令和4年

一月 くまのとゆき

【FFM2くまの】は進水、つまり生まれてから一年と二カ月たっている。どの季節も一度は経験し味わってきたわけであるが、未だに雪を見たことが無かった。


潮の流れは速いが波は穏やかな瀬戸内海を見つめ【くまの】は白い息をはきだす。懐には猫がいるので暖かいのだが、吹き付けてくる風はどうしようもなく冷たかった。

「雪、今日も降らないね」

「にゃあ」

【くまの】は懐の猫に話しかけるが、猫は一つ鳴いただけでそれ以上は相手にならなかった。一際冷たい風が耳元に悲鳴のような音を残し駆け抜けていく。一瞬だけたった白波が少しだけ雪に似ているような気がした。

「あっ……そうだ。俺、ゆきのない一月は初めてだ」


瀬戸に降る雪は


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る