第5話 久しぶりに会うレオは失礼な奴でした

お父様にエスコートされ、スタンディーフォン公爵家の中へと向かう。




「ようこそお越しくださいました。ミューティング公爵様、ミシェル嬢。会場は中庭でございます。そのままお進みください」




玄関の前で待っていた執事に案内され、中庭へと向かった。スタンディーフォン公爵家の嫡男の誕生日パーティーという事もあり、沢山の貴族が集まっている。




とりあえず本日の主役でもある、アレックスにまずは挨拶をしに行った。




「アレックス、15歳の誕生日おめでとう」




お父様がアレックスに声を掛ける。




「ミューティング公爵、よく来てくれましたね。奥に父もおりますので、どうぞゆっくりして行ってください」




私も挨拶しないとね。




「アレックス様、本日はお招きいただき、ありがとうございます。そして15歳のお誕生日、おめでとうございます」




最近マナーレッスンで身に付けた、渾身のカーテシーを決めた。私の挨拶に目を丸くするアレックス。それもそうだろう。以前の私は挨拶すらろくに出来ない、おバカ令嬢だったのだ。




「やあ、ミシェル。しばらく見ない間に、少しは令嬢らしくなったね。それでもまだカーテシーが少し曲がっていたよ。もっと練習しないと」




こいつ!私の渾身のカーテシーに向かってケチをつけるなんて!いけないわ、ここは抑えるのよ、ミシェル!込み上げる怒りを必死に抑えた。




「ミシェル、あっちにレオもいるから、挨拶してくるといい。きっとびっくりするよ」




アレックスが指さした方を見ると、居た!レオだわ。最後に見たレオに比べると随分小さいが、間違いなくレオだ。当たり前だけれど生きている!嬉しくて涙が込み上げてきた。




「アレックス様、お父様。私はこれで失礼しますわ」




2人に軽く会釈をし、急いでレオの元に向かった。他の貴族令息と楽しそうに話しているレオ。今ここで話しかけると迷惑かしら?そう、最近はまず相手の立場に立って物事を考えると言う訓練をしている。




そのため、行動に起こす前に一度立ち止まって考える、この習慣を身に付けているのだ。でもここまで来たし、声を掛けてもいいわよね。




意を決してレオ達の方に近づいて行き、声を掛けた。




「お話し中のところ失礼しますわ。レオ、お久しぶりね」




私が声を掛けると、ゆっくりこっちを向いたレオ。燃えるような赤い髪に、美しい金色の瞳と目が合った。こうやって見ると、レオってとても男前ね。どうして1回目の生の時、私は彼の魅力に気づかなかったのかしら。




そう思っていた時だった。




「あれ、ミシェル?どうしちゃったんだよ、お前。随分やせ細っちまって!前まで子豚だったのに」




私の顔を見るなり、体のあちこちを触って来るレオ。それに子豚だと?こいつ!!!そうだ、思い出した。こいつめちゃくちゃ口が悪かったんだわ。それに私の事、全然令嬢扱いしなかったから、つい私も男として見れなかったのよね。




「レオ、誰が子豚よ。私頑張って痩せたの。今は勉強だって頑張っているのよ」




「お前が勉強?どうしたんだよミシェル、頭でも打ったのか?おい、誰か医者を呼んでくれ、ミシェルがおかしいんだ!」




真顔で叫ぶレオ。




「ちょっと、止めてよ。私はどこもおかしくないわ。だからお願い。止めて!」




暴走するレオを必死に止めた。




「とにかく、おじさんに報告しよう。ほら行くぞ、ミシェル!」




私の腕を掴んでお父様の元へと連れて行くレオ。相変わらず失礼な奴ね。1回目の生で、私を命がけで守ってくれた素敵なレオは、一体どこに行ってしまったのかしら?




でも…


こうやって腕を掴まれて早歩きしている姿って、私を守ろうと必死に逃げている時と被る。そう思うと、なんだか胸がドキドキする。




そうしている間に、お父様の元にやって来た。どうやらお父様は、レオのお父様とおしゃべりしていた様だ。




「おじさん、ミシェルが大変なんだ。どうやら頭をどこかにぶつけた様なんだ!」




「何だって!ミシェル、大丈夫かい?一体どこでぶつけたんだ?」




レオの言葉を間に受けたお父様が、慌てて私の側に駆け寄ってきた。




「お父様、私はどこもぶつけていないわ」




呆れながらそう呟いた。




「でも、今レオが…」




「だっておじさん。子豚みたいだったミシェルがこんなにやせ細っちまったし、それに今は勉強を頑張っているって言うんだぜ。絶対頭を打ったに決まっているよ!」




レオの言葉を聞き、苦笑いするお父様。




「レオ、心配してくれてありがとう。でもミシェルはどこも頭を打っていないよ。令嬢として目覚めたんだよ。だから、温かい目で見守ってあげて欲しい」




お父様がレオを説得するように優しく語り掛ける。




「ミシェルが?令嬢として?あり得ないだろう、だってミシェルだぞ!」




私を指さしながらお父様に訴えるレオ。本当に失礼な奴ね。


と、次の瞬間。




ゴン




「いってぇぇ!」




レオに鉄拳をくらわしたのは、レオのお父様だ。




「レオ、お前いくら何でも、ミシェルに失礼だろう!それにその言葉遣いはなんだ!お前は一応公爵令息だ。言葉遣いに気を付けろ!ミシェル、レオがすまなかったな。気を悪くしないでくれよ」




「お久しぶりです、おじ様。確かに今までの私の行動を見ていれば、レオが信じられないのも無理はないですわ。だからどうかレオを怒らないであげてください」




私の言葉に、目を丸くするレオのお父様。




「おい、本当にミシェルは変わったみたいだな」




と、小声でお父様に呟いたおじ様。ばっちり聞こえているけれどね。




「だから言っただろう。ミシェルは最近好き嫌いもしなくなったし、勉強もダンスも頑張っているんだ」




お父様が得意げに話す。するとおじ様が何を思ったのか、ニヤニヤしながら近づいて来た。今度はなんだ?




「ミシェル、まさかお前、好きな人でも出来たのか?女は恋をすると奇麗になるって言うもんな」




その言葉を聞き、一気に顔が赤くなるのが分かった。




「やっぱりな」




おじ様がニヤニヤしている。




「おい、ミシェル、それは本当なのか!おい、誰だよ!言えよ」




なぜかお父様ではなく、レオが私に詰め寄ってきた。さすがに“あなたです”なんて言える訳がない。




「別に好きな人なんていないわよ」




そう言うと、レオにそっぽを向いた。




「クソ、誰だよ!」




なんだか面倒な事になってきた様なので、ここから離れよう。そうだわ、今日の目標の1つでもある、友達を作るを実行しましょう。そう思い、歩き出したのだが…






「おい、ミシェル。待てよ!お前本当に好きな奴がいないのか?」




レオが付いて来て、何度も聞き返す。しつこい奴め。そう言えば、1度目の生の時、私が第二王子と婚約を決めた時も“止めておけ”と、必死に止めて来たな。もしかして、第二王子が危険な人って知っていたのかしら?






「おい、ミシェル!聞いているのかよ!」




もう、うるさいわね!




「いないって言っているでしょう!しつこい!」




ついレオに怒鳴ってしまった。でもこれはレオが悪い。だってしつこいのだもの。




「それならいい。よし、食事に行くぞ」




私の腕を掴み、今度は料理が並んでいるスペースへとやって来た。次から次へと料理をお皿に取り、席に着く。




ちなみに飲食スペースとして、いくつか机とイスが準備されていた。




「さあ食べろ。いっぱい食べろ。とにかく食べろ!」




なぜか私にたくさんの食べ物を進めて来るレオ。さすがにこんなには食べられないわ。でも、せっかくレオが入れてくれたのだから、食べないとね。




1口サイズに切り分け、ゆっくり口に含んでいく。それを見て目を丸くするレオ。




「どうしたんだよ、ミシェル。そんなにお上品に食べて。いつもなら犬みたいにガツガツ食べるお前が」




「犬みたいは余計よ!マナーの授業で食べ方も習ったの。令嬢として当然でしょう」




「やっぱりミシェルが変だ…」




そう呟くレオ。その後もなぜかレオがずっと側にいたので、この日は友達を作る事が出来なかった。と言うより、レオと最初に話したアレックス以外、令嬢や令息と話す事すらできなかった。




でもレオと一緒に居られたのなら、ラッキーよね。相変わらず失礼な奴だけれど、やっぱりレオはカッコいい。




もっともっと奇麗になって、勉強やマナーをマスターして、レオの隣に立てる素敵な女性になろう。帰りの馬車に揺られながら、そんな事を考えるミシェルであった。

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