第4話 情報収集

「ねぇ……あなた、他の冒険者に祝福されるわよ」『ねえ……あなた他の冒険者に襲われるわよ』

「はぁ……肝に銘じておきます」

「え……あなたまさか……いえ、なんでもないわ。そんなはずないもの……」



 そう言った彼女はしまった、とばかりに俺から視線をずらした。でも、一瞬だけど、彼女の目の中に何か期待するような、すがるようなものがあった気がするが、結局そのまま彼女は自分が先ほどまで座っていたところへと戻っていった。馬車の中ではそれ以降会話はなかったけれど、彼女がちらちらとこちらを見ていたのが気になる。もしかしたら一目惚れされた? などと思うほど俺は自惚れてはいないし、何よりも彼女の目はもっと切羽詰まった感じがしたのだ。

 それに少女も気になるが、他の冒険者たちもこちらを見ていたのが気になる。もしかしたら少女に声をかけられたことによって、余計な恨みを買ったのだろうか? 




 気をとりなおして、馬たちにお礼を言った俺はダンジョンに潜る。ソロで行動するのは久しぶりということもあり、緊張をほぐすこともかねて、俺は友人の元を訪ねる。



「おーい、きたぞ。俺だ、シオンだ」

『お、久々だねぇ、寂しかったよ』



 俺の言葉と共に壁の隙間から一匹のスライムが現れた。プルプルの肌を持つこいつはスライムの“ライム”だ。俺がまだ新人の頃に出会ったのだが、このダンジョンで一匹で怪我をしていたので、治療したところ懐いてくれたのだ。それ以来時々こうして会いに行っている。俺はお土産とばかりに、ライムに好物の薬草を食べさせる。



『ありがとう、シオン!! やっぱりダンジョンのより人が栽培した薬草の方がおいしいんだよねぇ。よかったらシオンも食べ比べしてみる? ダンジョン産のがこっちだよ』

「いや、薬草って食べるものじゃないんだけど、塗って傷を治療するものなんだけど」



 俺はライムにつっこみをいれながら薬草を受け取る。ふーん、確かに太陽の光を浴びていないせいか、少し葉が小さい気がする。あと匂いもなんか違うな。



『ちなみにその薬草は、よく、オークたちがトイレをしているところから採取したんだ。独特の匂いでしょ』

「うおおお、思いっきり触ったし、匂いも嗅いだじゃん!!」

『もちろん冗談だよ、そんなばっちいもの僕だって持っていたくないよ』



 そう言うと、ライムは俺が投げ捨てた薬草を食べ始めた。ライムは薬草を主食にしているせいか、こいつの肌には治療効果があるのだ。体を溶かす酸と治療用の酸のどちらも出せるらしい。便利な話である。そういえばオークでアンジェリーナさんの依頼を思い出した。



「まあ、薬草の話は終わりにしよう。それより、ダンジョンでオークが何やら大量発生しているらしいが、知っているか?」



 ダンジョンの事はダンジョンの住人に聞くのが一番だ。街の事はその街の人が詳しいようにダンジョンの事はダンジョンの住人が一番詳しいのである。



『ああ、それならオークのリーダーが代替わりしたんだよ。大量発生というよりも、新しいリーダーのせいで、行動が活発になっているっていうのが正解かな? いつもは巣にいる連中も、ダンジョンをうろついているらしいからね。噂によると、今回のオークのリーダーは人間を憎んでいるらしいよ。シオンも気を付けてね』



 オークのリーダーが変わったのか。魔物はリーダーが代替わりをすると、行動パターンが変わる場合がある。特にオークはリーダーの権力が強いのだ。そのリーダーが人間を憎んでいるとなると、ダンジョンはいつもより危険かもしれない……ギルドに報告した方がよいだろう。

 ちなみにオークはCクラスに分類されている。Cクラスの冒険者で対処できるということだ。今回のアンジェリーナさんの依頼は、俺がソロでCクラス相応の実力があるということを証明してくださいねという試験も兼ねているのだろうと思う。

 とりあえず、数匹狩って帰る予定だったが、実際のオークの動きが普段とどう違うかを調査した方がいいかもしれない。




『そういえば、今日は一人なんだね。いつもの金髪のうざい奴とローブの辛気臭い女と、シオンと仲良い女の子は一緒じゃないんだ』

「ああ、色々あってな。パーティーから抜けたんだ……てか、お前はあいつらの事をそんな風に思ってたのか……ちなみにアスとは単なる幼馴染で、別にそういう関係じゃないからな」

『ああ、パーティーの女の子の下着をかぶっていたのがばれたんだね……どんまい……そりゃあ、居辛くなるよね……』

「お前の俺へのイメージはなんなの? そんなことしたことはないわ!!」



 追放されたことを思い出して俺はちょっとへこんだ俺に気を使ったのかライムがくだらない軽口を言った。



『あのさ、シオン。もしもよかったら、僕も連れて行ってよ。一緒に冒険したいんだ』

「ああ、いいぞ。そういえば、お前とダンジョンに潜るのははじめてだな」

『ふふ、足を引っ張らないようにね、シオン』

「言っとくけど、俺の方がお前より強いんだからな!! ソロでも一応Cクラスはあるってアンジェリーナさんに言われてるんだからな」



 ちなみにスライムはDクラスである。



『はいはい、そうスラねー、シオンは強いスラ』

「お前さっきまでそんな語尾なかったよな!!」



 ライムが仲間になった。昔はイアソンが「スライムなんぞ汚らわしい」といってパーティーに入れることはできなかったが今はソロだ。関係はない。

 俺はライムとパーティーを組んでダンジョンを進むことにした。

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