彼と彼女の友人。

「なるほどねー、後輩に彼氏取られそうなんだね」

「そ、そうは言ってない。ただちょっと心配なだけ」

 私は最近の悩みを数少ない友人に相談した。

 後ろを向いて、私の席に肘を肘をついている女の子。

 私とは違って恋愛経験豊富な蘭恋かれんは、高校生になってから知り合った。

 入学当初、席が前後ということでよく話すようになり、そこから一緒にいる時間が増えた。

「だって、話を要約したらそういうことでしょ?凛華とは違って元気な活発な子に、赤松が目移りしそうって」

「……そういうことです」

「ほらねー、凛華ってすぐ見栄を張るから。嫉妬してるくせにそうじゃないとか言い張ってさ」

「ぐうの音も出ません」

 相談というのはつまり私の嫉妬心についてだ。最近になって私の中の嫉妬心を自覚し始めた。

 一輝は、嫉妬してくれて嬉しいとか、どんどん甘えてほしいとか、言ってくれたけど私の中でこの問題が解決したわけではない。

「でも凛華も変わってきてるんじゃないの?前まではっきり口にしなかったのに、今度はちゃんと出来たんでしょ?赤松は鈍感だからねー。ほら復縁する前に、凛華が遠回しで手を繋ぎたいって伝えようと……んーっんー」

「それ以上先は言わないでっ」

 余計なことを喋る口を両手で塞いでやった。

 軽く塞いでるし息はできるから見た目ほど苦しくないはず。

「げほっげほっ。殺す気か〜」

「うるさい。蘭恋が悪いんだからね」

「そう言われても…うん、ごめん。それだけはやめてよ?」

 彼女が大切にしているアイドルグループのメンバーのキーホルダーを叩き割ろうとすれば、すぐに大人しくなった。

「まったく。こっちは真剣なんだからね」

「ごめんごめん。その代わりって言ったらあれだけどアドバイスするからさ」

「なになに?」




 ********

 昨日は結局お家デートみたいな形になった。

 いつも以上に凛華に甘えられて、とても充実した日だったと思う。

 あの時の凛華可愛すぎて……。

 思い出す度に萌え死にそうだ。

 今日も凛華と甘いひと時を……っと思ったが、そうはいかなかった。

 友人に連れられ、何故かトレーニングジムに来ていた。

 いや、本当に何で、と問いただしたら女の子が美容やファッションでお金や時間を使って努力するように、男はお金と時間を使って筋肉を鍛えるべきだ。

 と、ちょっと普通に納得してしまう理由を述べられ、後に引けなかった。

 会員制のトレーニングジムであるが、料金を支払えば利用できるようだ。これは友人の泰晴たいせいが会員であるため、会員の連れも料金を払えば問題ないとの事だった。

「最近速水さんとはどうなん?なんか急にベタつくようになっとるけど」

「はぁ、はぁ。べ、別に、ベタついとるとかじゃ、はぁ、ないけど。はっ、今、話してかけて、はぁっ、くるの、やめてくれ」

 トレーニング前のアップとして15分間の有酸素運動に取り組んでいるが、アップとかいうレベルを超えて、俺からしたらただの追い込みになっていた。息を切らしてついていくのが精一杯だ。なのに何故こいつは、息も切らさず喋る余裕があるんだ?


 その後も泰晴の質問攻めは続いた。休憩中に聞けばいいものを何故かトレーニング中に聞いてくる。

 ベンチプレスをしている時、スクワットをしている時、ラットプルダウンをしている時。絶え間なく続く質問にちゃんと答えているか心配だ。……答えず無視するとトレーニングの負荷を強制的に上げさせられるから無視という選択肢は無かった。

 一時間を超えるトレーニングを終え、疲労困憊状態に陥り、ちゃんと帰宅できるか心配になった。

 動かない体を何とか動かし、ゆっくりだが歩いている俺に少し先を歩く泰晴が後ろを振り返った。

「やっぱりお前が一番だよ」

「何言ってんだよ。俺はお前についていくのが精一杯だったじゃねーか」

「トレーニングの話じゃねーよ。速水さんとの相性の話だ」

「なんで、急にそんな話になるんだよ」

「いやなに、今日ずっと質問して今まで教えてくれなかったことも教えてくれただろ?」

「はっ?いやちょっと待て。俺なんかいったか?」

「やっぱり頭を回す余裕が無かったのか。正直に全部答えてくれてありがとうな」

「はぁっ?お前まさかそれを狙って」

 喋って話しているうちに最寄り駅へと着いた。

 これから登らなければならない階段を見て、少し絶望した。

「んー?たまたまだ。これは本当に。なんか素直に答えてくれるからちょっと踏み切った質問もしてみたらってこと」

「…具体的には何を聞いたんだ?」

「なーに、噂の確認だよ」

「なんだそれ」

「一回別れたんじゃないかって言う」

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