第31話 ヘルファイア

 さて、四層だ。岩陰に三人で隠れて辺りを見渡す。四層では新たなモンスターは出現しないため、ウルフとポンポコ、カマイタチが仲良く徘徊しているだけだ。


「じゃあ、アンナの実力を見せてもらっていいか?」


「うぃー」


(なぜフランス語?)


 まぁ、特に意味はないのだろうと思い、ツッコミはいれない。そしてアンナは──。


「アンナ、いきまーす」


 世代を超えて愛される名フレーズを口にし、上空へ舞い上がった。


 バババババババ。


 機械式の翼と両足のスラスターから爆音と熱風が巻き起こる。モンスターたちもその音に気付いたようで、何事かとアンナを見上げた。


「アンナ、FOX1」


 アンナはチラリと俺たちの方を向いて何事か喋った。──が、良く聞こえない。


「もっと大きな声で頼むー!!」


 俺がそう言うと、アンナは少しブスッとした表情になり、あのふざけた口の開け方ではなく、きちんと唇を動かし、何かを伝えようとしてきた。


「ヴぉ……、ン……? いや、分からんわ」


 必死に唇の形を見て考えるが、さっぱり分からない。分かったことは唇を噛んだり、閉じたりを強調しているので、英語だということだろう。というか、普通に唇動かせるなら今後もそっちで喋れよと思う。


「アンナさんはFOX1と伝えていますね。これは友軍に対し、今からセミアクティブレーダー誘導ミサイルを撃ちますよというシグナルです。こちらの世界だとスパロー等になりますが、アンナさんの装備のサイズから考えて、単にアンナさんの照準に映った相手に対する誘導ミサイル、ということでしょうね」


 グッ。


 一ノ瀬さんの言葉がアンナにも届いているようで『流石ヒカリ、正解』とでも言わんばかりに、したり顔で親指を立てている。


「……さいですか」


 なんで一ノ瀬さんがそんなことを知っているのかは考えないようにし、とりあえずアンナは誘導ミサイルを撃つらしい。というか、撃った。


 シュー、ドドドド、ドォーン、ドォーン。


「………………」


 攻撃は僅か数秒で終わった。モンスターたちは跡形もなく消え去り、地面からは黒煙が立ち上る。数十メートル先のダンジョンが焦土と化した。


「フフ、これではスパローと言うよりヘルファイアって感じですね」


 そんな惨状を見て一ノ瀬さんは笑いながら冗談らしきことを言った。だが俺にはヘルファイアが何か分からないため、どこが面白いのかさっぱり分からない。


「…………」


 若干気になってしまったため、スマホを取り出して調べてみる。どうやらヘルファイアは空対空ミサイルではなく、空対地ミサイルのことらしい。しかし、調べたところで何が面白いのかはさっぱり分からなかった。


「ふぅ。どう?」


 アンナが地上に降り立ち、一仕事終えたぜー的なさわやかさを出しながら聞いてくる。


「アンナさん、流石です。とても良い絨毯爆撃でした」


「それほどでもある。ヒカリもっと褒めてもいい」


「おい、待て待て。アンナ、お前行く先々のダンジョンを焦土化するつもりかっ!?」


 俺はついにツッコんだ。三人寄らばツッコミが必要とはよく言ったものだ。しかしあえて言うなら俺はツッコミよりボケの方が良かった。


「安心してフレンドリーファイアはしない」


「いや、無理だろ。あの攻撃範囲なら俺たちも絶対巻き込まれる。いやまぁ、百歩譲ってダンジョン内ならいいけど、ダンジョンオーバーの時にあれは絶対ダメだからな?」


 それはそうだ。最悪、ダンジョン内なら俺たちが消し炭になったとしてもリスポーンされるし、ダンジョンは再形成されるだろうから。しかし、ダンジョン外であれに巻き込まれれば、俺と一ノ瀬さんは普通に死ぬし、周りの住民は死ぬし、家屋や建物に甚大な被害が出る。それを考えれば当然の指摘だろう。


「ふぅー、タツミうるさい」


 えー。


「フフ、アンナさん、そんなことを言ってはいけませんよ。辰巳君はアンナさんのお父さんなんですから」


 お父さん? 俺が? こいつの?


「えー、ヤダ。私ヒカリんちの子になる」


 おー、好きにしろ、好きにしろ。


「じゃあアンナさんは私と辰巳君の子供です」


「「え?」」


 冗談だとしてもブッ飛んだ発言に俺とアンナは同時に声を上げる。


「フフ、冗談ですよ。それに辰巳君もあんまり怒らないであげて下さい。アンナさんだってちゃんと考えることができるんですから」


「…………」


 確かに、アンナの考えを聞かずに決めつけてしまったのは良くなかった。


「……ふぅ、分かったよ。アンナちくちく言ってすまん」


「……ヒカリに免じて許す。……でも私、頑張った。褒めろ」


 ブスっとした表情でそんなことを要求してくるアンナ。褒めろっつったって。


「…………頼りにしてるぞ」


「……ん」


 言葉少なにそう言って、ちっちゃい頭をガシガシと撫でる。


「フフ、親子って素敵ですね」


 そんな俺たちを見て、一ノ瀬さんはまだ変なことを言っていた。

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