第3話 女と仲直りした

 雨音がザーザーとしている。

 外のテントに女がいるであろう。

 流石に酷かったか?


 久々に頭を洗われ髪を切られて視界がスッキリしている…。


 俺はバルトルト・バルタザール・ブルーノ・レーリヒ。隣国アスター王国の第7王子として産まれたが望まれぬ子だった。


 王と正妃の間に子供ができず側妃を四人ほど王は離宮に置いて決められた日に側妃達と仕方なく子作りをした。


 俺は4番目の側妃の子として生まれたが王位継承権で義兄弟や他の側妃達から命をいつも狙われていた。食事に毒を混ぜられたり成長すると女、男問わず無理矢理押し倒されたり…精神が疲れ切り王位継承権を辞退した。


 俺の母は怒って気が狂い正妃を殺しにかかり捕まって処刑された。

 俺は国を出て唯一の黒い死霊魔術師ネクロマンサーとして森の家に住み、たまにくる依頼を受けるようになった。生活などどうでもよく掃除や家事もサボっていた。


 人のいないここは煩くなくていい。


 依頼は定期的だった。依頼者の家に泊めてもらいご飯を貰った。ボロボロの服で行くが人は俺を避けるしその家のメイドにも手伝わなくともいいと伝え部屋に篭り依頼を受けた。

 ネクロマンサーは死者と会話ができ、時には呼び出し、時には誰かに憑依させ動かすことができる。たまに事件現場に呼ばれて殺された主人の魂を呼び出し犯人を検挙する。


 殺される奴も生前悪いことをしてきた奴がほとんどだ。だから殺される。それも男女のもつれが多い。

 自分に毒を盛る義兄弟や他の側妃からも暗殺や誘惑されそうになっていた俺はますます人嫌いになる。


 てっきり森で拾ったこの女もそうだと思った。殺されそうになるなんて悪いことをしてきて恨まれたからだと決めつけていた。貴族の女なんてどれも同じに見えたからだ。助けたのは気まぐれだったが。


 しかし違った。女は義妹に婚約者と両親を奪われて毒を盛られ森に捨てられたと。嘘だと最初は思ったから酷い言葉で毒を盛られたのが自分だけとでも思ってるのか!


 と声を出して自分のことを言ってしまった。

 女は驚き泣きそうになっていた。

 今は雨の降るテントで一人泣いてるのか?


 イライラして起き上がりランプを持ちテントに声をかけてやる。


「おい!!起きてるかっ!!?中へ入れ!!バカ!!」

 と言うと恐る恐る顔を出して腫れた目でこちらを見ていた。


「風邪を引くぞ!火を炊いてやるから暖炉の側で眠れ!!」

 と言うと女はコクリとうなづき毛布を持ちやってきた。


 火をつけながら


「さっきは悪かった…」

 と言うと女が驚き


「わ!あ、謝った!バルトルトさんが!!髪切って熱でも出たの?」

 と聞く。


「うるせえ!そんなやわじゃねえ!!俺は仕事柄醜い奴等を見てきただけで…」


「醜い人を見てきたからって自分まで醜くなってしまっては本末転倒ですわ。貴方はその方達のように人を恨んだりしない人になった方がよっぽどいい人間として胸張って生きれますよ?」

 と言われて脳天がガーンと殴られたような衝撃を食らった。


 このボロ小屋はいつの間にか女に手入れされ綺麗になっていた。それまでは俺の心と同じくらい痛み、荒んでいたのだ。埃だらけでボロボロで疲れ切った俺とこの家が同じだった。

 でも少し手を入れ綺麗になると違って見えてきた。


 この女…ヨハンナのおかげで…。

 俺はみっともなく泣いていた。


「わわ!泣いた!どうしたんですか?やっぱりどこか変ですよ?」


「ああ…俺はおかしいんだ。ほっといてくれ…」

 と言うがお湯を沸かし


「本当はミルクがあればいいんですけどね…。これで我慢して飲んで眠ってください?明後日には行商人さん来るんでしょ?たくさん買ってくださいよ!私リストにしておきますから!」


「そんなに買う気か!?」


「ええ!何にも足りないもの!ここは!!」

 と笑い頭を小さい子のように撫でた。

 俺は恥ずかしくなり


「寝る!!」

 と布団に潜った。

 女も暖炉の側で安心して眠った。


 *

「リストが多すぎやしないか?」

 渡された紙に書かれた要るものリストに目を通す。


「そんなことはないですよ!調味料も切れそうだし食材も全く足りない!お芋しかないなんて異常です!森のキノコや食べられる薬草でしのいでますけど、ちゃんとこれからは野菜の種なんかを買って畑を作り耕します!!


 家政婦の私がやりますから大丈夫ですよ!!」

 とヨハンナが腕をまくりあげた。

 仕方なく報酬の金を見せて


「こんだけしかないけど買えるか?いつもは行商人に見せたら全部取っていくから…」

 と言うと女は目を丸くした!!



「はああああ!?芋くらいしか買ってなくて全部!?それはぼったくりですよ!!なんで抗議しないんですか!?」

 と怒られた。

 やはりそうだったのか。


「薄々気付いてはいたが口論とかになるとめんど臭いし早く帰ってもらいたいから…」

 と言うと呆れられた。


「くっ!このダメ男!!これからは私が交渉しますわ!!いいですね!!?ちゃんと依頼も受けてくださいね!!」

 と念を押された。


「わ、分かった…」



 それから少ししてニヤけた行商人がやってきた。金づると思われてるんだろう。

 ヨハンナを見て行商人は


「おや!!?あれえ?旦那ぁ!いつの間に奥さんを!?おめでとうございます!!」

 と言われた。勘違いだと言おうとして睨まれたし


「それにその髪!切ってたの初めてみやした!こりゃすげえいい男で!!そりゃ奥さんもメロメロですわな!!」

 と言う。

 しかし怒りながらヨハンナは


「ちょっと!!あんた!!今までよくもうちの旦那の金をちょろまかしてくれたわね!?芋だけで大金持ってくなんてどう言うことよ!!信じられないわ!今までのお金返しなさい!できないなら安く売りなさいよ!!どうなの!?」

 と怒鳴ると行商人がピクリと青ざめた。


「えっへへへ、奥さんには敵わないなぁ…わ、分かったよ負けるよ…」


「あっそ!」

 とヨハンナはゴッソリと色々と安く買い俺にも荷運びを手伝わせた。行商人が


「旦那…奥さんの尻に敷かれて大変ですなぁ!!でもあんな背の高い奥さんじゃ逆らえませんな!おおこわ!」

 と言っていた。


「別に背は関係ない」

 と俺はボソリと言った。

 行商人が帰り沢山の品をチャチャと棚に納めていくヨハンナ。

 ものすごくニコニコしていた。よほど何もない家に飽きてたんだろう。

 そしてキラキラとして


「見てくださいほら!!こんなに野菜や花の種を買いました!普通より安くね!!まぁこれまでのあの男の悪行に比べたら大したことないですけど!!これでお庭を耕せます!!」

 とルンルンだった。

 布地も手に入れたようでこれで服が作れるやら、カーテンもボロボロだったし助かるとか言い出してベラベラ喋り通しだった。

 なんかすごい。


 それからとんでもない美味しい料理が出てきた!!


「何だこれ??」

 思わず言うと


「?ビーフシチューですよ。お肉は鹿肉ですけど今まで材料がなくて作らなかっただけです。これからは沢山美味しいの作れますけどお金がないとまたお芋だけですよ?だからお仕事ーー!取ってきなさい!!」

 と言われた。


「お前っ、家政婦のくせにうるせえなぁ」

 と俺はシチューを啜った。

 いつの間にか同じテーブルで食事していた。

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