怪人ニシキの共同調理 3

「なにかオンライン会議で面白いことはできないか、そう考えながら業務用スーパーで買い物をしていたらこの立派な真鯛がふっと目に入ってね。具体的な言及は避けるが店で食べるラーメンと変わらない程度の値段だった」


「まず女子高生が業務用スーパーで買い物をしている絵面がしっくりこないわけだが」


「驚く値段ですけど、それより自室に生魚を持ち込むのはどうなんでしょう」


「私もなんとなく思い立って親の買い物についていっただけで特に目的があったわけではないんだけどね。なお既に室内が少し生臭い」


 それはそうだろう。パックに入っているとはいえ密閉されているわけでもない。


「というわけで今日はこれをアクアパッツァにしようと思う。キミたちはウェブでレシピを探して私をサポートして欲しいってわけさ」


「ニカイドウ、ふたつ質問があるんだが」


「なんだいニシキくん」


「レシピを探してサポートっつったよな。作った経験は?」


 ニシキの問いに彼女は赤いセルフレームをくいっと上げて得意げに言った。


「ないね!私は授業や学校行事以外で料理をしたことはほとんどない。もちろん魚を捌いたこともないとも!」


「うんうん、なんかそういう感じの言い回しだなって思ってたぞ」


「カレーとかなら作れるがそれじゃわざわざキミたちに協力してもらう意味がないからね」


「じゃあもうひとつ、もしかしてそこで調理する気なのか?」


「そりゃあパソコンの前で捌かないと意味がないだろう」


「会長、換気扇もない自室で魚を捌くのは絶対やめたほうがいいですよ。それにコンロもなにもないですよね、どうするんですか?」


「なるほど、ニノマエさんは思慮深いね。さすが次期生徒会長」


「そういう予定はないです」


 あと会長の思慮は水溜りより浅いですねと喉元まで出かかったニノマエだったがその言葉は辛うじて飲み込んだ。


「ないのか、私は適任だと思うんだけどな」


「向いてませんよ」


「そうかなあ。まあこの話はまたいずれということで、私はちょっとキッチンからリモート会議に参加できないか調整するのでキミたちはレシピを探していてくれたまえ。よろしく頼んだよ!チャオ!!」


 ニカイドウは茶目っ気たっぷりに敬礼しつつウィンクするとアプリを切って消えた。

 あとに残されたふたりが画面越しに顔を見合わせる。


「どうするんです?これ」


「と、とりあえずレシピ探そっか」


「そうだ、あとは先輩方でというのはどうでしょう。ふたりきりですよ」


「それってニノマエちゃんがいない理由を俺が説明するやつでしょ。絶対やだ」


「この貴重なチャンスを逃してもいいんですか?」


「俺だって、保身に走ることくらい…ある」


「なんていいつつ先輩わりといつも保身第一ですよね」


「辛辣ぅ!」

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