第1話……エピソードⅢ……夏営地イマキヤ

★中央アジアの人々のことわざ

悲しむ人の沈黙は話す人の言葉より響く。

1363年6月下旬の日曜日午前10時…夏営地イマキヤ

 大半はイマキヤに到着していた。ラクダたちもそろそろ到着する。

イマキヤとその北西にあるキマックカガンはモンゴルに滅ぼされたキマック連合

の主な町であった。


 キマックカガンはその名の通り、

キマック連合の王族や貴族たちが住む宮殿の所在地であった。

市場や寺院があった。今はモンゴルに取り壊されて廃墟となっている。


 イマキヤはキマック連合の交易の中心であった。

今もなお草原の道の交易路の中継地として栄えている。夏は冷涼で大変快適である。

個々の住民は半数が定住し耕作・牧畜を行っている。

残りの半数はアドリアンたちのような完全な遊牧民である。


 定住民たちは小麦、キビ、大麦、マメ科植物、米を耕作する。

ブドウを栽培し、養蜂も行いハチミツを出荷している。

牧畜はやはり馬、山羊、羊である。貧しいものは牛を育てている。

夏季以外の寒さを凌ぐために定住民たちはトンネルを何百本も掘って

トンネルの中に住居を作っていた。


 アドリアンたちは井戸を掘るついでにトンネル工事も請け負い金銭報酬を得ていた。

アドリアンの兄弟姉妹と従兄弟・従姉妹たちと部下たちが工事を請け負った。

この季節のメインの仕事は獣のグループ狩りである。戦闘訓練にたいへん役に立つ。

この時には部下たちも参加する。主に北部の森林地帯で行うが、

トラやユキヒョウを狙ってもっと北の方やカスピ海まで行くこともある。

 西シベリアにあるチンギ・チュラ周辺に向かうことが多い。

この辺りは漁労ぎょろう及び狩猟採集を生業なりわいとする

南部ハンティ族の縄張りである。

 ハンティ族の捕る野生動物は、哺乳類ではヒグマ、クズリ、アカギツネ、

キタキツネ、イタチ、テン、オコジョ、ミンク、カワウソ、野生トナカイ、

ノウサギ、リス等、鳥類ではガン、カモ、ハクチョウ、ライチョウ等である。


 アドリアンは辺りで一番高い木の上にスルスルと登り、獲物が居るかどうか

確認する。貂や黒貂、白貂などはめったに見つからない。

今日はトナカイ50匹、アカキツネ50匹、ミンク5匹、カワウソ30匹、ヘラシカ20匹、

てん3匹、黒貂くろてん5匹、白貂しろてん2匹、ビーバー10匹を見つけて犬に追わせた。兄弟たちに処理を任せた。


 テムジンがヒグマを発見した。俺とテムジン及びジェベの3人で倒した。

獲物を兄弟たちがさばいて肉や内蔵及び毛皮をすべて埋めた。

自然冷凍になっている。


 ユルタを組み立ててから宴会を開いた。

今日の功労者は俺とテムジン及びジェベだ。

テムジンとジェベに大金貨を5枚ずつやった。全員に小金貨を10枚ずつやった。

大喜びして酒盛りが始まった。


 ムカリが悔しそうに

「明日はユキヒョウを狙ってもっと北の方に遠征しよう」

と云う。

 ジェベが「今は季節が真夏に向かっている。

雪が降るのもかなり北まで行かないと期待できない。

無理をせず秋になるのを待とう」 と云う。


 テムジンが「一度ペルム地方に行ってみたい。

舟で川を下れば行けるんじゃないか」 と云う。

「木材を伐採するのも良いんじゃないか」 皆賛成した。

明日からの英気を養うため全員ユルタでぐっすり眠った。


7月上旬の月曜日朝5時…チンギ・チュラ

 何時もの時間に目を覚ましたアドリアンは

仲間と一緒にペルム地方に向かった。


 川を上りウラル山脈を西に越えようとした時、賊に襲われた。

100人ほどだったが、全員捕縛した。尋問すると現地人だった。

ウゴール人だと行っていた。多分今日こんにちのハンティの祖先

だと思うがはっきりしたことは分からない。


 チュメニ・ハン国の奴らに何時も毛皮や蜜蝋みつろうを強奪されているそうだ。

「最近では森林まで勝手に伐採されて困っている」 と云う。

アドリアン「俺達の傘下に入らないか?

俺達は交易の利益の3%を出すだけで保護してやるぞ。

毛皮や蜜蝋・木材は妥当な価格で購入してやる」

連中はそういうことなら傘下に入ると約束した。


 族長のところに行き、契約を取り交わした。大量の毛皮や蜜蝋みつろうおよび木タールを手持ちの瀝青炭れきせいたんと交換した。

アドリアンはここに砦を築くことにした。

ジャムカを千戸長に任命し、奴隷を使って砦を築かせ守らせた。

部族の者にペルムまで案内させた。


7月上旬の木曜日午後9時…カマ川流域のペルム地方

 ここはズイリャン人と呼ばれた北方集団「コミ人やペルム人」が昔から

住んでいた。

ここで交易商人から戦闘奴隷を3,000名購入した。大金貨1,000枚支払った。

ノヴゴロド公国の貴族達に収奪されていた住民を救うべくアドリアンはペルムにも

砦を築いた。チラウンを千戸長に任命し、奴隷を使って砦を築かせ守らせた。


 アドリアンは交易商人から「ブルガルまで川船に乗って1週間で往復できる。

ブルカルにはイスラム商人が優秀な奴隷を売っている。」 と聞いた。

アドリアンは大金貨3,000枚を費やしてブルガルで各種奴隷を合計7,000名

購入した。手持ちの瀝青炭や毛皮・蜜蝋などを販売して金のインゴット1,000枚

を得た。十分に元が取れたわけだ。

如何にこの地域では瀝青炭や毛皮・蜜蝋が必要か再認識した。

十分軍備が整ったので、チュメニ・ハン国と決着を着けることにした。


★ある日ユルタにて

 簡易風呂を作った。シャボンを付けて身体を丁寧に洗っている時に

ラドミラさんが忍び込んで来た。

ラドミラさんの服を脱がして同じ様にシャボンを付けて身体をタオルで擦ってやると

面白いくらいにあかが取れた。ラドミラさんに見せると驚いて笑っていた。

お風呂の中で抱き合うのは気持ちの良いものである。

しばらく抱いていなかったので新鮮だった。

久し振りの感触だ。おそらくラドミラさんもそう思っているだろう。

顔をアドリアンの胸に埋めてひさしぶりに甘えるラドミラさん。

もう一度2人の身体をお湯で洗い流してタオルできれいに拭き取った。

2人は抱き合ってぐっすり眠った。


★手作り石鹸

 雨水と米ぬか及びサクサウルの木を燃やして作った木炭を材料にして作ります。

①木炭に雨水を加えて灰汁あくを作ります。

灰汁あくに米ぬかを混ぜます。

これで出来上がりです。固形石鹸ではなく柔らかい石鹸です。

でも殺菌力と洗浄力はちゃんとあります。

固形ではないので交易品としては使えません。


8月上旬の日曜日午後10時…キシリク

 チンギ・チュラチュメニに向かい、首都のキシリクを襲撃した。

今まで襲撃を受けたことがなく油断していた奴らは簡単に降伏した。

シバン一族の幹部及びチュメニ・ハン国のハンとその息子を処刑した。

残りの連中は捕虜にした。今後はキシリクを第2の夏営地として使用する。

戦利品として大量の毛皮、蜜蝋みつろう、木タール、魚油、冷凍肉、

金塊10トン及び捕虜1,000人、女奴隷500名を手に入れた。


★毛皮の豆知識

 毛皮は皮と毛から成る。皮は表皮「上皮」、真皮、皮下結合組織から成る。

皮下結合組織は皮を剥いだときについてくるものであり、脂肪分が多く、

なめしの過程で取り除かれる。

真皮は毛を支えている部分であり、ここが鞣しの対象となる。

毛は長い上毛「刺毛」とその下に生えている下毛「綿毛」、

髭など特別に発達した剛毛「触毛」から成る。

刺毛は強く弾力性に富み体を守る役割を担い、艶があって色彩にも富む。

綿毛は刺毛と比べて柔らかく短く密生しており、体温の発散を防ぐ。

この綿毛の密生度が高いものが高品質の毛皮とされる。

密生していないと、刺毛が寝てしまい毛皮の保温性や美しさが

損なわれるからである。

ウシやウマはこの刺毛だけを持ち、メンヨウは綿毛だけを持つ。

毛は熱の不良導体であり、また綿毛の一本一本の隙間にある暖かい空気が層を

なしているため保温力が高い。刺毛が水をはじくため毛皮には撥水性がある。

 毛皮の耐久性については、肉食の水生動物の毛皮が最も高く、

次に陸生の肉食動物、草食動物となっている。

最も耐久性の高い毛皮はオットセイやラッコの毛皮だが、

カワウソの毛皮が最も耐久性に優れており、帽子や頭巾等に使用されている。

カワウソの刺毛が剛毛すぎるときは刺毛を抜いたり刈ったりして

綿毛の柔らかさを出して使用する。

かわって、草食動物の毛皮は毛が折れたり切れたりしやすく、耐久性に劣る。

 トナカイの毛皮の衣服を着ると、汗をかいても凍らず、

ソリに乗っても風を通さず、毛皮に雪がついて固まってしまっても、

たたけば雪を払うことができ、凍えることもない。


★アドリアン13歳

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