迎だ。

 俺の最強への道の糧となるのだから。


「き、君1人で行く気か!? 無謀じゃ。頭領は相当な手練と聞く。それに、他の構成員たちだって20人は下らん。多勢に無勢じゃ!」


 俺の言葉を受けて、村長が必死の形相でそう言う。

 確かに、普通はそうか。


「問題ない。俺は強いぞ。なあ? フィーナ」

「た、確かに、とんでもないお強さでした。ですが……」

「なあに。俺が戻らなければ、それまでの男だったということさ」


 俺はそう言う。


「き、君の覚悟はわかった。とりあえず、数日は様子を見てくれんか? 村の者たちで、手伝える者がいないか募集をかける」

「ふむ。手伝いなど要らんが……。まあいいだろう」


 この世界について、状況を整理しておきたいところだしな。

 数日ぐらいは問題ない。

 そんな感じで、俺がしばらくこの村に滞在することが確定した。

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