怪人ニシキの相組逢瀬 4

「いいから頭を上げてくださいこんなとこで私にペコペコしてるの見られたら減点待ったなしですよ」


「あっはい」


 言われて身体を起こすとさすがに彼女の顔を遠く見下ろすことになる。

 必然彼女はニシキを見上げることになるのだが、まったく気負った様子がないのは鍛えてもいないのに少々逞し過ぎるのが密かな悩みの彼にとって少しありがたくもあった。

 よく怯えられるので。


「それで?ダブルデートでしたっけ」


「あ、ああうん。港の遊園地に誘ったんだけど」


「遊園地か…」


「どうかな…」


 お互い明らかな思考中は黙って待つという不文律が生まれつつある今日この頃、ニシキは彼女の腕の上で強烈に主張しているモノに目を奪われていた。

 元々大きいなと思っていたが、最近夏服になったので薄い生地の向こう側に透ける生々しさが半端ない。はち切れそうな圧は実際他の女生徒とは比較にならないくらいシャツのボタンに負担をかけているのが見てわかる。

 これクラスメイトは大変だろうな、などと羨望と同情の綯い交ぜになった気持ちを抱かずにはいられなかった。


 組んでいた腕の片方をあごに当てて暫し考える仕草をしていたニノマエが上目遣いにニシキを見上げた。慌てて視線を顔に戻す。


「わかりました、入園料面倒見てくれるなら彼に相談してみましょう」


「ぐっ」


「全額とは言いません。食事とかアトラクション代は自分で賄いますので」


 こういうときニノマエは容赦がない。しかし前に奢らされたコンサートチケットを思えばまだ…。


「わ、わかった…彼氏くんにはくれぐれもよろしく頼むよ」


「話がついたら連絡しますよ。まあ断られたら諦めてください。アイツが断るとは思えませんけど」


「あ、そーなん?」


「だからこそ嫌っていうのもありますね」


 そういうニノマエの表情は嫌そうというよりはもっと深い、なんとも複雑だ。


「なんていうかニノマエちゃん彼氏にも結構辛辣なの」


 つい口を突いて思ったことが出てしまった。やっちまったかと思って顔色を伺うが、幸いというか彼女はさほど気に障った様子もなく、むしろ真面目な顔で見上げて来た。


「恋は戦争って言いますけど、愛も戦争ですよ」


「なにそれ殺伐とし過ぎてない?」


「永遠に終わりなき戦いです」


「な、なるほど」


 俺は間違った恋愛観の持ち主に相談をしてしまったのではないかと思うニシキだったが、そもそも秘密にしていた片想いがバレたのがきっかけだったからコントロールは出来なかったしなんにしても後の祭りだった。

 そこまで考えてふっともうひとつ気になったことを思い出す。


「そういえば彼氏くんと付き合ってんの隠してるなら、デートとかどうしてんの?」


 さすがに男とふたり連れで歩いていたら誰か彼か気付くだろうし噂にもなるだろう。


「普通にしていますけど、デート中に知り合いに気付かれたことないので」


「それってどういう」


「ま、それは本当に遊園地に行くことになればわかりますから」


「あっはい」


 こうしてその日の生徒会活動はお開きになった。

 余談だが生徒会長は私用とやらで欠席だった。

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