主人公と曲がり角でぶつかったら、恋愛ゲームの【選択肢】が現れるようになった脇役の話 ~いつの間にか主人公のヒロイン達とハーレムルート!?~

酔いどれ悪魔

~出会い編~

第1話 プロローグ






【――――を選ぶ】

【――――を選ぶ】

【――――を選ぶ】

【――――を選ぶ】



(どうしてこうなった……?)



 私立四風学園の屋上で俺は、四人の女性に手を差し出されていた。


 優しく微笑む女性、爛漫な笑顔を向ける女性、顔を真っ赤にしている女性、凛とした態度の女性。


 四者四様ではあるが、いずれの者からも好意が伝わって来る。


 選ばなければならないのか? 選ばなかった者はどうなるのか? 選び続けてきた報いなのか?


 選ばないという選択肢はないのか?


 そう、これは選択肢。選ばなくては何も始まらない、前に進めない。


 ここに来て、初めて選択する事ができなくなってしまった。


 今まで散々選んできたのに。選べない選択肢なんて、存在するとは思わなかった。


 思えばあの時から、俺の人生は一変した。


 上手くやっていると思っていた。上手く選んでいると思っていた。


 色のない高校生活に、色が付いた。紛れもなく、目の前にいる女性たちのお陰だ。


 そう。全てはあの日から始まった――――



 ――――――――

 ――――――――

 ――――――――



 ――――俺は、脇谷わきたに九郎くろうは走っていた。


 なぜ走るかって? そこに道があるから……ではない、遅刻しそうだからだ!!


「くそっ! なんでこんな事に!? 目覚ましちゃんとセットしたのに!!」


 セットしたはずのアラームはちゃんと動作した。ただ起きなかっただけ。


 あの爆音かつ複数セットの文明の利器は、俺の脳を覚醒させるだけの力がなかった。


 ふざけやがって。目覚めさせられない目覚ましなんて、ただの騒音じゃねぇか。


 目が覚めた時に鳴り響いていた爆音の中、俺は悟った。あぁ、これは寝坊だ。感覚的に悟った。絶対、寝過ごしたと。


 あれだけ覚醒しなかった脳は、時計の針を認識した瞬間に即座に覚醒し、はよ動けと俺に指令を出した。


 その指令に従い、僅か5分程度で支度を終えた俺は、家を飛び出し死に物狂いで走った。


「始業式なのに! 始まりの日なのに! 第一印象が肝心なのに!」


 今日は始業式。一年の始まりの日だ。


 最初が肝心。もし今日、遅刻しようものなら……俺は初日から遅刻をする時間にルーズなダメ男だという印象が付いてしまう。


 それはどうしても避けたい。もちろん、崇高な理由があるからだ。


 モテたい!! どうしてもモテたい!! この16年間、彼女がいた事など1時間たりともない。


 どうして!? 16年間の内の1時間くらい、彼女がいてもおかしくないでしょ!?


 高校デビューならぬ高二デビューを目論んだ俺は、色々と変わると決意していたのだ。


 長めだった髪を短く爽やかに切り揃え、清潔感を出すために制服やYシャツにはアイロンをかけ、香水も準備した。


 それもこれも――――


 異性とお友達になりたい。めっちゃハードル高いが。

 異性とデートしてみたい。めっちゃ夢物語だが。

 そして彼女がほしい。異世界転生した方が早いかもしれんが。


 なにせ高校二年といえばイベント盛りだくさん。そんな貴重なこの一年を、青春を謳歌しないでどうするというのか!


「よっし最終コーナー! ここを曲がれば後は一直線!!」


 故に初日の躓きは許されない。ネットに上がっている恋愛指南書のどれを見ても、遅刻する男はナンセンスとあったのだ。


 とりあえず遅刻しなければいいんだろ? ちょっと寝ぐせ付いてるし、顔を洗うのも香水も忘れたけど、とりあえず遅刻しなければいいんだろ!?


 くそったれ! 全てが無駄になった……いや違う! 制服のアイロンは昨日の内に済ませたからな!


 そんな事を考えて、通いなれた通学路の曲がり角を全速力で駆けた時だった。


「――――がッ!?」

「――――ッぐ!?」


 もの凄い衝撃が脳を揺さ振り、俺は倒れ込んでしまった。


 その瞬間に悟る。俺は誰かにぶつかってしまったのだと。


 それなりに体は鍛えているのに、まるで壁にぶつかったように俺の体は弾き飛ばされる。それは相手も同様だったようで、同じく尻餅を付いたようだ。


(いっつ~……目がチカチカする。まったく、誰が……)


 その時俺の脳には、一つのお約束が駆け巡った。遅刻しそうになって、全速力で走って、曲がり角で人と激突。


 ……あれじゃね? 美少女転校生とのファーストインパクト。この後の教室で、あー!! お前は今朝の!? ってアレじゃね?


 しかし現実は非情であった。

 どう見ても男だ。


「わ、悪い! 大丈夫か!?」

「あ、あぁ、俺の方こそ……」


 俺より一早く立ち上がり、手を差し伸べてくれる男子。


 この流れならばヒロインは俺だが、生憎と俺も男子だ。


(あ~コイツ、酒神さかがみ公太こうたじゃん。うちの学園で一番のイケメンでモテ男の……)


 ファーストインパクトの感想はム・カ・つ・く。


 彼女がいるという話は聞いた事がないが、公太の周りには常に女の子がいて、俺の夢をすでに叶えている男だ。


 まさにラブコメの主人公。それに比べたら俺はモブキャラ……いや、脇役だ。脇役にして、せめて。


 ともあれせっかく差し出された手だ。別に公太と不仲になりたい訳ではないし、こっちにだって非はある。


 俺も謝らなければ。差し出された手を取ろうと腕に力を込めた時だった――――



【差し出された手を取る】

【自力で起き上がる】

【どこ見てんだボケェ!】



 俺の目の前に突然、恋愛ゲームのような選択肢が現れた――――

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