鎔け合う善悪の境界。それは何処までも美しい――新しき、"壊劫"の神話。

神、というのは気高い存在です。
…なんか新興宗教の謳い文句みたいになりましたが、私が言いたいのはそういうことではありません。
『神』という存在は、謂わば太古からの信仰の対象。善悪・大小・優劣の差はあれ、人々の中に『自身とはかけ離れた高潔なもの』として根付いた概念です。
故に、神という主題は小説の中でも多く取り扱われます。『神』を名乗らせるだけで一定の威圧感が出ますし、それを逆手にとってギャップを狙いに行くのも定番といえば定番です。どこにでも生まれ、誰もが知る存在ですから、その絶対感や存在感の大きさを説明する必要もない。
つまるところ、『神』というのは小説の中では便利な存在なわけです。小説を盛り上げるツールとして便利だからこそ、頻繁に使われる概念なわけです。

長々しくご高説垂らして何様だテメェ、と思ったそこの貴方。その通りでございます早速本題入りますごめんなさい。
最初にこの作品を読んで私が衝撃を受けたのは、そこでした。
『神』が、そこに居ました。「便利だから」と使われる存在ではない、本物の神々しさを持つ存在。
それが為され得たのは、作者である南雲様の繰り出す洗練された語彙と孤高のセンスがあったからこそです。
難しいながらも、神話の原本を感じさせる語り口。神への信仰が今より深かった時代の、劇や書からの言葉の引用。『神』を活かしきる世界観を作り上げた、南雲様の力量。キャラをブレさせない軸の作り方に、各キャラにはまるエゴの持たせ方。
何もかもが一級品。こうした作家としての技術もさることながら、ストーリーについても文句のつけどころがない。
読者とヒロインに善悪というものを考えさせる、倫理的命題を孕んだ世界。その世界の「限界」を示唆する不穏な文言の滑り込ませ方も、また堪らんのです。控えめに言って最高、というやつでした。

とはいえ、ここでいくら言葉を尽くしても作品の素晴らしさの半分も伝わりません。ですので、このレビューを見てくださっている方にも実際に読んでみてほしいです。そして、紡がれた精緻な文章に震えてほしいのです。
まだ序盤なようですが…今後の展開に期待大な作品です。賛否両論があろうが、私はこの作品を推します。

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