第22話 元カップルと放課後デート

 ※優希※


「今日デートしない?」


 九月のある日の帰りのホームルーム後、帰り支度をする俺に真昼が耳打ちしてきた。

 これは俗に言う放課後デート、と言うやつだ。


「うん、いいよ」


 特に断る理由もないので快諾する。

 当然初デートではない。放課後デートこそ初めてだが、デート自体はこれで三回目だ。

 初デートはどうなることかと思ったが、大したハプニングもなく、そして語る間もなく終わった。


「じゃあ行こ!」

「お、おう」


 俺は真昼に手を引かれ教室を後にする。

 別にそんなに急がなくてもいいのでは?と思うが、今の景色を切り取ったらラブコメみたいで気分がいいので流されるがまま走る。


「優希どこか行きたいところとかある?」

「んー……特には」


 ……あ、行きたいところがないって、デートにあまり乗り気じゃないみたいじゃないか!


「こ、この前俺の行きたい所行ったから、今度は真昼の行きたい所でいいよ!」


 ……ご、誤魔化せたか……?

 家に帰ったらデート候補地をリストアップしておこう。

 俺がそう決意していると、真昼は「そうだなぁ」と少し考えてから、


「とりあえず、そこら辺歩かない?」


 俺にそう伝えるのだった。



 ※萌結※


 放課後デートに向かう真昼と優希を教室の窓から眺める。

 二人は、当然私が見ていることに気が付かない。

 ふと、ガラスに反射した私の顔が視界に映る。


「……」


 いいなぁ……と、思わず零れそうになった言葉をぐっと飲み込む。

 真昼は真昼なりのやり方で戦っているのだ。今の私にはない『彼女』というアドバンテージを使って。


「帰ろ……」


 本当はもっと早く帰ることが出来た。それでも教室で時間を潰したのは、仲良く帰る彼らの後ろ姿を見たくなかったから。……結局見ちゃったけど。


「あれ?今帰り?」

「う、うん……」


 私がスクバを持つと同時、何やら用事でホームルームが終わるなりそそくさと教室を出ていった中村くんが戻ってきた。

 き、気まづい……!

 今教室には私と中村くんだけ。

 告白されて以降、二人きりになる場面はなかったので緊張してしまう。

 なんて言うのが正解なんだろう……。「一緒帰らない?」いやいや、私が優希のことを好きだということはバレてると思うから、こんな二股掛けるようなことは出来ない。

 すると、そんな空気を悟ったらしい中村くんが、



「笹川、一緒に帰らないか?」



 そう私に伝えるのだった。



 ※優希※


 椿高校から駅とは逆方向に言ったところに、大きな森林公園がある。広場に小川、古民家体験などの出来る公園だ。

 入場料もいらないため、この時間は近所の小学生たちや老人、小さい子を連れた親子などで賑わっている。

 高校生といえばカラオケやスポッチャなどを想像しがちだが、こういうのも悪くない。

 流石は真昼、お金を使うデートだけがデートではないのだ。


「暑すぎないし寒すぎない。うーんきもちー!」

「そうだなー」


 秋はまだ始まったばかりなので紅葉はさほど見られないが、もっと秋が深まる頃にはきっと綺麗な紅葉が見られそうだ。

 ……なんて考えながら、俺は必死に湧き上がる想い出を閉じ込める。


「優希?」

「……え、ごめんぼーっとしてた」

「何か悩み事?」

「いや大丈夫」


 そう俺が言うと、真昼は必要以上に深入りしてこない。

 真昼に気を使わせていると思うと罪悪感が増す。同時に、早く俺の中で笹川をしないといけないとも思う。


「焦らなくて大丈夫だよ優希。ゆっくりでいいよ。優希の足並みに、私が合わせるから。だから……大丈夫」

「……ごめん。ありがとう」


 俺の罪悪感は増す一方だった。



 ※萌結※


 笹川萌結、十五歳。

 クラスカーストトップに位置する私は、一人の男の子に恋をしていた。

 その彼の名は佐々木優希。何もかもが平々凡々の陰キャ男子。


「流石にハート型のハンバーグはイタイかな……」


 そんな私はとある作戦を用意していた。

 教室内で私と佐々木くんが話していたら変な噂が立ちかねない。そのせいで疎遠になってしまうのは惜しい。

 そこで私が考えたのが『ドタキャンで予定潰れちゃったけど準備しちゃったから来て〜』作戦である。

 あくまで仕方なく!!!仕方なく彼を誘ったていにするのだ。


「うふふ〜〜♡」


 髪をポニーテールに結び、男の子のためにお弁当を作る恋する乙女はさぞ画になることだろう。

 そう、作戦はピクニック!

 クラスの仲良い組でピクニックに行こうと話していたが、立て続けにドタキャンされた可哀想な私を演出するのだ。そして、すでにお弁当は用意してしまっていて、このままでは食糧放棄になってしまうから代わりに来てくれないか?と請うのだ。

 優しい彼は否が応でも来てくれるはず!


「隠れハートを作るのもありね……。人参とか……?」


 もちろんそんなのは嘘。私の自作自演である。それがバレれば当然大変なことになるが、私とピクニックに行ったという事実を佐々木くんは下手にばら撒くような人ではない。

 なんて完璧な作戦!私って天才!


「♡♡♡」

「…………萌結が料理しているわ……。あの萌結が!あれは恋する乙女の顔」

「お母さんはあっち行ってて!!!」


 お母さんをリビングから追っ払って、私は完成したお弁当を写メに撮る。

 そしてメッセージアプリを開き、佐々木くんにメッセージを送る。


『ピクニックドタキャンになっちゃった(泣)せっかくお弁当作ったのに勿体ないから明日○○公園に来てくれない?お願い〜〜〜』


 そして先程撮った写真を送る。

 さあ、準備は出来た!あとは果報を待つのみ。

 しばらくして既読が付く。


『わかりました。作っちゃったのは勿体ないですから……。何時に行けばいいですか?』


 やったぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!


「むむ、あれはやはり乙女の顔」

「お母さんはあっち行ってて!!!」


 よくやった!私!

 ────翌日。とある森林公園に私と佐々木くんは集まった。

 急なお願いなのに来てくれる佐々木くん優しい!好き!

 レジャーシートを敷き一息つくと、


「はいこれお弁当」

「あ、ありがとう……」


 私は「みんな用に重箱に詰めてたんだけど、いらなくなっちゃったから」と前置きしてから、包んだお弁当を渡す。


「食べて感想聞かせてよ」

「う、うん…………」


 佐々木くんはぎこちない手つきでお弁当を開ける。

 まずは胃袋を掴んで、告白の成功率を上げるのだ!

 佐々木くんに、私の作るお味噌汁飲みたいを思わせる!これはそのための第一歩!


「い、いただきます」


 そういって、プラスチック箸でお弁当の隅にあった卵焼きを取る。

 ドクドクと緊張で心臓が大きる弾む。


「美味しい……です」


 ぶわっと涙が込み上げてくる。

 料理下手な私が卵焼き一つ作るのに要した卵は十個。そのうち九個は見事なスクランブルエッグになった。

 努力の結晶。それを好きな人に褒められて喜ばない人がどこにいる。


「とても、美味しいです……」


 今すぐ彼を抱きしめたかった────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る