にゃん銃士 ~姫を護るのは最強のにゃんこたち~

武田武蔵

世界大紀行編

第1話 猫に転生しましたがなにか?

「朝だよ! 起きて起きて!」

 聞き慣れた目覚まし時計から、俺の朝は始まる。普通に布団から出、あくびをしつつ、寝巻きから学生服へと着替える。夜のうちに冷えたシャツは、冷たく肌に張り付いてくる。その上に学ランをはおり、カバンを持って、自分の部屋のドアを開けた。

 階段を下りると、朝食の良い匂いがする。これは鯖の塩焼きか?

「おはよう、母さん」

 俺の声に、母は振り返った。ちょうど、俺の食べる場所に、やはり鯖の塩焼きと、味噌汁が置かれた。

「おはよう、隼人。ご飯できてるわよ」

「おー、美味しそう」

 椅子に座りながら、俺は言った。母は厚焼き玉子も目前に置く。これは全て食べてしまいそうだ。

「いただきます」

 手を合わせ、朝食を掻き込む。実を言えば、余り時間がない。急いで朝食を食べ終えると、俺は椅子から立ち上がり、

「行ってきます」

 と、言った。

「行ってらっしゃい」

 リビングを出た辺りで、母の声を聞く。

 これが、母と交わした最後の言葉だった。


 外へ出ると、真冬の寒気が肌に突き刺さる。それに堪えつつ、いつもの待ち合わせのバス停へと向かう。人もまばらなバス停に、一人待つ影がある。

「絵美、おはよう」

「おはよう、隼人」

 彼女の名前は絵美と言う。何を隠そう、俺たちは付き合っているのだ。マフラーの中に顔を深く埋めた絵美は、その黒目がちな瞳で俺を見る。赤く染まった頬が、至極愛らしい。

「今日はテストだね」

 と、絵美は言った。高校生の俺たちは、二学期のテストが終わると、終業式までつかの間のテスト休みがある。

「テスト終わったら、カラオケでも行こうか」

 俺は絵美を見る。

「良いね! 行こう」

 思春期の男女が、長い間狭い個室の中にいるなど、下心がない訳がない。勿論俺も、今日こそキスをできたら良いなぁなどと思っている。できるならば、その先も──いや、それは俺のチキンハートが許さない。

 その時だった。激しい音が耳をつんざき、目の前が真っ黒になった。

「隼人、はやと! 起きてよ、ねえ」

 絵美の泣き声が聞こえる。身体は動かないし、目も見えない。このまま俺は死ぬのか? そんな事を考えながら、俺は深い闇に沈んで行った。……



「──ルル、…シャルル……」

 俺を呼ぶ声が聞こえる。いや、俺は隼人だ。シャルルじゃない。

「シャルル! 起きろ!」

「だから、俺は隼人だって!」

 俺は叫び、目を開いた。

 日の差し込む小屋の中で、巨大な猫たちが、服を着て立っていた。革製の上着に、マントをはおり、下はブーツを履いている。その姿は、母が見ていた三銃士と言う海外ドラマそのものだった。

「ハヤト? お前はシャルルだろう」

 と、キジトラの猫が言った。

「お前、王位継承権第一位のアイリス姫の剣術の指南役に任命されて、緊張して自信がないからって俺たちにデモンストレーションを頼んだんじゃないか。それが突然倒れて……」

 茶柄の猫がそれに続く。

「……は?」

 なにがなんだか全くわからない。とにもかくにも言えるのが、これがうわさの異世界転生だろうか。いや、異世界トリップ? そんなことどうでも良いが、こんな中途半端な記憶の戻り方なんてあるのか?

 ともかく立ち上がろうとした時、プニプニとした感触に自分の手を見ると、肉球が生えていた。それだけではない、耳は頭の上にあり、全身毛に被われている。顔に手をやれば、細いヒゲが生え、鼻は湿っている。

「に、にゃぁぁあああー!!」

 俺は獣人、それも猫になっていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る