追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~

高野 ケイ

第1話 パーティーのお荷物は追放される。

「シオン悪いなぁ……お前をパーティーから追放させてもらうよ」


 ここは冒険者ギルドを兼ねた酒場である。これからの事で打ち合わせがあると呼び出されて、開口一番に言われた言葉がこれである。俺の正面には二人の男女が座っている。パーティーメンバーのイアソンとメディアだ。イアソンは金髪碧眼の青年で、貴族のように整った顔の剣士風の冒険者であり、メディアは黒い髪に魔術師がよく着るローブを身に着けている少女だ。


 俺は二人を見つめながら、先ほどの言葉をかみしめて、頭の中が真っ白になった。いや、薄々覚悟はしていたことだ。だが、いきなりすぎるだろうと思う。俺は深呼吸をして心を落ちつけてから答える。



「なんでだよ……一緒にAランクの冒険者を目指そうって約束したじゃないか」

「お前だってわかっているんだろうが!! このままのお前じゃダメなんだよ!! 俺たちがAランクになるにはもっと強くならないといけないんだ!! 英雄である俺の仲間はもっと強くないといけないんだよ!!」

「そんなことはわかっている。俺だって幼馴染のお前たちにおいて行かれないように、色々がんばっているんだ。だから、剣術も、魔術も、法術だって必死に学んだんだ!!」

「全部中途半端だろうが、それにお前のギフトは戦闘向きじゃないんだよ!!」

「イアソン様ここからは私が説明しましょう」



 俺の言葉にイアソンは挑発するように言った。俺は怒りと失意をにじませた目線でイアソンを睨みつける。そんな俺たちの間に入るようにして、メディアは俺を正面から見つめてきた。彼女の目には感情はなく、その様子で俺は悟る。今回の件を言い出したのは彼女だろう。



「はっきり言いましょう、シオンの力ではもう私たちの足手まといなんです。この前のクエストでもあなたはトロル相手にろくにダメージを与えることは出来ませんでしたよね」

「それは……確かにそうかもしれないが、囮の役割は果たしていただろう!?」



 メディアが言うとおり、確かに俺がトロル相手に決定打を与えられなかったのは事実だ。だが、トロルは再生力の高い魔物だ。俺の剣技では威力が足りないので、その分メディアの強力な魔術を詠唱する時間を稼ぐために囮となり切りかかっていたのだ。

 だがイアソンとメディアの責めるような目は変わらない。それで理解をする。トロルとの戦いだけではなく、これまでの戦いの事も言っているのだろう。


 ああ、確かに、俺には決定打がない。例えば剣を練習したり、攻撃魔法や、回復法術を学んだりしたり、自分のギフトを何とか冒険者として使えるように工夫はしてきたつもりだった。でも、そのどれもが中途半端だった。イアソンほど剣が得意というわけではなく、メディアほど強力な魔法を使えるというわけではなく、ここにはいないアスほど、回復法術が使えるわけでもない。ギフトと噛み合わないことをしても限界があるという事だろう。



「私たちはこれからAランクを目指します。そしてイアソン様を英雄にするのです。あなたのギフト『万物の翻訳者』では、これ以上の戦いにはもうついてこれないんですよ……」



 メディアの感情のこもっていない言葉が俺の心を傷つける。戦いについてこれないか……確かに俺には特化したものはなかった。だから俺は雑用や、索敵など、色々なことをやってきたつもりだった。戦闘中だって、みんなのフォローをしてきたつもりだった。でも結局そのがんばりは認めてもらえてなかったんだな……そのことに気づいた俺は急に熱が冷めるのを自覚する。




「そうか……もう、俺を追放するってお前らで決めたんだな……なぁ、イアソン……アスもこの話は知っているんだよな?」

「あ……ああ、当たり前だろう。なあ、メディア、アスにも確認しているよな?」

「もちろんです、私達全員の意見ですよ、シオン。今までありがとうございました。」



 最後通告とばかりの彼女の言葉を聞いて席を立った。わかっていた、わかっていたんだ。俺ではもう無理だっていう事は……せめて二人には泣き顔をみられたくないので、すぐにこの場を去ることにした。ああ、でも、幼馴染のよしみで最後に一言だけ言っておこう。




「イアソン、お前は調子に乗りやすいから気をつけろよ、メディアもイアソンをフォローしてやってほしい」

「当たり前です。私はイアソン様の杖ですから」

「はっ、お前にそんなこと言われないくてもわかっているんだよ!! 負け犬はさっさと去るんだな!! ああ、アイテムと軍資金は置いておけよ。装備だけはくれてやるからさ」

「ああ、わかったよ……冒険者ギルドに返しておく」




 俺は今にもあふれそうな涙を何とかこらえながら彼らを背にした。もう、彼らと飲み交わすことはないのだろう。



 冒険者という職業がある。その仕事は多岐にわたる。たとえばダンジョンに潜っての宝探しだったり、魔物退治、薬草の採取、簡単なおつかいなどそれは様々だ。


 また冒険者のランクはSランクが一番上でA、B、C、D、Eと分かれている。Eが見習い、Dが初級者、Cが中堅で、ここから先は上がれる人間は限られるといわれている。Sランクは世界を救うほどの活躍をしたものであり、救世主と呼ばれる存在だ。長いこと冒険者をやっているが俺も会ったことはない。まあ、そんなこんなでSランクは現実的ではない。一般的な冒険者はAランクを目指すのだ。



 かくいう俺も冒険者である。しかも街でもっともAランクに近いBランクといわれている『アルゴーノーツ』一員なのだ。いやだったというべきだろうか、たった今解雇されたのだから……


 ここまでくるのは長かった。幼馴染のイアソンとアスと田舎からでてきたはいいものの、ゴブリンたちとの戦いに苦戦したり、うまくいかないとわめいているイアソンをフォローしたりと、色々あったものだ。その後にメディアを仲間に加え、順調にキャリアを積み上げてきた。しかし、最近仲間に比べ、俺の成長は遅くなってきたのがわかっていた。そして原因もわかっていたのだ。すべては俺の持つギフトのせいである。俺のギフトは『万物の翻訳者』だ。イアソンのような『英雄』でもなく、メディアのような『大魔導士』でもなく、アスのような『医神』でもない。『翻訳者』である。せめてもっと戦闘向けのギフトだったら俺の人生は違ったのだろうか? 


 俺は思い出に浸りながら一人自分の部屋で泣き叫ぶ。過去の友人たちとの思い出と自分のギフトを呪いながら泣き叫ぶ。俺にもっと力があればこんなことにはならなかったのだろう。俺はつらいことを忘れるために酒を飲むのであった。


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