先生、好きです!

織山青沙

第1話 きっかけ

「どうしよう……遅刻する……」


冬服から夏服へ衣替えが始まった5月下旬、セーラ服に身を包んだ女子生徒が家を飛び出した。


「なんでお母さん起こしてくれなかったの……」


走りながら彼女は呟いた。


母はなかなか起きない彼女を起こそうと努力をした。だが、なかなか起きずこの時間になったようだ。


SHR(ショートホームルーム)が始まるのが8時35分。


その為、8時30分までには教室に着かなければならない。


急いで最寄駅まで向かい電車に揺られること10分──高校の最寄駅に着いた。


通常ならここから学校まで徒歩15分だ。


だが、現在の時刻は8時24分──改札を出るなり走り出した。


学校に着くまで走り続け、8時31分に昇降口にたどり着く。


彼女はそのまま階段を3階まで駆け上がった。


だが、教室まであと一歩というところで──


ドサッ


「いった……」


──転んだのだった。


ここまで走ってきた疲れなのか、たどり着いた安堵からなのか……足がもつれた。


「山科さん! 大丈夫?」


SHRに向かうため、反対方向から来た2年2組担任の神林(カンバヤシ)にその瞬間を目撃された。


そして彼女……山科 柚愛(ヤマシナ ユア)の元へ駆け寄った。


「山科さん大丈夫?」

「はい……大丈夫です」

「立てそう?」

「はい……いたっ……」


神林はしゃがみこむ柚愛に手を差し出す。


だが、柚愛は足を捻ったようで立ち上がることができなかった。


「そっか。痛いよな……。ちょっと待っててな」


神林は柚愛にそう声を掛けると教室へ入って行った。


ガラッ


「遅くなってごめんな。おはよう」


神林が教室に入り挨拶をすると教室にいた生徒たちが口を揃えて挨拶をした。


「ちょっと先生急用があるから、SHR手短にするな」


神林は出欠確認を済ませ教室を後にした。


「お待たせ」


座ってるいる柚愛に目線を合わさるように神林はしゃがみ声をかけた。


「痛いのは足だけ?」

「はい……」

「そっか。……ちょっとごめんな」

「……え、えっ! お、降ろしてください!」


神林は足を痛めた柚愛を抱きかかえ保健室へ向かった。


その抱え方とは……いわゆるお姫様抱っこだ。


2年生の教室は3階、保健室は1階の為、神林は柚愛を抱えたまま階段を降り保健室に入って行った。


「あら神林先生。どうしたんですか?」

「山科さんが転んで足を痛めたようなのでお願いします」

「分かりました。ここのベットに座らせてください」


神林は保健室の先生、芳村(ヨシムラ)の指示通り窓側のベットに柚愛を座らせた。


「捻挫かな? 湿布と包帯で固定しておくので必ず病院に行ってちょうだいね」

「はい……」

「親御さんは誰か迎えに来れる?」

「……お母さんが来てるくれると思うので頼んでみます」

「お願いね」


柚愛はスマホのlimeで母に迎えを頼んだ。


しばらくすると柚愛の母が迎えに来て、2人一緒に帰宅して行った。


柚愛が居なくなった保健室では、神林と芳村の2人きり。


「山科さんを抱えて保健室につれてくるなんて神林先生は優しいわね」


芳村は羨ましそうに、そう口にした。


「そんなことないですよ。たまたま、僕が目撃したものですから」

「じゃあ、あたしが転んだ時もお願いね」


芳村はそう言うと不敵に笑った。


「怪我すると危ないので転ばないでくださいね」


神林は苦笑いをし、芳村が言った言葉には否定も肯定もしなかった。



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