第8話 『ひろと』と『はるか』①

「ひろとくん、まだ~?」


「ごめん、はるかちゃん。すぐ行くね」


 2人は手を繋ぎ、反対の手にはオモチャのスコップやバケツを持って歩き出した。


「「お母さん早くっ! 早く~!」」


 今日は寛人の母親の真理、遥香の母親の恵子と4人で公園の砂場に来ていた。


「何を作るの?」


「お山作ってトンネル掘るんだよ」


「はるかちゃん、僕が砂を入れるから山を作ってね」


「わかった。いいよ~」


 僕はバケツに砂を入れ、遥香ちゃんは山を作り、泥だらけになりすぎてお母さんに怒られたけど、遥香ちゃんは怒られてる僕を見て笑ってた。


 ベンチでは母親達が2人を見守りながら会話をしていて、遥香の母親が困った様子で声を出していた。


「本当に寛人くんが居てくれて助かってるのよ……遥香、人見知りが激しいせいか毎日一緒に居る寛人くんとしか話せないみたいなのよ」


「お互い様ですよ~。ウチも助かってますから。近くに寛人と同じ3才の子は遥香ちゃんしか居ないし、家でも『はるかちゃん』『はるかちゃん』って言ってるのよ。来週から幼稚園に入るんだし、友達も出来るでしょ。寛人も同じクラスって聞いてるから大丈夫じゃないかな?」


「それだと良いんだけどね……」





 入園式の日、僕は楽しみだった幼稚園の制服に着替え、遥香ちゃんを迎えに行ったら泣いてたんだ。入園式を楽しみにしてたのにどうしたんだろう……?


「この靴じゃ無い~! うえぇぇ~ん!」


 寛人の母親の真理が、遥香の母親の恵子に声を掛けた。


「遥香ちゃんどうしたの?」


「ほら……幼稚園は制服と靴が決まってるでしょ? それでいつもの靴と違うって泣いてるのよ」


「いつも履いてる水色の靴がお気に入りだもんね」


「はるかちゃん、黄色の靴もカワイイよ。ほら、僕も一緒だよ」


「……うぇ……ヒック……ほんとだ」


「ね、一緒でしょ?」


「うん。ひろとくんと一緒の靴だ~♪」


 入園式も無事に終わり、寛人と遥香は、両親達と一緒の教室に入っていった。


「あっ! はるかちゃんの隣だ!」


「ひろとくんの隣だね~♪」


 遥香は寛人と隣が嬉しいのか、椅子を寛人の真横に持ってきて座り、ニコニコと嬉しそうに微笑んでいた。


 園児と保護者の全員が教室に入った頃、「ガラガラ」と前の扉が開き、若い女の先生が入って来て、全員を見渡した後に笑顔で挨拶をしてきた。


「みんな~。こんにちは~」


「「「こんにちは~」」」


「うん。みんな元気で良いね」


 先生が話を始め、じっとしているのに飽きたのか、走り始める子も出始めた頃。


「ここに居るみんなは、今日から一緒に遊ぶお友達です。お友達のお名前を覚えて欲しいから、順番にお名前を言ってみようね。みんなは自分のお名前を言えるかな~?」


 前に座っている子から順番に名前を良い始めて、僕の番になった。


「さくらいひろとです!!」


 僕は大きな声で名前を言えた!


 次ははるかちゃんの番だ!


「……」


「……」


 遥香は無言で下を向いていた。


「はるかちゃん大丈夫だよ」


 僕は、はるかちゃんの手を握った。


「……さとうはるかです」


 遥香も小さい声だったが、何とか名前を言って座った後、不安そうな顔を寛人に見せていた。


「僕がはるかちゃんを守ってあげるからね」


 遥香ちゃんは僕の大好きな笑顔に戻って「うん」と言いながら頷いていた。


 幼稚園は楽しくて、お絵描きしたり、絵本を読んだり、お昼寝したり、いつも遥香ちゃんと一緒で楽しかった。

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