第15話 お帰りと言えない代わりに

 ヨハンナを残して森の家に帰る。

 庭の畑が目に入り何となく水を上げてやる。

 何となく影を使い掃除を始めて見る。

 何となくソワソワした。

 仕切り布の向こうのヨハンナのベッドを見た。布団を干すべきだろうか…。


「よっ…」

 と自分のは影を操り運ばせヨハンナのは自分で持つ。ヨハンナの匂いは少しした。

 ……俺は変態かっ!!

 とさっさと干してしまう。


 ヨハンナは戻って来るだろうか?

 先に帰るとは言ったが、もし両親に反対されたら…そもそもこれを機にやっぱり貴族に戻りそのままなんて事もある。


 でももし戻ってきたら…俺はどんな顔をすればいい?どんなことを言えばいい?

 子供の頃…ものごごろついた時には俺はもう人を信用するのはやめていたからヨハンナみたいに裏がなくて素直に感情を表す奴がいなかった。


 皆狡猾で本心は隠し近寄り騙して笑う。

 でもヨハンナは本当に楽しいから笑い、怒り、泣いた。


 ヨハンナといるといつも心の奥がむず痒くなる。そしてそれを悟られないようにして変な態度になってしまう。

 別に怒っているわけでもないがもしかしたら怒っていると思われている…。いや思われてるな。


 俺はともかく普通にする事が苦手だ。愛想笑いすらできない男だ。愛とか恋とかもきっと普通の奴らみたいに出来ない…。

 でも唯一ヨハンナには触れた。

 別れ際に抱きしめたことを思い出し一人で赤くなった。俺何であんなことを!?

 このむず痒いヤツが恋というものなのかはわからない。違ったら恥ずかしい。


 考えていると腹が減りキッチンに行く。食器もヨハンナの分もある。

 調理器具や調味料・食材も揃い、ヨハンナだけがいないことに胸がチクリとした。


「料理か…」

 ヨハンナみたいに上手くやれるか…?

 俺は芋を手に取り見つめた。


「いつもは蒸して食うだけだったが……確か皮を剥いて茹でて?いや、すり潰して焼く?あれ?粉はどこだ??」

 と探し回りガチャガチャと弄りとんでもなくキッチンが汚れた!!


「えっ!?何故だ!?」

 普通にコロッケを作ろうと思ったがそもそもコロッケの作り方なんか知らんし!!


 結局怠くなり芋を蒸して食べ、それが数日続いた時、森から何か悲鳴が聞こえる。ガバッとベッドから起き上がり森へ向かった。


「今の悲鳴は!!」

 走り出して行くと鞄を持ち震える背の高い女…ヨハンナがまた狼に囲まれていたので俺は直ぐさま助けに入った。


「いやあ!私なんか食べても美味しくないしいいい!!」

 と泣きながら座り込むヨハンナに迫る狼に影で突き刺し倒して行くとヨハンナがようやくこちらに気付いた。


「あっ!バルトルトさん!!」

 全部倒し終わり震えて立てないヨハンナに


「何だお前。また狼の餌になりに来たのか」


「なっ!違います!この森は馬車が入れないから途中で下ろして歩いて来たのに!!やっぱり狼出たし!!」

 と文句を言う。


「ふーん、まぁ…戻ったんならいい…さっさと家に入るぞ。また狼の餌になりたくなけりゃな」

 とつい憎まれ口をたたくと


「もー、素直におかえりくらい言ってくれると思ったのに…あ、あれ?」


「どうした?」

 ヨハンナが立てずに狼狽えた。


「あは、ど、どうやら腰が抜けちゃったみたいで…」

 と言う。俺はため息を出してヒョイっとヨハンナを抱き上げた。


「ええっ!?バルトルトさん!?」


「た、立てないんだろ?」

 何か接近というか密着して凄く胸が高揚してきた。なんだこれ!!?

 心臓が壊れたか?俺!


 そのまま二人とも無言で家に入る。


「も、もう降ろしても大丈夫ですよ?」

 と言われハッとして降ろしてやる。数秒赤くなり見つめ合ってしまった。

 な、なんか言わないと!そ、そうだ、さっきの…『おかえり』ってヤツ!


 わ、笑って?言うのか?普通は。


「………くっ!!」

 ダメだ!恥ずかしい!!


「??ど、どうしたんですか!?……って!あああ!キッチンめちゃくちゃー!!」

 と俺が汚しまくったキッチンを見てヨハンナが叫び怒られた。


 ヨハンナは早速掃除する羽目になった。

 俺はなんも出来なくておかえりも言えないままだ。情けなくなった。


 やっと綺麗になると


「今まで数日何を食べてたんです!?」


「いや、だから…コロッケを…作ろうとして…出来なくて…普通にふかし芋しか…」

 と言うと呆れたように


「全く!バルトルトさんたら!作れないならやめとけばいいのに!!そんなにコロッケが食べたかったんだすね?」

 と言う。


「そりゃ、食いたかったしな…まぁお前が作った方が良いだろうな!」

 と言うとまた喧嘩になる。


「作ってくださいって言えないものかしら!!全く貴方って人はーー!」


「そんな無理して作らなくてもいいんだぞ!?」

 とふいっと拗ねると


「作れって言ったり作るなって言ったり変な人なんだから!!」

 と今度は笑うヨハンナにまた胸がむず痒くなり…俺は自然にヨハンナに触れたくなり別れ際みたいに抱き寄せてしまった!

 ヨハンナひ当然何が起きたかわからず混乱した。


「えええ!?な、何で?何!?どどど、どうしてえ??」

 俺は訳もわからずヨハンナをギュッとしてヨハンナは赤くなる。


「ちょっと、バルトルトさん?な、何か…言って?」

 と背中を撫でられた。


「………コロッケ食べたい…」

 と赤くなりそれだけしか言えなかった。

 そうするとクスクスと笑い出した。


「やっぱり食べたいんですね!いいですよ!作りますよ!」

 と言ってくれた。

 本当は『おかえり』と言いたかったのに言葉が上手く出てこない。そんなの言ったことないし…まるで家族みたいだからだ。まだちゃんとプロポーズもしていない。そもそも恋もしていない。いや、これが恋?

 す……?

 わからん…まだ。


 ヨハンナがまたコロッケを作りながら鼻歌を歌っている姿に胸がまたむず痒くなるような暖かいものがそこにあった。


 なんだこれ?

 俺…今まで寂しかったのか?

 ヨハンナが…戻ってきて嬉しいのか?

 ………。


 *

 鼻歌を歌いながら内心ドキドキだった。戻るなり狼に狙われて恐怖して助け出されてお姫様抱っこされられて家に戻ると綺麗な顔で何にも言わずにこちらを見られまくり私の心臓が爆発するかと思った!


 そうしたらコロッケ論争してるとまたいきなりギュッとされてしまい訳が分からない!!

 でもようやく振り絞った声で

『コロッケ食べたい』

 なんて可愛いことを言われたら許すしかない。

 全く素直じゃない人だわ。不器用だしね。

 でもそんな人のこと私好きかも…。


 と思って一緒に夕飯を食べて私はセルバが後継になることなんかを話し始めたのだった。

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