第2話

あれからどれだけたったろうか。

…まだうつ伏せ状態なんですけど?

感覚はあるけど、体を動かすことができないでいる。

地面に顔右半分ついたまま。

両手は受身もとらずに、体の横に添えたまま。

端から見たら何してんの?私。

感電するってこんななの?

声も出せない。


誰か通らないかな!?

王宮庭園なので、限られた人しか通らないのだろう。

2人の王妃様に4人の王子にお付きの人達、庭師さん達位?あと今は来てないけど外国の賓客?

特にここ、どこ?

いつもはこちら側までこないから、どこら辺かよくわからない。

王宮庭園はお城の真ん中にある庭園で環状の遊歩道がある。

第3王子にあんまり待たされてるから、いつも来ない西側の方まで来ちゃったよ。


さっきから随分時間がたった気がするけど、誰も通らない。

こんな姿、誰かに見られたらそれはそれで困るんだけど背に腹はかえられない。誰か来て!


私が庭園で第3王子を待ってるって伝え聞いてる筈の本人!第3王子!!探しに来なさいよ!

ばか。あんたのせいだ!責任とって迎えにこい!

と、

地面が揺れる。誰かが歩いてくる震動。

第3王子?

辺りを見回したいけど、目も動かせない。

近づいてくる気配。にしても地響きみたい。

なんなの?熊?ちょっと怖いんですけど!?

こんな状態で、熊にあったらどうなっちゃうのよ。

死んだふり、しなくても死んでるみたいだから大丈夫なのか?


『あら?人形?』

女の人の声が真上からして、おもむろに持ち上げられた?

なーぬー?


人形?どこよ、そんなの?

私を片手で持ち上げらるなんて、なんて怪力女なんだ?

と、くるっと向きが変わり、顔が見える。

まぶしい!

私を持ち上げたのは、甘い香りのする、侯爵令嬢だった。


第2王子のオトモダチの1人、侯爵令嬢。

綺麗な長いチョコレート色の巻き毛にチョコレート色の瞳。私と違ってナイスボディの綺麗なお姉さん。

巨大化してるけどね!

侯爵令嬢は私をまじまじと見て。


私を右手に持ったまま、歩き出した。

私は混乱してるよ!

なんなんだ?

私から見えるのは、よく晴れた空と侯爵令嬢の顔

に、道沿いの生垣、お花。花と令嬢の大きさとは違和感がない。ということは私が小さくなってる?って事?

令嬢はしずしずと歩いてるのだろう。

でも、私にとっては凄い衝撃。歩く巨人に持たれてるからね。一歩歩くたびにズドンズドンて感じよ。


人形って、さっきの感電のせい、としか考えられないよな。魔法か呪いか、とにかくあの稲妻のせいで、私は人形にされちゃったんだ!

誰だったのか、姿は見せずに話も聞かないで突然稲妻打ってくるなんて、怖。

とりあえず死んではいないよね?

どうすれば元に戻れるんだ?

…戻れるよね?

相変わらず体に力が入らない。けど、令嬢の手の感触は、ある。私の体が冷えきっているからか、あったかくって気持ちいい。

令嬢とは特に話した事はないけど、好印象。

なんていったって私を拾い上げてくれたからね。

焼き菓子のいい匂いするし。

おなかすいてきちゃったよ。


『!』

急に歩く速度が上がった。

小走り。

『第2王子、これ。よろしければどうぞ』

ひそひそとささやく様な小声。

えー、これ聞こえた?私は勿論聞こえたけど、聞こえてないんじゃない?って位のボリューム、ぼそぼそと早口だったし。


第2王子は、かけられた声というより、気配に気づいた感じで振り向き、にこりと微笑む。

『いつもありがとう。』と小さなかごを受けとる。

『?』

令嬢ー?令嬢は小さなかごを両手で持っていて、顔を伏せて、差し出していて…。このかごにいい匂いのブツが入っているのね。右手に私を持ったまま、私ごと差し出していた。

第2王子は私ごと受け取る。

『人形?』

第2王子は私をまじまじと見る。

ちょっと。

イケメンにこんなに近くで見られて恥ずかしいんですけど。

さらさらの長い銀に近い金髪に優しげな深い青い瞳。

優美な長い指で、私の乱れた前髪を直して

『あれ?白薔薇姫に似てるね』

って、ドキドキするじゃないか!!

侯爵令嬢は私まで一緒に渡したことにやっと気づいたようで

『そ、そこの薔薇の垣根の、ち、近くで拾ったんです…』と先ほどと同じ位のトーンで話す。

聞こえた?第2王子?

令嬢は真っ赤になって、彼の顔も、まともに見れてない。多分靴の先辺りをみてるんだろう。


第2王子はくるりと私を手のひらの上でひっくり返して、髪を撫で揃えてくれた。

『学園の制服まで着て、リアルだね。』

『白薔薇伯爵令嬢のお持ち物でしょうか?』

『いや。第3王子のものかもしれない。彼は白薔薇ちゃんが大好きだからね』

とクスリと笑いながら言う。

第2王子~、私と第3王子が仲良しだったのは昔の事なんだからね?

知らないだろうけど、学園に入学してからは全然仲良くないんだから。何でかしらんが。

『とりあえず僕から渡しておこう』

と第2王子は、自分の左の胸ポケットに私をいれた。

良かった、胸から上が外にでてて。これで窒息はしないわ。

さっきより少し落ち着いてきた様子の侯爵令嬢が私を、じっと見下ろしてる。

『白薔薇伯爵令嬢が羨ましいですわ』

とまた小声で言う。

なーにが羨ましいんだ?私はこんな状態なのに?

もうおうちに帰りたいよ。固まった体をお風呂でゆっくりほぐしたい。

て、ゆーか、私はもとに戻れるんでしょうか??

魔法だか呪いだかはどうすればとけるのか?

かけた本人が、誰かもわからない状態で。

急に不安になってきちゃう。ずっとこのままだったらどうしよう?

冷や汗がでちゃうような場面だけど、もちろん何もでてはこない。私は今、人形だから。

侯爵令嬢の視線に、気が重くなっちゃう…。



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