十二月十五日 FFM3のしろの就役

 ちょうちょは誰かの魂を運んでいるのだと聞いたことがある。誰から聞いたかは記憶が定かではないが、なんとなく腑に落ちている自分が居るのが不思議だった。紅白の日を折って畳んだちょうちょが、血潮たる乗員たちと共に舷梯を通って自分の中に乗り込んでくる。今日は自衛艦旗授与式、今からこのちょうちょが自分の艦尾に掲げられるのだ。

「じかーん」

合図と共に流れ始める君が代。同時に人の手を離れたちょうちょが羽を開いて、日がゆっくりと昇っていく。

「今日からお前は佐世保の【のしろ】だ。 胸を張っていけ」

【ククリ】が言祝いでくれるのは進水の時以来だ。偉い人の訓示が終われば、いよいよ舫が離される。先導するように進むタグボートが白い航跡を、青緑の海に描いていく。それを追いかけるようにして、進んでいけば真正面に女神大橋が見える。公試の度に潜った橋、今日はもう引き返さないので、いつもの様に裏側を見ることは無いのだ。

「よし、がんばるぞ」

気を引き締めて行こう。橋の向こうの海が今日は眩しく見えた。


 蝶は今日も誰かの魂を載せて。



佐世保を新たな港として、約一日。

「【のしろ】、就役おめでとう」

兄艦【くまの】が早々にやってきた。

「ありがとう」

素直に礼を言えば、【くまの】は嬉しそうに笑って俺に小さな箱を渡してきた。

「これは?」

「プレゼント! 俺は【ククリ】と話してくるから、また後でな―」

【くまの】は足早に手を振りながら去っていく。

「【くまの】の歩き方、【やはぎ】と一緒だ……」


離れていても、ドックが違っても兄弟。

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