三月二十二日 くまの就役

 いかにもめでたそうな紅白の幕、海と空の間の色をした真新しい艦。生憎の空模様は、最新鋭艦の気持ちをそのままに映しているようだった。

「いろいろあったなあ」

目の前の光景を見ながら【タマノ】はのんびりとそんなことを言った。

「そうだね」

俺が同調すれば【タマノ】はうんうんと満足そうに頷き嬉しそうに笑う。

「機嫌、まだ直らんか?」

「ちょっとね」

関係者各位のめでたいようなホッとしたような雰囲気とは裏腹に、俺の気分はそこそこに落ち込んでいた。

「一人で就役させられるとか聞いてないし」

「それもいろいろの一つだ」

諦めなさいと【タマノ】は俺の文句をばっさりと切ってしまった。岸壁で奏でられる軍艦マーチは鼓動のように、進む人は血潮のように真新しい艦に命を吹き込んでいく。

「【くまの】、今日が全ての始まりだ。 気をつけていってらっしゃい」

「……いってきます」


全ての始まりの日

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