異世界転生者を倒すが異世界人の定めです!

三浦サイラス

第1話 異世界に転生するヤツらはこういう感じ

異世界転生という現象がある。




 主に日本人という人種に多く、その中でも不幸な事故や境遇で死んでしまった者達によく起こる現象だ。






 不幸な日常が常に続いて死んだから。


 不運な事故に見舞われ死んだから。


 生活に追われ続けた結果死んだから。


 あまりにも無慈悲で孤独の末に死んだから。






 そうやって死んだ彼らの多くは神と対峙し、ほぼ無条件で愛される。そのため、この人種達に対して神は狂気的なまでに優しい。




 そのため、神は彼らが転生先で気兼ねなく暮らせるよう力を与える。神の祝福を与えるのだ。






 転生先の異世界で邪魔無くスローライフを送れるように。


 転生先の異世界で敵対者を簡単に撃退できるように。


 転生先の異世界であらゆるモノを創造できるように。


 転生先の異世界であらゆる能力が秀で過ぎるように。


 転生先の異世界であらゆるモノから有利に過ごせるように。






 何も知らない何処かの異世界で転生し、彼らは神の祝福を使って第二の人生を歩む。




 そこには彼らが地球で感じていた苦労や劣等や不運は無い。世界の頂点に自分がいて、その中心にも自分がいるため、全て彼らの都合の良い日々だけが続いていく。




 彼ら以外の存在は全て彼らを引き立てる存在となり、影響される存在となり、崇める存在となり、やがて異世界は彼らありきになっていく。






 そう、それはまるで人を導く絶対者のように。






 敵は存在しない。彼らはその世界で生まれたモノごときで勝てるような存在ではないからだ。そうなる事が運命だったかのように敵は蹴散らされ殲滅される。彼らに敵と認識される事はあらゆる間違いを引き起こす結果になるため、敵対者は例外なく即座に地獄を味わうのだ。




 彼らに勝てる者はいない。あらゆる事態や出来事イベントが彼らの都合の良いように行われてしまうので抗う事はできない。そして、その確定した勝利によって異世界はさらに彼らを歓迎し満喫させ、不安も悩みも苛立ちも感じさせない人生を約束していく。






 ――――――――――自分の知らない異世界に来ている。






 死ぬ前の記憶があるのに、その事に対し不安や恐怖がないのはこういう事だからだろう。あまりに彼ら中心に物事が動くため、地球に戻る気にならないのだ。




 さらに彼らは地球にいた頃、その大半が“嫌な人生”を送っている。そのため、地球に悲しむ親がいようと、心配する友人がいようと気にならないのかもしれない。いや、そういった者達が誰もいないから気にならないのかもしれないが――――――――――――何にせよ彼らは地球に対する未練が相当に薄い。


 故に彼らは転生先で満足な人生を送ろうとする。神の祝福を使い、前世では考えられないバラ色の生涯を過ごしていくのだ。




 きっと、地球に住んでいては叶えられなかった――――――――そう、心の底から満足行く日々を。


 だが、しかし――――――――――――――だ。




 その彼らのソレが異世界人にとってもイコールなのかと言われれば――――――――――――――決してそうではない。






 なぜなら、神の祝福を受けた彼らは異世界であまりに特別すぎるからだ。






 彼らが何を言っても、彼らが何を起こそうとも、彼らが何を為そうとも、彼らが何をせずとも異世界人が無条件で彼らを称えるというのは――――――――――――そう、絶対におかしい。




 むしろ、おかしいと思わない方が変だ。転生者である彼らが世界の中心になるという、そういった運命が突然動き始めるのに、それに違和感も何も思わないのは異常に決まっている。




 普通は個人が何をしようと個人のどんな運命が動こうと、世界に“影響”は無い。




 世界とは個人に影響を与える存在であっても与えられる存在では無いからだ。多数の人間が混じり合う世界という場所は個人が全てを律せる程狭くも甘くもなく、その上酷く勝手でもある。




 そのため自ら世界に影響を与えたければ世界に選ばれなければならない。だが、それは針の穴よりも小さい一粒の埃をたまたま見つける事と同義だ。無の偶然でしかあり得ない。つまり、不可能なのだ。




 世界の中心になる事はできない。なのに、世界に影響を与えられるになれたというなら、それは絶対に異質で異常であり、起こってはならない事なのだ。




 しかもその人物がその世界の者で無いならなおさらで――――――――――世界が変わってしまう事態となってもおかしく無い。






 そう、変化だ。決定的な何かが世界に起きてしまうのである。






 少数による変化ならば自己治癒もできるだろう。存在の許容も可能で、起こってしまった変化は自浄収束され問題無いはずだ。




 だが、それが多数になってしまえば――――――――――――――事態が多数となればもう世界の変化は止められない。自浄収束は限界となり、変容していく世界を止める事はできない。世界の損傷は広がっていき、それはやがて致命傷となっていく。






 当然、世界の致命傷は世界の滅びに直結する。






 しかし、彼らがその致命傷に気づく事は無い。






 なぜなら、その致命傷は己にとって全て都合の良い出来事イベントとして現れるからだ。前世では望めなかった幸福な事態が展開され続けるので、それが滅亡に繋がっているなど考えもしないのである。


 なので、彼らは自分の存在が原因という自覚は無い。




 自分が享受している幸福に違和感を持たず、自分が世界をそのようにしてしまっている事実に気づこうとしないのだった。










 神は地球で死んだ者を憐れみ、その者達に祝福を授けて異世界へ転生させた。




 彼らは転生者。




 異世界を謳歌し、無自覚で異世界を変質させていく存在である。

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