羞恥させられるらしい俺

「樹君、おかわりは?」

「え、あ、お願いします」

「……? どうしたの? 改まって」


 茶碗ちゃわんを受け取りご飯をつぎにいく母さんと黙々もくもくと食べる父さん。妹はテレビを見ている。誰も何も突っ込んでこない優しい世界なのか、もしかして、別の世界に転生てんせいでもしてしまったのか?

 そう思う程に、家族は誰も何も言ってこなかった。あの事を――。

 マキちゃんはもしかして、だまったままだった? それとも、彼女の家族内で絶賛ぜっさん放送中なのだろうか。


「あ、おにい! めっちゃモンやってたよね?」


 妹の言葉にびくりとするが、つとめて冷静に答える。


「やってる。今レア装備作ってるところ」


 ほんの少しだけ声が上擦っていたのはたぶん気がつかないだろう。


「今度さ、一緒にしない? マキもやってるらしくてさ」

「お断りします」


 マキちゃんがいることも引っ掛かるが正直この妹はゲームで難点を抱えている。


「えー」

「お前すぐスタート画面もどってしまうだろ」

「いいじゃん」

「何度も同じクエストするのは成功が約束されていないと嫌だ」


 これは建前だ。たしかに失敗率成功率がデータに載ってしまうから嫌ではある。だが、今日、あんな姿を見られたあとに、マキちゃんと一緒にするなど、どんな羞恥しゅうちプレイだよ。


「じゃあさ、マキと二人でやらない?」

「断る!」

「えー、けちー」


 エサを詰め込んだハムスターのようにほっぺたふくふくにしながら、怒る妹は、可愛いけれど、今この話題を振ってくるということは、二人はあれを話し合い、俺をからかう計画なのかもしれない。

 そんな風に考えながら、動くつもりで母から受け取ったおかわりのご飯をかきこんでいく。


「もっと腕を上げてからに――」

「マキはもうトリプルSだって」

「なん……だと……」


 バカな、まだ発売してほんの数日だぞ。俺だってやっとシングルSになったばかりなのに。

 チートか、チートだな……。このゲームの配信者一覧見ててもトップランク、トリプルSはまだ、三人しか生まれていないヤツだぞ?


「今日、お兄も一緒にやろうって誘いにいかせたのにさぁ」


 犯人はお前か!!


「なんか、赤くなって戻ってきたんだよねー。お兄、マキになにしたのよ?」

「な、何もしてない!」


 そう、やましいことは何も、いや、うん、何も……。


「もしさ、変なとこ見られたんならさ、謝っておきなよ」


 キシシと笑う、妹。断じて、変なとこでは……、変なとこでは……。

 断言できない自分が悲しくなる。


「あれ、もしかして、マジ?」

「違う!」

「いやぁ、そんな風に否定されると、うん。そうか……なむ」

「おいっ!!」

「違うならさ、明日またマキがくるらしいんだよね」

「え?」


 明日も来る? マキちゃんが?


「一緒にやってあげてよ」


 何故か、妹が俺に羞恥プレイをさせようとしていた。


「わかった……」


 配信モードでなければいいんだ。そうだ、それならただの……女キャラクター使いだ――。

 今さら性別変換出来ない、消すのは勿体もったいない俺のレアアイテムデータ達。

 ぐぅ、神はいったい俺に何をさせたいのだ。


 父さんが食べ終わり、がたりと立ちあがって食器を片付けはじめた。


「ゲームはほどほどにしておけよ」


 そう、一言残して。

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