第一章 その十七 バスで来たの。

鳴神が受け取った写真にはコマルとコマルの横で笑う老人が写っていた。

私もツユも覗き込む、「ちょっと俺にも見せろ」と新屋敷もカウンターから出てきた。


「ハナイチ、知ってる顔か?」


新屋敷に聞かれたが鳴神は「知らねすね」と答え、コマルの顔を見直した。コマルは不安と決心が混ざる表情で私達の顔を順に見ている。


「やいマシュマロ、お前の爺ちゃん俺全然見覚え無ぇんだけど。誰に言われてここに来た。そもそもどっから来たんだお前。」


コマルはまたムッとした表情に変わり、「マシュマロじゃなくてコマル!」と訂正し、ここに至る経緯を説明し始めた。


先週まで祖父と二人暮らしだった事、ある朝起床したら祖父が居なくなっていた事、夜まで待っても帰って来なかった事。そしてその祖父が普段から、


「何か困った事があったらCafe&Barドワーフに行って鳴神花一という男を頼れ。」


と言われていた事。そして驚くべき事にコマルは今回、東北地方の農村から『一人でこの店まで来た』と言う事だった。そこには全員が声を上げて驚いた。


「一人でって、具体的にどうやって来たんだよ?!」


コマルは『一体何が不思議なんだ』と言った顔で「バス。」と答えた。それを聞いた新屋敷が更に質問する。


「いやいやいや、バスったってバスターミナルからここまではどうやって来たんだ?かなり遠いし、この店は大人だって見つけづれぇって文句言われるんだぞ?」


「道をね、聴きながら歩いて来たの。」


「歩いて?!」と全員が揃って声を上げる。コマルは「うん。」とうなづく。


「・・・頑張ったねぇ、偉いねぇ・・・うう。」


いつの間にかツユは泣きながらコマルを抱きしめていた。いや、気持ちは分かるがこの短時間に母性目覚め過ぎだろ。子供のおつかい番組で号泣するタイプだな。

しかしよく補導もされずここまで辿り着いたものだ。大人に道を尋ねてもそう上手くいくものだろうか。世の中には良くない大人も沢山いる、誘拐の被害者になっていたかもしれない。そもそもこんな子供に道を聞かれた大人達は『交番に連れていく』と言う当たり前の行動を何故とらなかったのだ。


「連れてってくれる人見つかる方法、爺ちゃんから聞いたの。」


連れてってくれる人を見つける?


「うん、バス降りたら『なるがみハナイチ知ってますかー』って言えばいいって。」


いやいや、それで着くはず無いだろ。・・・ん?


「それで振り向いた人の中でね、白くて優しい感じの、なるべく女の人に着いて行けば連れてってくれるって。」


ちょっと待て。


「なに?」


コマル、ひょっとして『私と話している』のか?


「うん。」


その様子を見て鳴神と新屋敷が顔を見合わせた。

コマル、この子は『霊能者』だ。

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