とあるモブが探索者の免許を取る話 後編-2

は、早く本編に戻らなきゃいけないのに


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「と、とりあえず、飲み物でもどうぞ」


 二人の座ったテーブルに買ってきた飲み物を置く。二人ともさっきまでとは違い多少は落ち着いているようだ。……こうなるなら放置してフェードアウトしてればよかったか? いや、さすがにそれはないかー。

 ちなみに買ってきた飲み物は三種。ブラック、カフェオレ、アーモンドミルクだ。個人的に二人に合いそうなのをチョイスしてきたのだがどうだろうか。あ、カフェオレは完全に僕の好みだけれど……。


「え? あーんがと」


 そう言ってお姉さんが手に取ったのはアーモンドミルク。

 予想どーり。スレンダーなモデル体型だし肌白いし、美容に気を使ってそうだったからね。アーモンドミルクって美容にいいんでしょ? いやまあ、よくは知らないけど。

 一方の不良君はというと、用意したコーヒーに手を伸ばそうともせず、こちらをにらみつけている。

 なんだよもう、怖いじゃんか。早くコーヒー取っちゃえよ。そうしないと僕が飲めないだろー?


「ふ、不良君も好きなのをどうぞー」


「あ!?」


 仕方ないから再度勧めてやったらすごまれたでござるの巻。


「っぷ。……くっくっく」


 お姉さんはお姉さんで何かこらえるように肩をふるわせてるし、なんなのさ。


「おい、てめぇ。なに笑ってやがるんだ」


 ああ、なるほど。笑ってたのか。笑う姿は百合の花ってなモンで、美人さんは得だわー。何しても華がある。


「あぁ!? てめぇも何とぼけた顔をしてやがんだ。そもそもてめぇの発言のせいだろうが」


 不良君がこっちを指さしにらみつけてきた。なんでさ!?


「だから、子供を指さしてすごむなっての。この子が怯えるでしょ。それに、そんな格好してるんだから不良呼ばわりされてもしょうがないでしょうが」


 あ、なるほど。不良君呼ばわりが駄目だったか。うーん、つい口に出しちゃったがそりゃいけないな。だがしかーし、お姉さんの言の方に一理ある。ベルト一杯の服に指輪じゃらじゃらつけてるのが悪い。うむうむ、だから仕方ないのさ。


「ま、センスとしては悪くないと思うわよ。髪染めてるのも含めてアタシの趣味じゃないけどね」


「っざけんな、てめぇだって同じだろうが」


「ざーんねん、アタシの髪は天然物なの。残念でした」


 お姉さんは、トウヘッドの髪をかき上げる。

 うーん、様になっておる。ていうかお姉さん、その白い髪は天然物だったのかい。生まれからして違うのか、ちくしょう。

 そして不良君、キミは染めてるのか。うん、どちらかというとこちら側の人間だな。そんな匂いを感じるぞ。


「…………ちっ」


 形勢不利を悟ったのか、不良君は舌打ちをし、ひったくるようにしてカップを取っていく。


「ほらよ」


 代わりに投げ渡されたのは銀色のコイン。なんだとー、きさまー。僕の施しは受けられないって言うのかー。

 いいや、そんなことはどうでもいい。問題は不良君が僕の、ミルクたっぷり無糖カフェオレを奪っていきやがった事だ!

 何でそれを取る!! 見た目的に不良君が飲むのはブラックであることは決定的に明らかだろうがー。

 やはり君は敵だ。僕とはわかり合えない存在だったな。

 僕が無言で訴えてると、それが通じたのか不良君は嘆息した。

 よしっ。今ならまだ間に合う。取り替えろ。さすれば許してやろうじゃあないか。


「…………はぁ。秋虎だ」


「?」


 突然何を言い出すんだ、この不良君は。あきとら……、安芸あきの虎……、確か戦国武将にいたような。


「……だから、津江月秋虎つえづき あきとらだ。名前を教えろって目で訴えてただろうが。教えたんだから、もう不良呼ばわりするんじゃねぇぞ」


 そう言って不良君、もといアキトラはカフェオレをあおる。

 あああー。飲みおったー。取り返しのつかないことをしやがったー。

 しかもなんで顔をしかめてるんだよ。おいしいだろうが、それ! マイフェイバリット飲み物なんだぞ。

 ちくしょう、仕方ないからブラックを飲んでやる。いいもんね、これだって二番目くらいに好きだしー。


「ふぅん。なんか古くさい名前だね。ていうかアンタ、もしかして砂糖を入れないとコーヒー飲めないくち? ふふ、この子よりアンタの方がお子様だったりして」


「あぁ!? 頭使うには糖分が必要なんだよ」


「その格好で頭使うとか……。…………はーいはい、もうからかわないって、ごめんって」


 眉根をよせるアキトラを、お姉さんはひらひらと手を振って相手する。


「あ、アタシは茅花五夏つばな いつか。茅の花に五つの夏ね。みんなにはイッカて呼ばれてるから、それでいいわよ。で、キミは?」


 イツカが僕を、ピッと指で差す。うーむ、様になってるね。

 ついでに言うと、アキトラまでにらんできておる。一体全体なんなのさ。


「名前だよ名前、てめぇの名前も教えろよ」


「そ、よかったらお名前教えてくれないかなー」


 おおー、なるほど。そりゃそうだ、言ってなかったわ。ていうか、こんなふうに相手から自己紹介を求められることないからな。すっかり失念してたわー。

 得心がいったのでぽんと手を打った。


「何に納得してんだよ、とぼけてんじゃねぇぞ。つーか早く教えろや」


 なんだとこんにゃろー。そんな悪態つくようなら、また不良君呼ばわりするぞ。あーこらー。

 ……だがここは我慢だ。相手の土俵に降りるわけにはいかない。大人のよゆーってやつを見せてやろうじゃないか。


「僕の名前は冬悧、八鳥冬悧はっとり とうりだよ。一応、念のために言っておくけど二十歳だからね」


「んなこたぁ、言われなくてもわかってるっての」


 アキトラ君は、何を当然のことをというようにため息をつく。

 おうともさ、世界が皆キミのようなら平和なんだけどさ、向かいに座るイッカのお姉さんを見て見ろ。まさに唖然という表情でこっちを見てるだろうが。これが世界の現実なんだよー。

 折に触れてアピールしておかないと、みんなすぐに子供扱いしてくるからな。

 ていうかイッカ君や、その表情さっきも見たぞ。いい加減観念しろ。なんならさっき取ったばかりの免許見せてやろうか? おお?


 僕は無言で探索者免許を取り出し、イッカの目の前に突きつける。

 彼女は免許と僕の顔を二度見三度見、四度見、五度見……、って多いわ!

 ……まあ、何度も見返して、やがて観念したのかこめかみを押さえてため息をついた。


「……はぁ。確かにホントみたいね。未だに信じられないけど」


 なんでさ!? 物的証拠だぞ、決定的証拠だぞ。信じろよ!


「だからさっきから俺はそう言ってただろうがよ……」


「うっさいわね。アタシは今世の不条理をかみしめてるの。キトラ、アンタは黙ってて」


「――!」


 ……キトラ? もしかしてアキトラのことか? 突然の言い様に本人は絶句してるぞ。


「とりとりもごめんねー。ついつい見た目で子供扱いしちゃったよ。よしよし」


 そしてその『とりとり』って言うのは、もしかして僕のことか? イッカ、あだ名つけるの早過ぎんよ。

 あと、なでてくんな。それ、明らかに子供扱いだろうが!


「……その、キトラって言うのは、もしかして俺のことか?」


 おっとアキトラ、もといキトラが再起動してきたな。


「そそ。頭が真っ黄っ黄で虎だからキトラ。んで、とりとりは小鳥みたくてちっちゃいからとりとり。ぴったりでしょ?」


「黄色じゃねぇよ、金髪だっての。……まぁ、てめぇが俺のことをなんと呼ぼうがどうでもいいけどよ、いくら小さくてもそいつは成人してるんだからよ……」


 お、キトラがいいこと言った。そうだそうだー、言ってやれ言ってやれ。ちっちゃいからとりとりとか安直かつ横暴だぞー。


「……いや、小さいのは事実だったな。ならそれでいいか」


 う、裏切ったな貴様ーーー! また心の中で不良君呼ばわりしてやるぞ、ちくしょうめ。


「ふぅん、キトラってば見た目の割に物わかりがいいじゃない」


「……はっ」


 不良君は鼻で笑ってカフェオレを口に含み、そうして顔をしかめた。そんな不良君をみてイッカは小さく笑ミルクに口をつける。

 なーんか、僕抜きで話が進んでいきそうな雰囲気なんですけどー。いいもんね、僕もコーヒー飲むし。

 ちびちびとカフェインを摂取しながら二人の会話に耳を傾ける。


「それで、なんでキトラはとりとりにちょっかいかけてたのよ。端から見たら犯罪だったわよ」


「――あ!? あー、……ああ」


 声を上げたキトラだったが、僕の姿を見てガリガリと頭をかく。

 おう? なんで僕の顔を見て納得したのさ。キトラの悪人面の方がたち悪いだろうが。おおん?


「ちっ。だからさっきも言ったように、コイツに聞きたいことがあっただけだっつーの」


「コイツとか言わないの。この子はとりとり。でもってアタシはイッカ。、わかった? ……で、その聞きたい事ってなんなのよ」


 さらっととりとり扱いを決定づけおった……。だが確かに気になる。結局聞きたい事ってなんなのさ。僕みたいな地味地味に答えられることなんて少ないぞ。……座学の成績も悪いし。


「コイツ……、ああいや、とりとり? だったな。とりとりと一緒に行動してた女がいるだろ。そいつの話を聞きたかったんだよ」


「やだ、ストーカー?」


 思わずと言った調子でイッカが声をもらすが、僕も完全に同意である。


「ちげーよ。おい、とりとり、てめぇも変な目で見るんじゃねぇよ。……お前と一緒にいたあの女、今回の成績トップだろう? ダンジョン潜るんだったら、どうせなら成績いい奴らと潜りたいからな。その辺の話をとりとりとしようと思って声をかけたんだよ」


「うーん、やっぱストーカーっぽいよ」


「だからちげぇって言ってんだろうが。オレたちゃダンジョンに潜るんだぞ。残機があるとはいえ命がかかってるんだ。昨日の実技で、ちっとでも動ける奴を見とくのは当然だろうが。色々と動きのいい連中はいたが、その中でお前らは抜群だった。パーティ組む組まないはともかく、今日潜るんだったら一緒したかったしな。それに……、朝は二人でいたのに今は一人なのも気になったんだよ」


「…………う、うーんやっぱり」


 イッカはこめかみを押さえて悩んでるが、僕としては何となく事情は理解した。

 つまりキトラはハナに用事があったわけだな。だから彼女の親友、そう親友である僕に話を持ちかけてきた訳か。

 なるほど、そういう事なら納得だ。むしろ無視しちゃって申し訳ない。

 お詫びにと言いたい所なんだけど、話せることはないんだよねー。


「詳しいことは省くけど、波凪はな……、ああ成績トップの子ね。波凪は今日ここには来ないよ。ていうか、事情があってすぐにダンジョンに潜るとかは無いと思うね」


 物理的に遠いからなー。ていうかそれがなかったら僕が一緒するわ。親友は渡さん!


「あー……、ならいいや」


 キトラは頭をかいてそう答える。

 なんだ、意外にあっさり引き下がったな。てっきりもっと食い込んでくるかと思ったよ。まあ、だからといって我が親友の連絡先は渡さんがな。


「とりあえずとりとり、今日のクラス取得の講習、てめぇも一緒に受けるぞ」


「……は!?」


 突然何を言い出すのだ、このヤンキーは。もしかして脳細胞まで黄色に染まったか?


「は? じゃねぇよ。わざわざ今日のうちにダンジョンまで来たんだ。てめぇもクラス取得の講習を受ける気なんだろうが」


 ぐ……、確かにそうだけど。こやつ、見た目の割に頭が回りおる。


「どうせ今の時間に講習の申請をする奴は少ねぇ。別々に申請しても一緒のパーティになっちまうんだ。なら最初はなからまとめてた方が面倒がなくていいだろうが」


「ふーん、そういう事ならアタシも一緒しちゃおうかな」


「……あ!?」


 イッカまで参加表明をしてきおった。キトラの視線にも物怖じしない。僕なら逃げてるぞ。


「キトラも言ってるじゃん。今から別々に申請しても一緒のパーティになるんだからまとめた方がいいって。そ・れ・に、成績も悪くないよ。昨日の実技を見てたならわかってるとは思うけど」


「…………ちっ、好きにしろ」


 おい、僕だって当事者だぞ。なのに僕を無視して話を進めていくんじゃないやい。僕はいいとも否とも答えてないんだぞ。


「あ、一応これ成績ね」


 イッカが今日交付された免許の裏側を提示する。そこには座学を含めた全部の成績が記されていて、そのすべてが好成績だった。

 ……なんだこいつ……。ハナには及んでないとは言っても、なんなんだこの完璧超人は。やはり貴様、もてる者だったのか。


「……ほらよ」


 イッカに答えるように、キトラも免許を投げてよこす。

 しかして、その成績はなかなかにいびつだった。とはいえ座学を含めてなかなかの好成績を保っている。ていうか筋力すごいなー。完全に近距離パワー型だわー。


「昔、足をやってな。持久力が大分ねぇ」


 いうてそれも平均はあるじゃん。なんだよー、キトラももてる者なのかよー。ちくしょう、こっち側だと思ってたのに、騙された。

 しかもなんだこの流れ、これは僕も成績を開示する流れなのか? くそ、同調圧力には……、同調圧力には……。


「ぼ、僕の成績は……」


 片付けていた免許を再度取り出す。く、屈してしまった……。


「あ? てめぇはトップの女の下だっただろ? もう分かってるからいい」


「まあ……、そうだね」


 ぐぬぬ、二人して僕の勇気を踏みにじりやがった。ちくしょう。

 しかもこのあと、トントン拍子でこの三人で講習を受けることになってしまった。


 どうして……、本当にどうしてこうなった。

 ハナ、カムバーーーック! ヤンキーゴーホーム!


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戦闘まで行き着かなかった……

次でモブのお話は終わる予定……、予定……、予定

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