猪竜

芋に似た植物の地下茎を懸命に貪る猪竜シシに、ジャックがいるオオカミ竜オオカミの群れの成体おとな達がじりじりと近付いていく。決して急がない。慌てない。焦ってこちらの包囲網が完全に完成するまでに気付かれて反撃を受ければ非常に危険である。ラーテル竜ラーテルの時よりも大きな犠牲が出る可能性が高い。ゆえに慎重になる。


野生の獣は臆病で慎重だ。人間はすぐ獣を下に見るが、人間は素手ではほとんどの野生の獣に敵わない。はっきり言って、今のジャックででも、武器も持たず何の準備もしていない人間など、ほとんど何もさせることなく殺すことができるだろう。


人間という生き物は、知恵や知能を活かせなければその程度の存在なのだ。


しかし、身一つであれば人間よりも圧倒的に強いオオカミ竜オオカミでさえ、猪竜シシが相手では勝つのは容易ではない。だからしっかりと準備し、確実に勝てるように努力をする。むしろそれを怠っても勝てるような存在は滅多にいない。


人間だけだ。相手を侮ってイキがるような生き物は。


無論、それをわきまえて対処する人間もいるので、絶滅させられたりはしないが。イキがっている人間は、そういう者達が自分を守ってくれているから安全なのところからそうやってイキがれるのだとわきまえるべきだろう。


また人間は、


『可愛いから食べられない』


などと寝言を口にするが、そんな戯言、野生の獣にはまったく通用しない。例えばオオカミ竜オオカミの子供達は可愛いそぶりも見せるが、


『可愛い~♡』


などと言いながら人間が近付いてくればたちまち襲い掛かり、殺してしまうだろう、そしてその命をいただき、自分達の命を繋ぐだろう。『生きる』というのはそういうことだ。


『可愛いから食べない』


のではない。命をいただき自らの命を繋ぐという事実に敬意を表することができるのが<人間という生き物の特徴>ではないのか?


相手が可愛かろうが弱そうに見えようが、獲物となれば確実に相応の対処をする。オオカミ竜オオカミはそれをわきまえている。そんな成体おとな達の姿を見て、ジャックもオオカミ竜オオカミとしての生き方を学んでいく。


猪竜シシのような危険な相手に対してどう挑むのかを、今、学ぼうとしている。


やがて成体おとな達は包囲を完了した。今回の猪竜シシはどうにも迂闊な個体だったようだ。だが、油断はしない。確実に倒すことを目指す。


その時、ようやく猪竜シシオオカミ竜オオカミの包囲に気付いた、


「ブキイッ!?」


慌てて逃げようとするが、その脇の草むらから飛び出したオオカミ竜オオカミが首筋に食らい付く。


が、


「ブギャアッッ!!」


猪竜シシは猛然と体を振って、そのオオカミ竜オオカミを振り飛ばしたのだった。


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