第15話 本当に胸騒ぎが収まらない

「先生、八巻やまきさんが欠席した理由は知ってますか?」

「お? B組の三隅みすみじゃないか。八巻なら朝早くに本人から電話が来て、体調が悪いから休むと言ってたぞ」

「八巻さん本人からですか……?」

「あぁ。俺が声を聞いたから間違いない」

 

 おかしい。

 昨夜のメッセージも今朝の電話も、私からは全て通じなかった。

 それなのに学校への連絡は咲那さながしている。

 何か避けられるようなことでもしたのだろうか。

 全く身に覚えがないけど。

 C組の担任教師から逃げ出すようにその場を後にした。

 

「三隅さん、八巻さんと連絡ついた?」

「全然ダメ。岩村さんのメッセは?」

「既読にもならないよ。電源でも切れてるのかな?」

「それだけならいいんだけど……」

 

 昼休みになっても手掛かりは今朝の欠席報告のみ。

 誰に連絡してもらっても、まるで返事が無い。

 ただ事ではないのは明白だった。

 本当に胸騒ぎが収まらない。

 

「とりあえず放課後まで待って、直接八巻さんの家に行くしかないと思う」

「そうだよね。そうしてみる!」

 

 最後の授業が終わるのをひたすら待った。

 こんなに勉強に身が入らなくなるなんて、過去に記憶が無い。

 帰り支度を済ませ、廊下を通って下駄箱に向かおうとすると、C組の中からただならぬ空気感を感じる。

 響いてくるのは男女がいがみ合う声だ。

 その声には聞き覚えがある。

 

「いい加減にしろよ根本! お前八巻に何をしたんだ!?」

「だから本当のことを言っただけだって」

「本当のことってなんだよ!? いつもの嫌がらせならこんなことにならないだろ!?」

 

 その教室を覗き込むと、ヒロくんが物凄い剣幕で根本に詰め寄っている。

 彼があんなに怒る姿は初めて見た。

 やはり内容は咲那についてだ。

 

「大切な友人の想い人を奪って、好きな人を狂わせるのは楽しい? って聞いてあげたのよ」

「なんだよそれ! 意味不明だろ!」

「何が意味不明なのよ。あんた達ならよく分かるでしょ?」

「何をどう分かれってんだよ!?」

「だからさぁ、陸田りくたが三隅を好きだって知ってるから、八巻は焦って告ったんじゃん。そんで三隅まで変人の道に走らせてホント愉快よね」

「てめぇ!!!」

 

 ヒロくんが私を好き?

 それを知ってて咲那が告白した?

 そんなこと私は一切知らない。

 まるで気が付かなかった。

 知っていたからといって、何が変わるわけでもないけど。

 それよりも狂わせたとか変人の道にとかが気に入らない。

 私はそんな風に思ったこともない。

 なんで勝手に被害者みたいに言われてるんだろう。

 ヒロくんは怒りに我を忘れ、根本に掴みかかる勢いだった。

 そこに白石くんが止めに入る。

 

「落ち着け裕人ひろと。根本に何言ってもムダだ」

「じゃあこれだけは言わせてもらう! 俺は望んで八巻を応援してるんだ! それが三隅の為にもなると思ってるから!」

「あら負け惜しみ? 自分が告って振られるのが怖かったから、言い訳してるだけでしょ?」

「俺がどう思われても構わないが、八巻を悪く言うな! あの二人の気持ちは本物だ!!」

「残念だったわねぇ。あんたには本気になってもらえなくて」

「いい加減にしてよ!!!」

 

 二人の言い合いを聞いてて無性に腹が立った。

 胃がキリキリした。

 気が付けばC組に怒鳴り込んでいる。

 足が勝手に踏み出していた。

 口が勝手に声を出していた。

 頭が止めろと叫んでいた。

 呆然とするヒロくんを尻目に、根本を睨む視線が離れていかない。

 

「三隅……聞いてたのか………?」

「ごめん、全部聞いた。声大きかったし」

「じゃああんたも分かったでしょ? 腹黒いくせにヘラヘラしてる八巻の下劣さを」

 

 この減らず口をなんとか塞ぎたい。

 でも今はそれどころじゃない。

 こんな奴に絡んでる場合じゃないから。

 

「咲那ちゃんを傷付けたのはいつ?」

「は? 傷付けたって何よ? 人聞きの悪い」

「さっきの話をしたのはいつ?」

「そんなの昨日一日中言ってやったわよ。自覚持たせるまでさ。メッセでも直接でも」

「やっぱり原因はそれなんだ……」

「なに? 八巻の欠席が私のせいだとでも言いたいわけ?」

 

 本当に白々しい。

 でもハッキリした。

 根本にさっきの嫌味を言われたのが元凶だ。

 咲那はそれで学校に来れなくなった。

 私達に罪悪感を持ったから、相談も出来なかったんだ。

 彼女は今どこで何をしているんだろう。

 家にこもってるだけならいいのだけど。

 本当に胸騒ぎが収まらない。

 

「ちゃんと言っておく。私は咲那ちゃんだから恋人になってみようと思ったの。咲那ちゃんだから好きになったの。それをあなたにとやかく言われる筋合いはない」

「完全に毒されてるじゃない。二人しておめでたい脳みそね」

「今は人を小馬鹿にするのもいいけど、咲那ちゃんに何かあったらあなたを許さないから」

 

 咲那はずっとこの悔しさに耐えていたのか。

 恋心を否定されるのが、こんなにも胸を裂かれる思いだったなんて。

 理解出来てようやく彼女の苦しみに寄り添えた。

 

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