【FGA:15】レオリオラ王国親衛隊


「カ、カイシュ……あ〜なんだ。違うんだぞ? 決して僕はお前に無断で城を出た訳じゃないぞ? ほ、ほらレイア姫おねえさまも居るし、お前と僕の仲じゃないか……もちろん、分かってくれるよな?」



 そう慌てながら必死に弁明するレオンを尻目に──雷人アレンは困惑していた。いや、雷人アレンだけではない。ライトも同じように頬に汗を浮かべている。

 "カイシュ"と名乗った──レオリオラ王国親衛隊隊長"カイシュ・スティブル・ホットスパーズ"は雷人アレンに自己紹介をした後すぐにレオン王子の必死の言い訳に「それはもう耳にたこができる程聞きました王子」と"ぴしゃり"と右手を出して王子の話を遮ると「さぁ、早く帰りますよ。城で王がお待ちです。顔を赤くして」と言うと雑にレオンの襟を"ぐっ"と掴むと引きずるように移動用ワゴンへと歩みを進めた。

 その光景を見て周りの民衆も「これはまたいつものパターンか」とそれぞれ不平不満を口にすれど、蜘蛛の子を散らすようにそそくさと日々の日常へと戻っていく。



「おい待てよ……そこのキザやろう」



 ガシャガシャと重い音に似合わず軽快な歩速で王子を連れてくカイシュに雷人アレンが"待った"をかける。

 カイシュは突如背にかけられた暴言に肩を"ぴくり"と持ち上げると今度はゆったりとした動作で振り向いた。その目には先ほどの呆れた感情の宿った目ではなく鋭い──怒りの感情が読み取れる目をしていた。

 だが雷人アレンはそんな目をした親衛隊長を気にもかけず相変わらず変わらぬ語気の強さでさらにカイシュに迫る。



「いきなりそんな重そうなヨロイぶら下げてオレにぶつかっときながら……楽し──くはなかったが、オレとそこの王子バカ勝負1on1……オマエが親衛隊長だろうが王様だろうがなんだか知らねーけど、誰であっても邪魔はさせねーぞ」



 そう雷人アレンは凄むとカイシュの前へ"ずいっ"と歩み寄り思いきり目と鼻の先の距離で──を飛ばした。

 まさに一触即発の場面。ライトは止めるでもなく──動じず、静観するかのようにカイシュの方を無言で見ていた。



「しょ、勝負と言っても……恥ずかしい事だが僕はお前から一点も取れてないし、僕の敗けでいいからケンカはやめてくれ……!」



 今にもお互い爆発しそうな2人の間に挟まれている小動物しかりレオン王子は必死に鎮火させようと雷人アレンに懇願するが──もちろん、雷人アレンが許す訳がなく「ちゃんと決着ケリが着いてないのにそんな中途半端なトコロで終われるか」とカイシュを睨むその目で凄まれると途端に「あっはいすみません」とまさに蛇に見込まれた蛙の如く縮こまってしまった。



「……分かった。では勝負の残りは私が相手をするという事で良いか?」



 ここまで挑発されたのならば、とカイシュは鎧を"がしゃがしゃ"と大きく鳴らしながらその一つ一つを脱ぎ捨てていく。すると瞬く間に筋肉が大きく張った──しかし余計なものは付いておらず常に最良ベストの力が出せるような──そんな均整の取れた身体が出てきた。

 あの重そうで煌びやかな鉄の鎧を身に纏いながらも──軽快な動きが出来る理由としては充分すぎるほどの身体に思わずライトは「うん」と一つ相槌を入れた。



(やっぱりこの人……""だ……!)



 ふわりふわりと浮かびながら静かに様子を見ていたライトはカイシュの身体を見た途端に──いかほどの力量であるか瞬時に判断すると──同時に雷人アレンのところへ今度は俊敏な動き(すでに魂状態にも慣れたのか)で飛んで行くと「あの人、多分スゴいよ」と耳打ちをした。

 ライトのその判断を聞くと雷人アレンは「上等!」と一つ意気込むと改めてカイシュの方へ向き直る。



「分かった。その話、飲んでやる──オレにケンカ売ったこと後悔しても遅いぜ」



 それだけ言うと雷人アレンは先ほどカイシュとぶつかった時に落としたボールをレア(雷人アレンを怖がりながらも)から受け取ると三度、カイシュの前へ立った。

 カイシュは依然として変わらぬ鋭い目つきで一連の雷人アレンの動きを見ていたが── 雷人アレンが突如としてボールを寄越してきた事を挑発だと捉え──いよいよドリブルの姿勢スタンスを取ると静かに、そしてゆっくりとドリブルを突き始める。


スタン、スタン、スタン。


 その音は下が石畳だとは思えないほど軽い音で──カイシュのその均整の取れた肉体からだから発せられる音としては、何とも不釣り合いな、それでいて何とも奇怪な音であった。

 一定で正しいタイミングで突かれるその正確さと──同時に現れる軽い音の不気味さがライトの背をくすぐる。



(突くドリブルのが軽い……、バスケットのドリブルは低く強く突く方が良いとされてるけど……これは一体……?)



 彼はその音の正体が分からず不気味に思うも──それ以上にを考え始めた。


事実。


 ライトの言う様にバスケットボールにおいてドリブルの良い突き方と言うのは低い姿勢で強く突くことが推奨される。

 理由は至極単純。他にも様々な理由はあれど早い話相手に為だ。


故に。


 恐らく彼が""であろう──と踏んだライトであったが一般論的なバスケット理論に反するカイシュ行動ドリブルに疑念を抱くのは無理がない事が分かるだろう。



(しかも"突くのが軽いだけ"じゃない──姿勢スタンスも悪い……。腰を落としていないどころか──直立不動だ。これじゃあ『どうぞボールをってくれて構わない』と言ってる様な────)



 刹那、ライトはカイシュのを見抜くと即座に──叫んだ。



「ア、亜蓮くん! 気を付けて! カイシュトラップに嵌まっちゃ────」



 と、ライトが言うよりも速く── 雷人アレンはまるで虎視眈々とウサギを狙っていた捕食者トラがその一瞬の隙を突き仕留めるように──カイシュの右手でゆっくり優しくゆりかごの赤子の様に揺られていたボールに手を出した────


刹那。


 は突如""とカイシュの背中を抜けていき、再び現れる頃には────



(────‼︎‼︎ やっべェ!! やられた!!)



 捕食者アレンがそのに気付く頃には──カイシュは先ほどのレオンと雷人アレン勝負1on1の時のような無人のリングに2点レイアップを決めていた頃だった。


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