4章 誕生③

「まずは・・・そうねぇ。洒落のつもりではないんだけど、手始めにって言葉があるぐらいだから手から始めましょうか。綺麗に施してあげるから前に出しなさい」

奈津子は恐る恐る両手を出した。

「あたしの手には火事で負った火傷の跡があって、それを隠すために手袋を嵌めているんだけど。それに引き換えあなたの指は細くてしなやか,爪はツヤのある薄ピンク色,汚れを知らない少女のお手手って感じねぇ。そんな爪を口元とお揃いのネイルカラーで大人の手に変えてあげる」

リップスティックを戻した通り魔は1本の液体の入った小瓶を手に取ると奈津子の爪に塗り始めた。それはペースコートでネイルカラーの持ちと発色を良くさせるためのものであった。続けて手にした小瓶には真っ赤なポリッシュが入っていた。刷毛にポリッシュを適量含ませてネイルの裏側と先端のエッジ部分を縁取るようにして描き、次に表面の中央部分,両サイドの順にはみ出さないようにして塗っていく。すべての爪に塗り終えると今度は刷毛にポリッシュを少し多く含ませて1度目と同様にして2度塗り進められた。通り魔は塗りムラ,はみ出しの有無を確認するとまた新たな小瓶を手に取り重ね塗りを始めた。それはラメ入りのトップコートで爪全体に塗ることで奈津子の爪に光沢のある輝きを浮かび上がらせた。

「どう、気に入ってくれたかしら。口唇と爪の相乗効果であなたに妖艶な魅力が加わったでしょう」

「・・・『うわ~、これいい』」

奈津子が鏡に覗き込むと口唇に真っ赤なルージュ,爪に真っ赤にマニキュアを塗布させた見知らぬ女性が映し出されていた。

「今はまだ真っ赤な爪があなたの指に馴染んでいないけど、両手が真っ赤に染まる頃になればもう元には戻れなくなるわ」

「???『どういうこと』」

奈津子には言葉の意味が理解できなかった。


「よく見ると可愛らしいパジャマじゃない。ただ、真っ赤なお口には不釣り合いな気がするわね」

奈津子は病衣として色がピンク,水玉模様の柄に衿元や袖口、裾にフリルをあしらったワンピースタイプのパジャマを着ていた。

「あたしに相応しいお洋服ってんのがあるでトータルコーディネートしてあげる。まずは着ているものを脱ぎなさい、もちろん下着も含めて全部よ」

「ひぇぇ~~~」

奈津子は命令の内容に驚き躊躇してしまった。

「早くなさい!それともまたご褒美が欲しいんなら構わないけど」

ご褒美の言葉に大根の苦しかった記憶を思い出した奈津子は素早く立ち上がるとゆっくり衣服を脱ぎだした。通り魔は空いたベッドに腰掛け、脚を組むと奈津子の脱衣行為を楽しむかのような笑みを浮かべた。パジャマの下には色がホワイト,ピンク色の横縞模様の柄がプリントされたキャミソール、そしてお揃いのショーツを身に着けていた。赤の他人の前で下着姿となった奈津子は恥ずかしさあまりにその場にしゃがみ込んだ。

「何度も言わせないで・・・まったく~、しょうのない子ねぇ」

業を煮やした通り魔は再びハサミを手にして立ち上がると奈津子の背後に回り込んだ。

「な、何をするつもりですか」

「自分では脱げないんでしょう、だったら手伝ってあげようかと思って」

キャミソールのストラップ(肩紐)とサイドベルト,ショーツの両サイドにハサミが入れられ下着を切り刻まれた奈津子はあっという間に全裸にされてしまった。

「邪魔な布切れがなくなってスッキリした所でもう1度立ってくれるかしら」

「・・・」

奈津子は両手で前を隠すようにしながらその場に立ち上がった。

「そうねぇ、女子高生にしてはなかなかなボディーと褒めてあげたい所だけど・・・女性の美しさには程遠いわね。そんなあなたを大人の女性へと変えてくれる魔法のアイテムとしてこれを身に着けてみなさい」

通り魔は布切れを数枚取り出すと奈津子に手渡した。よく見るとそれは奈津子がこれまでに見たこともないような極端に露出度が高く,卑猥なデザインの下着類であった。ブラジャーとウエストニッパー,ガーターベルトが一体化したスリーインワンと呼ばれる下着で上カップと裾には肌が透けるような刺繍のレースが施されて、またショーツの前面とストッキングの太もも部分にもコルセットと同様の刺繍のレースが施されていた。それらのすべてが奈津子の口唇や爪とお揃いの真っ赤な代物であった。

「素っ裸で突っ立っているよりは多少なりとも恥ずかしさが抑えられると思うんだけど」

全裸であること思い出した奈津子は恥ずかしさに耐えきれなくなってショーツへと手を伸ばした。

「あはははははは」

通り魔は奈津子がこれまでにガーターベルトを身に着けたことがないことに気が付くとせせら笑いを浮かべた。

「???『何がおかしいの』」

「先にショーツを着けようものならお手洗いの時に困るんじゃなくて」

ハッと気がついた奈津子は口元や爪だけでなく、頬までも真っ赤に紅潮させた。

「ごめんなさい、初めてなら知らなくても当然よね。クスクスクスクス、着けてあげるわ」

そう言うと下着類からスリーインワンを手に取り奈津子の背後に回り込んだ。ストラップ(肩紐)に両腕を通させ肩にかけると、袖を持って奈津子の背中側に回した。背面に並ぶ2列11段のホックを次々と留め,周囲からお肉集めてカップに入れ,アジャスターの長さを調整するとシルキー素材でコルセットタイプのスリーインワンが均整の取れたボディラインを引き立たせて胸元にピッタリフィットした。続けてストッキングを手に取り今度は正面に回り片膝をついてしゃがみ込んだ。ストッキングのウエスト部分から爪先にかけて手繰り寄せて差し出されると奈津子は恐る恐る脚を入れた。通り魔はストッキングを爪先,かかとにピッタリフィットさせ、足首から膝を経て太ももへと隙間なく引き上げる。ガーターから伸びる2本のクリップでストッキングの上部を挟み込んで一体化させるとナイロン素材でできたオペークタイプ(少し厚手)のストッキングが細く引き締まった脚を演出し、縦に走る1筋のバックシームのラインがセクシーさを演出させた。通り魔は1度立ち上がってショーツを手に取り再び正面に回り片膝をついてしゃがみ込んだ。ショーツの両サイドを広げて差し出されると奈津子も再び脚を入れた。ストッキングと同様に足首から太ももを経てウエストのラインまで引き上げる。バックスタイルがTバックのデザインになっていて、お尻のラインを綺麗に見せる演出がなされていた。

「あたしが思い描いた以上に素晴らしいボディーの持ち主だったみたいね。下着たちがあなたのボディーを気に入って・・・そう、表現するなら自らの一部として取り込み始めてるって感じかしら」

鏡には全身真っ赤な下着類を身に着けた娼婦のような出で立ちの大人の女性が映し出され、そこにはもう女子高生の面影を残した少女の姿は消え失せていた。自らの姿に恥ずかしくなった奈津子は再びその場にしゃがみ込んだ。

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