第30話 二次予選最終戦

「二次予選最終戦です!ここまで、日本は全試合勝利を納めてまいりました。特に、田中選手は全試合ハットトリック達成をしております。この試合もハットトリックを取りますと、予選全試合ハットトリックという前代未聞の偉業となります!」


「すごいですよね。さらに、三条選手のボールコントロールもキック精度も全てがゴールに直結してますからね」


ピイイイイイイイイ!!


「さあ、試合開始です!」



◆◆



傑は、予選の試合で初めてスタメンだった。

最初から飛ばしていけと、監督からの言葉はそれだけだった。


なら・・・・。


キックオフのボールをもらう。

普通ならここから繋いでゴールに向かっていくのだが、飛ばしていけ、そう言われたからにはもう手を抜かない。


一人がプレッシャーをかけてくるが、踵が落ちている。

おそらく、パスすると思い込んでいるのだろう。

獲る気がない。


だから、ダメなんだ。

試合に出た、保護前の試合のときもスペインでの世界レベルの試合でも、ワクワクはしなかったし、サッカーを好きになれるとは思えなかった。


面白くない。楽しくない。

それが、今もサッカーに対して持っている感想だ。


最初の一人を躱す。

表情はよく見えないが、想像通りなら驚いているだろう。


さらに、奥に進む。

田中や佐伯についていたマーカーが、予想外の行動にマークを外してこちらに来る。

トップスピードに乗っていない相手を躱すのは簡単だ。左右からくる二人の間にボールを通し、それと同時にトップスピードで間を抜く。


こちらにきていた二人は、突然のトップスピードについてこれず、足が動いていない。

田中たちも驚いている。

観客の声も監督やコーチの声も一切聞こえなくなってきた。


眼には、フィールドに映る白い線だけが見える。

ゾーンだ。これが見えた時が一番心地いい。

無駄なものがなく、邪魔するもののない世界。


ただそこを辿っていくだけで、ゴールが獲れる。

そのままトップスピードで、白い線上を走っていく。




◆◆




「試合開始早々、三条選手の無双撃が止まりません!!先制点に始まり、田中選手のハットトリックのアシストに全員抜きも達成!この試合一度も相手選手を寄せ付けることなく翻弄し続けています!!」


「これはとんでもないですね〜。私たちは彼の凄さを甘く見てましたね。こんなに桁違いだとは思いませんでした。これは、ワールドカップ優勝が現実になりますね」


「もうすでに確信してるんですか?」


「ええ、そういうあなたも顔がにやけてますよ」


「え?しょうがないですね。こんなの見せられたら」


解説も実況も試合の状況を伝えることを忘れ、傑のプレーに見惚れていた。

それは、この二人だけでなく、観客も歓声も忘れただただ傑一人を見ていた。


試合終了後、インタビューで最終予選について聞かれた傑の目は、何も期待していないような目だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る