叫び声は届かない


 透き通るような白い肌。はっとするような青いワンピースが彼女の肌の白さを際立たせている。触ると指の間からさらりと落ちていってしまうような、美しい髪。黒く長い髪は光を受けて艶めいている。硝子玉のように丸く大きな瞳はとても綺麗で。

 彼女を瞳に映した彼は、時が切り取られてしまったように動きを止めた。隣にいる彼が恋に落ちる瞬間を見てしまった。頬を赤く染めて、目の前の女性を見つめる彼。


「ねえ、ねえってば」


 私は彼を現実の世界へ戻そうと声をかける。


「……あ、ああ。何?」

「ぼうっとして、どうしたの」


 私は気付かないふりをして彼に笑いかける。上手く笑えているかは分からない。


「……いや、なんでもない」


 彼は隠すように俯き、コーヒーの入ったカップに口を付けた。幼馴染なのだから、綺麗な女性がいた、とでも言ってくれたらいいのに。私相手にも言わないということに彼の本気さが伺えて、ずきりと胸が痛んだ。例の女性は近くの席に座り、優雅に紅茶を嗜んでいる。コーヒーを飲みながら、目線を送る彼。私にバレないように、控えめな視線であることがより一層私の心を暗くした。

 今日は幼馴染の彼と映画を見て、その帰りに喫茶店に寄った。もう少し一緒にいたくて、休憩がてら喫茶店に行こうと誘った自分自身を恨むしかなかった。






 世界で一番あなたを大切にしているのはあなたの隣にいる私なのに。彼女じゃなくて、私を見てよ。私のこころが悲鳴を上げる。けれどあなたが気付くことはなく、悲鳴は胸の底に沈んで消えた。


Fin.

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