第30話 神子がやってくる

 私とバルトルトは図書館の奥の倉庫にとりあえず寝床…というか、宿から持ってきたベッドを運び入れて二人でそこに寝ることにした。

 どの道いつも一緒に手を繋いで寝てるし。


 本が部屋中に置かれてるけどとりあえずベッドは入った。

 アメリーさんがニヤニヤして


「隣は相棒の部屋で、その隣が私の部屋だけど夜は声おさえないと聞こえちゃうわよ?まぁ早く子供ができたらいいわね!」

 と言われ真っ赤になる私とバルトルト。


「やかましい!本当にお前の結界は大丈夫なんだろうな?」


「大丈夫よ!大体あの君が持ってきた求人だって、普通の人間と聖属性の人間には視えないようにしてあったんだからね!!」


「それ以外の属性持ちには見られていたんだろうが?ここの住所を知ってる奴は他にもいるだろう?そいつらが教会の連中に喋ったら…」

 とバルトルトが険しい顔をした。


「そうだよね、バプティスト様だって知っていたし…」


「あいつは何属性持ってるんだ?見た事無いな」

 とバルトルトが思い出したように言う。そういや私も知らない。今度聞いてみよ。


「まぁ……ともかくこの中までは聖属性持ちは魔力封じを使わないと入れないし大丈夫じゃない?」

 とアメリーさんは呑気に言い、


「さっ!ともかく仕事しよう!ヨハンナちゃんはお料理作ってくれると助かる!この男が煩いからね!」

 とバルトルトを見て言う。バルトルトも


「まぁヨハンナが危険な本に触ったりしないならいい。変な呪いにかかっても面倒だ」


「魔女の本て…大変だなぁ」


「まぁね!…ここは唯一の魔女の図書館で世界各地から旅をしながら辿りつく魔女達の聖地だからね。今は本棚倒しちゃったから休館にしてるけど、再開したら沢山の魔女達が訪れるんだ!」

 とアメリーさんは言う。


「わぁ!素敵!沢山お友達できそうですね!」


「ええ!各地に沢山魔女の知り合いはいるのよ!それにこの図書館を作った始祖の魔女様…アルファ様は有名でね…まだ何処かで弟子と生きてるとか生きてないとか。あの方達は元は一つの心臓だけどある時から二つに別れてしまって永遠の命とも言われてる。流石に見たことはないけどね」

 とアメリーさんは言う。ふーん、そんな凄そうな魔女もいるんだなぁ。


「おい、くっちゃべってないでお前もさっさと向こうの棚の本どうにかしろ!!ギャアギャアと本の魔物が煩い!!」

 とバルトルトが怒る。どっちが雇い主だ!?


「わかってるよ!じゃあ、ヨハンナちゃんまたね!!」


「はい!私も美味しい昼食を作ってきます!」

 と言うとバルトルトが


「コロッケ!」

 と言った。


「そればっかりじゃないですか!!」

 と言いつつも一応コロッケも作るか。

 とキッチンに向かう。


 *

 その頃街では教会の者達がヨハンナを探し回っていた。バプティストの家にもとうとう神殿の者までやって来て家宅捜索される始末だ。

 バプティストは二人が止まっていた宿に早々に口止めをして彼等の荷物を別の場所へ隠しておいた。


 そして一台の豪華な馬車から世にも美しい白い髪で少しウェーブがかった癖のある毛を持つ男がバプティストの邸の前に訪れた。


 顔も整いこの世のものなのか?と疑うほどに美しい男を見た。バプティスト自身も顔はいい方であるが彼は人間離れした美しさを持っている。


 (まさかあれが…神子様!?)

 そしてグリンとこちらを向く神子様。


 金の目でバプティストを見つめた。

 恐ろしい程の美…。いや、神がかっていた!

 目を細め私に言う。バプティストは反射的に膝まづく。

 (このお方に逆らったら……死ぬ…)

 全身がビリビリと逆立つ感覚に襲われる。

 美しくもあり、恐ろしい存在……。


 (これが……神子か…)

 神を身体に降し髪の言葉を紡ぎ、そして魔力の高い娘はまるで神そのものと添い遂げ神の子を宿すと言われる。


 産まれた子は次の神子となり、脈々と同じ事が繰り返されていくと聞く。


「ふーん君…知ってるね聖女を。ヨハンナだって?」


「いえ、私みたいな小物が聖女様など知りま…」

 すると細い指に顎を取られた。


「嘘をつくな。僕にはお見通しさ。神と同等の僕に嘘をつくなどあってはならないよ?…なるほど…わかった…魔女の図書館か。上手く結界を張っているから下の者達には見つけることができなかったのだね?」

 と言う。


 (な、何だこの人!!

 まさか私の心が読めるのか!?そんな!)


「ふふふ、読めるとも……僕は神子だよ?君とは格が違うんだ。さあて早速そこに行こうかな。……妨害しても無駄だよ?…人質になり囮となって聖女を連れて来るんだ!」

 とバプティストの額に指を置くとそこから命令が小玉していく。

 

(不味い、非常に…精神が…侵される…!)



 *

 午後から雨が降ってきた。

 相変わらずアメリーさんとバルトルトは本の整理をしていた。時折本の魔物がちょこちょことその辺りを歩き回るのをバルトルトが捕まえてバシンと本に投げ入れバタンと閉じてぐるぐると紐で縛った。そして本棚に入れる。

 その繰り返しだった。


 私は二人におやつを用意していると訪問者のバプティスト様がやって来た。アメリーさんは大喜びで歓迎した。


「こんにちは皆さん…」

 にこりとお茶の席に加わる。

 バルトルトが


「何かわかったのか?」

 と新しい情報を求めようとバプティスト様を見た。すると彼は…切り分けたケーキのナイフを取り何故か自分の首に当てた。


「!?」


「バプティスト!?」


「しまった!!操られてるわ!!」

 とアメリーさんが気付いた。

 するとバプティスト様は虚な目になり彼の声ではない恐ろしくも響き渡る声で


『聖女ヨハンナよ…僕の元においで?友人を目の前で殺されたくなかったら…直ぐに出ておいで?僕は直ぐそこで待っている。

 わざわざこんなちんけな街へ訪れてあげたんだ。光栄に思うことだね?


 ……この僕と添い遂げられ子を成せる喜びを与えよう』

 と首にナイフを当てたまま喋る操られたバプティスト様。


「おのれ!!よくもバプティスト様の精神を!!」

 とアメリーさんが呪文を唱えて気絶魔法を試みたがバプティスト様が手をかざした。炎がゴウっとアメリーさんの魔法を打ち消した!


『やめておけ。燃えやすいものがあったら困るだろう?この男の属性は火である。邪魔な者を消し炭にするくらいは容易い』

 と言われアメリーさんは


「くっ!!」

 と悔しそうにする。しかしバルトルトが影の魔術を使いバプティスト様を縛り上げようとした。流石に炎で焼き切ることが出来ないだろう。


 しかし首に当てたナイフからプツリと血が滲んだ。


『動くなと言った。この男を殺す』


「……バカめ!簡単に乗っ取られやがって!!」


『さあ、ヨハンナおいで』

 と手を伸ばすバプティスト様。


「何故、私の意思を無視してこんな酷いことをするの!?神様がそんなことを望むの!?」


『神の子を宿せると言うのに何を言っている?女は皆私の姿にひれ伏し惚れるだろう。より強い子を残し、より力の強い神子を育てる』


「そうかもしれないけど…そんなの間違ってると思うわ。魔力が高ければ誰でもいいなんて!」


『お前も僕の顔さえ見ればわかることだ!外に出て僕の顔を見ろ!』


「嫌よ!見て私を操り神殿に連れてくんでしょう!?人の気持ちを無視して!私には恋人がいるのに!結婚だってその人とするの!貴方じゃないわ!…人質をとって脅すなんて神のすること!?貴方に神子の資格なんてない!!」

 と私は言ってやると…


 カランとナイフが転がり直ぐ様それは影に沈んだ。バルトルトがこちらに持ってくる。


『そんなことを言われたのは初めてだ。ますます会ってみたい』


「私は綺麗でもなんでもない普通の女よ!?それに子供を産む道具になるつもりはないわ!愛を舐めている貴方となんか絶対に結ばれやしない!」


 するとバンと扉が開かれ街の人達が入ってきた!!


「ええーー!?そんな!?」

 とアメリーさんが慌てた。

 彼等も凶器を持ち、自分の首やお腹に当てていて操られていた。


『この街の奴等は喜んで僕に命を捧げるようだ。脅しではない。信仰だ。神のために魂を捧げると誓っているから安心して?』

 奥には何か恐ろしい綺麗な男の人が立っているのが見えた。


「ひえっ!!?あれが神子だ!!?怖い!!」

 とアメリーさんは震えだした。


『さあ、おいでヨハンナ』

 と側のバプティスト様が手を差し伸ばす。

 街の人達も子供や女の人まで入ってこちらに来る。


 そこでバルトルトが影でバプティスト様を殴り気絶させた。


「おい…無視してんじゃねえよ?俺のことをな!俺はヨハンナの恋人だ!ざけんなよ?どこの世界に俺の女をやすやすと他の男にくれてやらなきゃならないんだ!?


 街の奴等を人質か?面白い。やってみろ。この人殺しめ!信仰かなんか知らんがやってることは殺人と同じなんだよ!

 無理に殺した魂は冥界に行く!天国になんて行けやしない!」


『浄化すればいいだけだ!!』

 操られた街の人の一人が叫ぶ。


「お前のその操る力は触れた者にしか効かないようだな!?そしてお前自身は結界でそこから一歩も入ってこれない」

 すると街の人が言う。


『ならばこの建物に火を放てば…』


「そうはさせん!」

 とバルトルトは床に手を置き図書館全体を陰で包む。


『無駄な事だ!魔力が切れたら火を放てる!』


「それなら私もここで焼け死ぬわ!!」

 と私が叫ぶと奥にいた神子はぴくりとした。


「えっ!?私とバプティスト様とか巻き添え??嘘っ!?」

 とアメリーさんが青ざめた。


『くくく、面白い女だね?ますます欲しくなる。必ず君は僕に屈し、その身を捧げる運命さ。そして子いずれ子供を産み落とした後、ちゃんと君の恋人の元に返してあげよう?そらならどうだい?』

 とど最低なことを言う。


「絶対に嫌よ!!私は貴方との子供なんか望まない!そんな事になったら舌を噛み切り死ぬ!」


『振られたのは初めてだ……仕方ない…』

 と操られた街の人は自分の腹を刺して倒れた!


「きゃっ!!」

 床に血が広がる。そんな!!


 次々と他の人もその場に倒れた。血の匂いが立ち込めた。

 酷い……。

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