第3話 人形使いクビになる

待機所に入室したわたしを、団長がが険しい顔つきで見つめていた。




「来たか、ドロシー。まぁ、座ってくれ。」


「失礼します。」




わたしは室内にあるボロ椅子の中で、一番きれいで頑丈そうなものを選び、そこに腰かける。


一番ましなものを選んだつもりだったが、それでも椅子の足がぎぃぎぃと悲鳴をあげる。




「相変わらずぼろいっすねぇ~ここの部屋。」


「まぁな、俺らみたいな弱小パーティーに貸してもらえる部屋なんてこんなもんさ。」


「ふ~ん。」




わたしは椅子に腰かけたまま、ぐるりと部屋を見渡した。


部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、薄汚いコンクリートの壁には変な模様の染みが浮かんでいる。


ここがわたしたち「朱の旅団」にあてがわれた待機所である。




ギルドに正式に登録されたパーティーには、このような待機所が与えられる。


待機所のランクはパーティーの戦績や収益、ギルドへの貢献度で決められる。


わたしたちに与えられたのは、最下等のこの部屋だった。(もとは物置き部屋だったらしい。)




ただ、あまりにも汚いので、この部屋を使うことは少ない。


わたしたちは普段、行きつけの酒場などで作戦会議をしているのだ。




「ここにくるのも久しぶりっすね~。」


「そうだな。」




「で、話ってなんすか?」


「あ、あぁ、……それなんだがな……。」


「……?」




団長はどこか歯切れの悪そうな調子で話し始めた。


「実はお前に、パーティーを辞めてほしいんだ。」


「……はい?」




一瞬何を言われたのかわからなかった。


しばらくおいてから、脳がようやく事態を理解し始める。




「わたしがクビ?なんで?!」


当然の疑問だ。わたしがなにかしただろうか?パーティーの各種支援はきちんとこなしているし、犯罪行為に加担したこともない。(犯罪スレスレのことは何度かやったことはあるけど)


自分で言うのもなんだが品行方正で善良な冒険者である。




しかるに団長の答えはひどく簡潔なものだった。


「人件費の削減のためだ。」


「人件費?」


「うむ。今から詳しく説明してやる。」




団長の説明によるとこうだ。


なんでも、ギルドへの上納金の最低限度額が、来月から値上がりするらしい。


しかも先週末、急に決まったとのこと。




正直、今のパーティーの稼ぎでは上納金を収めるのは難しい。


人員を減らし、経費を削減するしか方法はない。


団長は副団長と協議した結果。パーティーで一番若いわたしに白羽の矢がたったということらしい。




「パーティーのなかじゃお前が一番若い。その歳ならいくらでもやり直しがきくだろう。しかし、他の奴らはそうじゃない。やり直すには年を取りすぎてる。次がないんだ。」




「……団長……。」


「言いたいことはわかる。しかし、俺達にはこれしかないんだ。頼む。分かってくれ!」




団長が真剣な表情で頭を下げる。目の端には涙さえ浮かんでいる。


団長がこういう顔をするときは、決して自分の意見を曲げたりしない。


わたしが折れるしかないのだろう。




「……わかりましたよ。頭を上げてください。」


「……わかってくれるか。すまんな……ほんとうにすまん!」




団長は涙を袖で拭いながら頭を上げた。


「退職金ぐらいでますよね?」


「もちろんだ!……あまり多くは出せんが……。」




こうしてわたしは、4年の長きにわたり所属していたパーティーを、本日クビになったのだった。




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