第三十八回 それさえも正直に。


 ――思春期にありがちなこと。それはね、僕も同じと思うから。



 車椅子の時、パパとお風呂に入ることもあったけど、きっと違うのね。……同い年の男の子も一緒に、体操着から脱皮して、裸になっている。男女の違いも明らかで……


 思っていたよりも、恥ずかしすぎるの。


 でも……でもでも、これで公平だから、怜央れお君も僕と同じ条件だから。


「描こっ」


 と、僕は平然を装う。最大級の照れ隠しだけれども、隠しきれない程に怜央君の視線が纏わりつく。ポカポカと身体が逆上せる。それでも怜央君は僕のことをスケッチ……いやいやデッサンしている。激しくも繊細に、優しく描いている。ソフトな布で包むような感じで。それでいて好奇心も現れるの、男の子と女の子の違いに……



 僕も見るの。怜央君と同じように、僕もまた怜央君のことを。すべてを見る、僕も同じように見られていると思うから。カッコイイところも……恥ずかしいところも込みで興味津々。その想いをキャンバスに描くために、スケッチからデッサンへと繰り返すの。


 スケッチは姿形。……プロットのような感じ。

 デッサンは肉付。……物語へと息を吹き込む。


 この二種が揃って、お互いの全裸から見える、できる限りの情報量を、お互いが欲している。それは欲望でもあるけど、コミュニケーションでもある。


 お互いが成せる会話……


 これもまた令子れいこ先生の直伝と僕は思う。だとしたら、令子先生は体当たりで僕に教えてくれたの、被写体を……つまりモデルを観察すること。でも、まだまだ……


 僕はまだ、怜央君の思っていることを、読み取ることができない。それはきっと、怜央君も同じだと思う。だったら、やっぱり答えは変わらずに、一緒だから。


 ――僕らはまだ半人前だから、二人で一人。だから二人で一枚のキャンバスなの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る