第30話 奥さん、スタンピードですってよ

 翌日、泊った宿から出た愛斗と練の二人は朝早くから次の町へと向けて出発していた。

 早く目的の町、フォールへと向かいたいというのもあって早く出ていたのだが、実は愛斗たちが村から出て少しした後、愛斗たちがこの村に入った時と同じ側、つまり愛斗たちの出て行った反対方向から、フーリの町の兵士たちが村へとやってきていた。

 兵士たちは、すぐに村長の元へと走っていくと、伝令を村長、そして何があったのかを気にして村長の家に集まっていた村人たちに向けて伝えた。


 その内容は、フーリの町、そしてフォールの町の間のどこかで、ゴブリンが大量発生している、スタンピードの可能性が高いので、避難をするように、というものだった。

 どちらの町へと押し寄せてくるのかは分からないまでも、もし襲われたら今いる村などすぐに潰されてしまうだろうということで、村人たちは騒ぎ始めてしまった。

 兵士たちは、村人を落ち着かせようとしたが、一度騒ぎ始めてしまった彼らはなかなか落ち着かず、何とか落ち着かせて移動を開始した時にはもう太陽が空高く上った頃になっていた。

 村人たちは慌てていたせいで直前で村から出て行った二人組の事を思い出せず、兵士たちは一刻も早く村人の避難をさせる必要があり、結果として愛斗と練はその情報を知ることなく歩き続けていくのだった。




 その日の夜、次の村、フォールの町のひとつ手前の村についた愛斗たちは途方に暮れていた。

 もう夜も遅いという事でこの村で宿を、宿が無いならばどこか物置でも貸してもらって休もうと思っていたのだが、村の中には人一人おらず、どの家も鍵をかけられており、どうしたものかと悩んでいた。

 今日も今日とて、道中でゴブリンに何度も襲われていたので、せめてしっかり眠って休息をとりたいところだったが、このままでは野宿になりそうだし、村から人が居なくなるという事は何か起きているのではないか、と落ち着かない気持ちになっていた。


「う~ん……。どうしようか? 勝手に入って休ませてもらう?」


 休みたい気持ちが強いのだろう、練がそう愛斗に尋ねてくるが、愛斗は愛斗で別のことを考えていた。


「いや、勝手に入るのは悪いから止めておこう。それより、このまま夜の間もフォールの町に向けて急いだほうがいいかもしれない。ここで何かあったなら俺たちもここに留まるべきじゃないし、まだ情報が伝わってないなら一刻も早く向かった方が良い気がする」


 愛斗は、今の状況に何か不気味なものを感じていた。

 考えるまでも無く、今の状況は非常事態ではあるのだが、ここでそれを調査しようにも情報が足りなさ過ぎていて何を調べたらいいのか分からない、もしかしたらとんだ藪蛇になるかもしれず、それならばまだ情報のありそうな大きな町へ、もしくは情報が無いにしても伝えるためにフォールの町へと向かった方がいい、その考えを練にも伝えると、練も納得したようで、ここまでの道のりを歩いてきて疲れているはずではあったが、二人はこれまでの道程を進んできたとき以上の速さでフォールの町へと、夜の闇の中を急いだのだった。




 フーリの町、そしてフォールの町では、避難してきた近隣の村の住民の対処に追われていた。

 更にいつゴブリンたちが現れてもいいように防衛の準備もあるので、夜であるのにも関わらず、町の中は普段とは違った様子で、誰もが走り回っていた。

 流石に防壁に囲まれた町であるフーリ、フォールの町からは別の町に逃げるよりもここに居たほうが安全だという事で逃げ出す者は少なかったが、それでも誰もが、特に戦うすべを持たない子供たちや歳をとった年配の方々は無事に済むように、と祈っていた。


 それぞれの町にいた冒険者、兵士、傭兵といった戦いを生業とするものは、交代制での監視網を敷き、いつ来ても対応できるように張りつめた夜を送るのだった。


 ただし、フーリの町では確かに張りつめていたのだが、フォールの町では少し様子が違い、一人の若者が皆を鼓舞し、緊張感はあるものの皆がやる気に満ち溢れているのだった。

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