第34話 結婚の報告

 最初バルトルトはごねていた。

 バプティスト様の男爵邸に籍を入れに行った時…


「式を開かないのですか?」

 と言われて


「そんなのする金は無いし…別にしなくてもいいだろ?呼ぶ相手もいない」

 と言っていた。しかしバプティスト様は


「でもヨハンナ様はしたいでしょう?ご両親を呼んだり少数でも着飾ったドレスとか見たくないんですか?」

 とバルトルトに言うと


「そ、それは…しかし…」

 バルトルトが勇気出して指輪をくれただけで無理してることは知っていたから私も


「いいんです。別に式はやらなくても…」


「お金なら私が出しますよ。教会で式は色々あり嫌でしょうから私の家でどうですか?」

 と言う。


「そんな!領主様の家で!?」


「まぁまぁいいじゃないですか。困ってる領民達の為にも私は一肌脱ぎますよ?」

 とにっこり言う。

 結局、街の人も呼んで話し合いが行われ着々と準備が整う中、ようやくバルトルトは普段のローブを脱ぎ捨て…なんかきっちりした服に着替えて私の実家の伯爵邸まで挨拶に行った。もちろん服はバプティスト様から貸してもらった。


「くっ!」

 と恥ずかしがるがとてもカッコいいのに勿体ない。


「お、お義姉様!」

 と久しぶりに顔を出したのは義弟になったセルバだ。


「バルトルト様も!そんな格好するなんて珍しい!!あ!ついに結婚の報告ですか?ですよね?」

 とベラベラと喋りだし嫌な顔をするバルトルト。


「相変わらずうるせえなお前」


「えへへへ!バルトルト様も変わらないなぁ!!」


「坊っちゃま!お嬢様、バルトルト様も!さぁ、こちらへ」

 とセルバの執事になった男が声を掛けて応接間に行く。


 両親は私を見て喜びバルトルトのことも快く迎えた。


「何?もう籍を入れたのか!おめでとう!!」

 と父と母は喜んだ!!セルバもにこにこしている。


 セルバは養子になり貴族として恥ずかしくないよう勉強を頑張っているようだ。ダイスラー家の跡取りとしてしっかりと。


 私は椅子で縮こまっているバルトルトに小さく囁いた。


「バルトルトさん、ほら!お父様達にご挨拶!」

 と言うとギギッとようやく顔を上げて


「……あ……そ、その…報告が遅くなってしまい…この度は娘さんと結婚をしまし…て…」

 ともごもごと喋る。


「あらあら…とても緊張していらっしゃるわね。いいのですよ。大賛成ですもの!式は私達も呼んでもらえるかしら?まさかショーベンハウアー様のお屋敷で執り行うなんてね」

 母のトレイシーが微笑んだ。


「は…はいっ!ももももちろん。いらしてください!!」

 とガタガタと震えながらも招待状を渡したバルトルト。

 父のダリウスは


「バルトルト様…少しお二人でお話でもなさいませんか?」


「えっ!?…お、俺と!?」


「ええ!一応花嫁の父ですしね」

 と笑うお父様。余計なこと言わないで欲しいけどね。


 それから私はまぁ、頑張ってと手を振り部屋を出て庭を散歩した。


 *

 ピリピリした空気を感じる。

 やはり…籍を入れる前に挨拶に来るべきだった!!

 一体何を言われるんだろうか!?

 ヨハンナと同じ髪色のお義父さんに恐縮する。

 しかし俺の予想に反して…ハンカチを取り出しわっ!と泣き出した!!


 な、何いい!?


「ちょっ、一体どうしたんです?」

 と聞くと


「あああ…ヨハンナが元王子様と結婚をするなんて日が来るとは!!本当に本当に良かった!!


 夜会に出ても一向にモテずにただボーっと突っ立てるだけで…他の方に紹介しても背の高さで苦笑いし会釈するばかり!!

 ヨハンナはいつしか投げやりになっていって!


 どうにかバプティスト様と一度婚約関係に発展はしましたが、例のローレの件で私と妻は操られあの子に苦労かけて!

 バルトルト様にもご迷惑おかけしました!

 ううううっ!」

 とむせび泣いている!


「いやその…」


「ヨハンナは小さい頃魔力暴走を起こして周りの者を傷つけ自らも深く傷つきました。身体の傷はなんとか癒ましたが心の中は辛かったでしょう。あの子は優しいいい子で自らに封印を施しました。……ろくに魔力も使えず背も高く地味で本当にモテなかった!!」


「ああ…はは…」

 お義父さんは俺に近づき酒を進めた!!


「同年代の女の子達とも喋ったりしていましたが…どうにもこうにも親友と呼べる子はいなかったようで私達も心配しておりました。


 なので使用人の家事を手伝ってみたりしていました。優しい子なのに!!ぐすうううん」

 と泣きながらワインを注いだ!!

 グラス一杯になって溢れても注ぎ続けているので流石に止めた。


「まぁ…そのヨハンナはバルトルト様と会えて本当に良かった!!毒を飲まされていたと正気になり聞いた時は妻とただ泣きました。私達の選択が間違っていたと!ローレとも仲良くしていたと思っていた。でもローレには裏の顔があると気付けなかった!本当に愚かだった!」


「泣かないでください!お、俺もヨハンナを助けれて良かった…。初めは信用ならなかったのですがヨハンナが良いやつ…いやお嬢さんがとても心優しく誠実であることを俺は知っていきました。


 俺に愛を教えてくれたのもヨハンナですし」


「ううう!バルトルト様もお辛かったんですよね!」

 と酒を注がれ俺は溢れるグラスを手に取り飲み干した。それからヨハンナがいかに素晴らしいかなど延々と語る羽目になった。



 *

 結局グデグデに酔ったお父様とバルトルトを従者達が運び今日は実家に泊まることとなる。

 とりあえず籍は入れたし私達は夫婦なので酔っ払いバルトルトを介抱してやることにした。


 バルトルトはブツブツと


「ヨハンナはいいな…家族に愛されてる。俺なんて父親と話したことなんかない…ひっく!」


「ええ!?そうなの?……まぁ…そうよね王子様だったもんね」

 しかも王位継承権で争っていたし命は狙われるし女やら男には狙われるしバルトルトの前半の人生は最悪で愛も知らず生きて性格がひん曲がったのだから。


 バルトルトは酔っ払いつつもソファーでゴロリと横になり私を呼んだ。


「ヨハンナ…膝枕」

 と訴えてきたのでそうしてやると


「ヨハンナ…」


「何ですか?バルトルトさん」


「俺はお前を…グー……」


「うわっ!寝た!!いきなり!!ちょっと!どこで寝てるの!ベッドで寝なさい!」


 するとパチリと何とか目を開けて今度は泣き出した。酒が入るとめんどくさい。


「ううっ!ヨハンナ…ばかり両親に愛されてずるい!!俺もここのうちの子に産まれれば良かった!」


「それじゃあ、私達兄妹になってしまいますよ」


「それはやだ。俺より背の高い妹は嫌だ!」

 と拗ねた。


「ちょっと!どの道背は変えられないし、妻なら背が高くてもいいんですか?後、何で私が妹!?」


「妻は妻だからあ。いいんだ。そしてどう見れも俺が兄貴だ!」

 なんかわからん理論を発しているが私の方が絶対に姉だと思う。この酔っ払いめ。

 バルトルトはベッドに行くと


「ヨハンナも寝よう」

 と言い寝ぼけて服を脱ぎ出したので慌てて寝巻きを用意して着させる。私も着替えてとりあえず横になると眠そうにバルトルトは


「ヨハンナ…可愛いな」

 と急に言うからドキリとする。バルトルトは酔っていても色気が凄いし。夫なのに鼻血出そう。


「私なんて可愛くないですよ?モテなかったし」


「お義父さんから散々聞かされた。お前ほんとモテなくて良かったな」


「なっ、酷っ!」


「お前がモテなかったから俺と出会えたに違いない…。きっと悪魔様が出会えるようにしてくれたのだ」


「そこは神じゃ…」


「何い!?神になんか祈るか!教会や神子の奴らが信望してるから逆らってやる!そういやまだあの神子からラブレターが届くな。いい加減にしろ!」


「と言っても勝手に送りつけてくるし…」

 あの神子様…私の聖痕がついていて反省はして謝罪と称したラブレターを送ってくる。


「もう結婚したしヨハンナは俺のもんだぞ?」


「そうですね、はいはい寝ましょう?」

 とサラサラの黒髪を撫でてやるとバルトルトは気持ちよさそうにして私に口付けると


「お休みヨハンナ…」

 と今度こそ目を閉じて……私の小さい胸に顔を埋め寝息を立てて眠る。

 私も欠伸をして


「ようやく大きな子供の寝かしつけができた」

 と眠った。お父様にあまり酒を飲ませるなってことと私のモテなかった話とかするなって言っとかないと!!

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