第25話 7/14『一足早い、夏の風物詩との遭遇 その2』

 日が沈んだ夜の校舎。


 日中とは比べものにならないくらいの変貌っぷりで。


 暗い雰囲気を出す、校舎がより一層恐怖を掻き立てた。


「みんな揃っているね。言ったもの用意してくれた?」


「勿論。あゆりちゃんが必死で探してくれたからこの通り」


「おぉ気前がいいねえ」


 陽香に中くらいの大きさをした懐中電灯を3本彼女にみせる。


 彼女から照らすものがあった方がいいとのことだったので、帰った後夕ご飯を済ませてから早速捜索にあたった。


 そして家からは、3本のライトが見つかった。


 あゆりちゃん曰く、昔3人が使っていた物らしい。


「お前、家にライトないのかよ」


「ごめん、どれも使えない物ばかりだった」


「つまり、どれも古すぎて壊れてたとかそんな感じか?」


「うん、おじいちゃんとおばあちゃんの譲りものばかりでね、新品っぽいライトは見つからなかった」


 じゃあスマホのライト使えばいいじゃないか。


 そうすれば、万事解決だと思うんだが。


「んじゃ、スマホのライト使えばいいんじゃないか?」


 すると後ろに控えるあゆりちゃんが、俺の袖を引っ張ってきて耳打ち。


「翼さん、スマホのライトって普通のライトより光弱いんですよ?」


「あ、そうなの?」


「はい、昔先生に教えてもらったんですがそうらしいですよ」


 なんか授業でそのように習った気がするが、もうとうの昔の話しだし忘れた。


 でもそう考えるとこいつ。


 俺達が持ってこなかったらどうする気だったんだ。


「……因みにだけど、俺達がライト持ってこなかったらどうするつもりだったの?」


 責任感感じさせない顔で彼女はにこにこしながら答えた。


「え、そんなの決まってんじゃん」


 ……もう嫌な予感しかしない。


「野宿してまでも、やるつもりだったけど」


 ただの考え無しのバカ思考だった。


「お前、熊でも襲われたらどうする気なんだよ! 確実に死ぬって!」


「安心して、全力疾走で走れば大丈夫だから」


 それはお前だけが助かるだけなんじゃないか。


「えぇと陽香ちゃん。それって私達きっと無理ですよ。……追いつける気皆無ですし」


「ほ、ほんと? 眼中になかった! ごめん」


 少しは俺達のことも考えてくれよと、心配する俺とあゆりちゃんは彼女を心配するのだった。


「まあでも、持ってきてくれてよかったよ。それにスマホも一応……ほら持ってきたし」


 陽香がスマホの画面を見せる。


 ……バッテリー残量。


 15%


……。


「馬鹿にしてるのか?」


「陽香ちゃん残量……」


「へ? ……うそ。充電したはずなのに」


 画面を確認し、自分で残量が少なくなっていることに気がつく陽香。


「わ、しまった。コンセントのボタンオンにするの忘れてたわ。はは」


 笑って誤魔化す。


 ははじゃないだろ。


 どんだけドジなんだよ陽香は。


「そんな顔で2人もじもじしないでよ。……さてとなればほい」


 手を差し出してくる。


「ライトプリーズ」


「はいよ」


 1本手渡す。


「……」


 陽香が顎の下にライトを向け、照明を点灯。


「わっ!」


「うわ」

「ひいい! 驚かさないでください!」


 怪談などでよくやる芸当だが、いきなりやるなよまじでビックリした。


「おどろかすなよ」


「1度やってみたかったんだ。昔海里がやってきたんだけど上手くできたかなあゆあゆ?」


 等の本人は、俺の後ろで袖を掴みながらピクピクと体を震わせていた。


 非常に怖かったらしい。


「こ、こわいです」


「ご、ごめん。出来心でつい」


「いいからいくぞ陽香。……あゆりちゃんもう怖くないから大丈夫だよ」


「そ、そうですか。……ほっと一安心です」


 彼女が一息つくと。


 俺達は陽香の言っていた森へと向かうのだった。


 ◎ ◎ ◎


 暗い夜道の森。


 辺りからは、フクロウの鳴き声、虫の合唱が聞こえてくる。


 草木が揺れる音が非常に怖く感じるのだが。


 足をみんなとはぐれないように、一塊になりながら歩く。


 陽香が先頭、後ろに俺、その後ろはあゆりちゃん。


「なんかさっき『サッサッ!』って音しませんでした?」


「きっと空耳。大丈夫だよ」


 言っている本人は、汗を垂らしながら強がっているけどそんなわけないだろ。


「本当は怖いんだろお前」


「ち、違うから! 別に夜の森が怖いとかそんなわけじゃないから!」


 ばればれだって。


 諦めろ運動一の陽香さん。


「自分に正直になった方がいいと思いますよ陽香ちゃん」


「く、くっそぉ。海里みたいに強がってみたけどうまくいかないもんだねえ」


「彼女がみたらきっとまた色々言われそうですね」


 とくすくすと笑うあゆりちゃん。


 夜道進むのが怖いとしても、俺達とこうして話せば多少恐怖が和らぐのだろう。


 俺はそんなに怖くはないけど、熊や蛇とかは勘弁だ。


 3方向のライトが俺達を照らす。


 鼻先に見えるのは大木の面。


 と。


 次の瞬間陽香が。


「あっ!」


「ど、どうした!? なんかあったか」


 1本の大木を指さす。


「カブトムシとクワガタが戦ってる」


 ガタン。


 呆れたあまりに俺はその場で反る。


「お前なあ! 紛らわしいリアクション取るなよ!」


「だってすっごくかっこいいよほら」


 その木の上を見上げると。


 クワガタとカブトムシが樹液……即ちエサの取り合いで互いの角とハサミをぶつけながら戦っていた。


「……キザギザしているんであれノコギリクワガタじゃないですか?」


「ミヤマクワガタじゃない? ……あ、でも埃被さった感じじゃないからそうかも」


 うん。


 虫に関しては全くの無知。


 だから2人の会話に付いていくことができないのだが。


「でも、陽香ちゃんこんなところで立ち止まっていたら……」


「下にはゴマダラカミキリがいる」


「どこです?」


 話を逸らそうと、丁度そのすぐ下の木にいたカミキリムシにあゆりちゃんを誘う。


 黒い体に白い点が何個も付いているのが特徴的。


 あ、こいつ昔図鑑でみたことあるぞ。


 よく本に載っていたからな。


 あれ、ゴマダラカミキリっていうのか。


……ってじゃなくて!


「陽香、趣旨をずらそうとするな」


「あ……あ、はぁ……ごめん」


 陽香の時間潰し作戦はそこで儚くも散るのだった。


◎ ◎ ◎


「この辺りか?」


「うん、言われたのはこの辺だけど」


 目撃情報があったとみられる場所へとようやくたどり着く。


「怖くなってきたんですけど……わっ! なんだただの風か」


 強風に反応して驚くあゆりちゃん。


「この辺ですよね。焚き火とラジオの音…………は」


 辺りを見渡すが。


 それらしきものは聞こえもせず、見えもしない。


 ただ目の前に広がるのは木々の連なる1本道。


 歩いても歩いても状況に進展はなし。


「お前ガセネタで釣られたんじゃないか?」


「そんなことないって! ちゃんと聞いた話なんだってば」


 テンパりだす陽香。


 子供に変な嘘でも教えられたんじゃないかと疑わしい。


 本当にそんな。


 都市伝説染みた話があったとは到底。


 すると。


 あゆりちゃんが。


「なんかあっちから焚き火の音が」


 彼女の指さす方向。


 その方面へと近づいて、耳を傾ける俺達。


「ほんとだ。なんか音するね……って陽香?」


「ほっほっほ……っと。みんなこっちこっち」


 気がついたら彼女の姿はそこになく、焚き火音のする方向へと一足先に手を振りながら先へと進んでいた。


 無鉄砲すぎる。


「もうちょっと警戒心持った方がいいんじゃないですかね彼女は」


「あゆりちゃん。陽香はそんな女の子とは到底思えないんだけど」


「あぁ確かに」


 と会話しながら彼女の方へと進む俺達。


 そして彼女の方に近づくと指さしてきた。


「ほら、あそこ」


 木々の向こうに少し開けた場所が見える。


 そこから火照りが見え、辺りにはテントが1つ張ってあった。


 焚き火の近くで腰かけるように、二十代くらいの男性がおり、焼いた焼き魚を美味しそうに口に運んでいた。


「陽香これって」


「ふっふ! 謎は解けた! 謎の音の正体は見知らぬキャンパー! ……あのーちょっとすみませーん!」


 と俺達なんぞ気にもせず、その人にいる場所へとたったと近寄る。


「おいちょっと待て。……あ行っちゃった」


「行きましょう」


 彼女も先を急ごうと俺に言ってきたので、俺もその通称"謎のキャンパー"の元へと向かうのだった。


◎ ◎ ◎


「うん? 君達は……見た感じ学生さんかな。どうしたんだい」


「あ、いえこれと言って用はないんですけど」


 陽香は要件を話した。


 順を追って略言しながら。


「あ~ごめんね。まさか地元の人を困らせていたなんて」


 男性は俯いて申し訳なさそうだった。


「頭をあげてください、俺達は決してあなたを訝しんでいるわけではないんですよ」


「あぁそうなの?」


 そういうと開き直ったかのように男性は再び頭を上げ。


「私は、全国を旅するプロキャンパーさ。この場所が居心地よさそうだったからついここにテント建てちゃって。……気がついたら1週間経過しちゃって。……まさか子供達のウワサで変な目撃情報になっていたなんて」


「お兄さんは悪くないですよ。その……場所が悪かっただけだと思います」


 彼を気遣うように優しい言葉で接するあゆりちゃん。


「あ、ありがと。じゃあ今日終わったら場所を移そうかね。また新しい寝所を探して」


「あはは、そうですか」


 陽香の笑いが場の雰囲気をぶち壊してくる。


「陽香ちゃんだっけ? 君元気でいいね……あ、そうだ」


 すると彼は3本の焼き魚を手渡してきた。


「せめての詫びだ。3人で仲良く食べてくれ」


「え、いいんですか!? ありがとうございます」


 陽香に続いて俺達はお礼を述べる。


「では俺達はこれで。お兄さんお元気で」


 そう言って俺達はその場を離れ、来た道を戻るのだった。


◎ ◎ ◎


「エイリアンでもUMAでもなく、ただの見知らぬキャンパーだったな」


「う、うん。教えてくれた子供達には言っておくから2人共記帳お願いね」


「お、おう……この魚うまいな」


「沢でよくとれる美味しい魚ですよ。……もぐもぐ」


 俺達はもらった魚を食べながら、本日の反省会を学校の校門にてする。


 一時はどんなことに巻き込まれることやらと、心配していたがなにごともなくてよかった。


「じゃあお願いね。……そんなこと言っていたら眠くなってきたよ。……ふわぁ」


「ではお開きにしましょうかそろそろ」


「そうだね、あゆりちゃんもそう言っているし陽香今日どうする?」


 時刻はもう21時。


 辺りは真っ暗。


 始めた頃が19時だったら、既に真夜中の時間帯だ。


「じゃあ今日のところはこれにて解散ね。……明日また連絡するからよろしく」


 すると陽香はふらっと酔い潰れた、おっさんみたいに後ろを振り向いて帰っていく。


 大丈夫だろうかあれ。


 謎のキャンパーに遭遇したその日は、寝付くのが少し遅くなったのだった。


 

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