蓬埜文庫(私の読書文化史・外伝)

蓬葉 yomoginoha

6月(2021年) 新書類

 単純明快、読書記録です。ちょっとだけ内容にも踏み込みます。

 名前は何でもよかったのですが、蓬葉よもぎのは文庫だと何かなあという感じだったので、よもぎの文庫、漢字にして蓬ノ文庫、ノをなんとなくにかえて、「蓬埜文庫」としました。


 ちなみに私は、目標として、月4冊以上を読破するとしています。ここには漫画と小説は含みません。じゃあが何入るん? ということですが、簡単に言えば新書類です。中高生の方がこれを見ているかわかりませんが、わかりやすく言うなら、説明文・評論みたいなものです。


 一応、週に一冊を目安にしているので月4冊です。

 


 では今月読んだ本をここに置いていきましょう。


目次

①中西嘉宏『ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相』 中公新書(中央公論新社、2021)

②古川隆久『近衛文麿このえふみまろ』 人物叢書 (吉川弘文館、2015)

③茶谷誠一『牧野伸顕まきののぶあき』 人物叢書 (吉川弘文館、2013)

④橋本義彦『源通親みなもとのみちちか』 人物叢書 (吉川弘文館、1992)

⑤藤原聖子『宗教と過激思想』 中公新書(中央公論新社、2021)



[新書・選書など]

①中西嘉宏『ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相』 中公新書(中央公論新社、2021)

→5月に読了した根本敬『物語 ビルマの歴史』に続いて、ミャンマーに関連する本。

 ミャンマー西部に住むイスラーム系移民ロヒンギャは、国内で迫害はくがいを受け、現在も非常に多くの人々が難民としてキャンプに住んでいる。2017年には国軍による掃討作戦が行われた。場所によっては虐殺までも実施され、さらに深刻な事態となったが、当時政権のトップにいたアウンサンスーチーは虐殺を否定した。ノーベル平和賞を受賞したことでも知られる彼女がなぜそれを否定するのか、限られた資料の中から考察した本。


②古川隆久『近衛文麿このえふみまろ』 人物叢書 (吉川弘文館、2015)

→日本文学(古典)を専攻としている私は、卒論のための資料を探すために大学図書館の書庫に入ったのだが、その時に目に入った一冊だった。もちろん、卒論とは無関係である。


 近衛文麿は戦前に、三次にわたって総理大臣を務めた人物である。日本史を勉強した経験があれば覚えている人物であろうが、叱責しっせきを恐れずに言うなら、恐らくあまりいい感情は抱かない人物ではないかと思う。というのも、国家総動員法の制定や大政翼賛会設立などの、ある種「戦前のあやまち」とでもいえる政策を行った内閣のトップだからである。


 日本史大好き人間の私は、極力歴史人物に対して好き嫌いを作らないようにしているが、近衛に関してはあまりいい感情は持っていなかった。

 この本を読了した今となっても、その評価は大きくは変わっていないが、一つ認識を改めねばならないと思ったのは、近衛は決して信念のない人物ではなかったということである。軍部や側近、他の閣僚など、周りの勢力のいうことに唯々諾々いいだくだくと従って、いわゆる八方美人だったという評価もあるが、必ずしもそうではなかった。その信念(思想)は納得のいくものではあったし、戦争責任はあるとしても、一概に悪人としてしまうのは的外れかもしれないと感じた。


③茶谷誠一『牧野伸顕まきののぶあき』 人物叢書 (吉川弘文館、2013)

→見つけた経緯は②と同じ。

 牧野伸顕を知っている人はかなり歴史通だと、著者の茶谷さんはおっしゃっています。


 牧野は、大正から昭和初期にかけて政治家、内大臣として活躍した。当時、天皇の側近である内大臣は、政局にも関与する職だったため、相当神経をすり減らしただろうと思われる。現在ではあまり知名度は高くないものの、戦前、あるいは終戦直後の日本では、引退後も老練ろうれんの政治家として重視されていたらしい。

 ちなみに、父は明治の英傑えいけつ大久保利通。義父は明治時代に数々の県令や、警視総監を務めた三島通庸みしまみちつね。娘婿は戦後の総理大臣、吉田茂。曽孫は、現財務大臣で元首相の麻生太郎氏。


④橋本義彦『源通親みなもとのみちちか』 人物叢書 (吉川弘文館、1992)

→見つけた経緯は上ふたつと同じ。ただし、こちらは専攻の関係もある。

 卒業論文を作るためにいろいろな資料に当たっているが、ほぼ必ずこの本が参考文献に上がっていた。そのため、手に取ってみた次第である。


 知っている人はまずいないと思うので簡単に言うと、平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した公卿くぎょうである(「源」姓だが、鎌倉幕府の将軍家である源氏とは近い意味での血縁はない)。承久じょうきゅうの乱を起こすことになる後鳥羽上皇が天皇だった時代に活躍し、ライバル九条くじょう兼実かねざねを追い落として政治の実権を握った。娘が後鳥羽に嫁ぎ、生まれた子供は土御門天皇として即位した。藤原氏ではないため、摂政せっしょう関白かんぱくにはなれなかったが、朝廷内での権勢はとても強いものだったため源博陸げんはくろくと呼ばれた。ただし、1202年、急死した。


⑤藤原聖子『宗教と過激思想』 中公新書(中央公論新社、2021)

→こちらは、興味による。

 いわゆる過激思想と呼ばれるものがある。では「過激」とは何か。ひとくくりにはできないそういった思想について、各宗教の「過激」思想やその中心となった人物に触れながら解説していく。


 キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教など、主要な宗教における「過激」思想を説明した本だった。個人的には、「チベット仏教」における抗議の焼身自殺についての部分が衝撃的だった。また、血盟団けつめいだん事件についての分析も興味深かった。

 ①の、ロヒンギャ問題とあわせて考えると、宗教が民族や政治と結びついたときには、さらに複雑さを増すのだろうと思った。

           


 (漫画編に続く)



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