第9話 断罪イベント後、とりあえず夏休み

 乙女ゲームでの悪役令嬢たちの断罪イベントが、日本で言う終業式にあったので、私たちは夏休みに入った。

 殿下たちの婚約者の処遇は私の耳にまで入って来ていないけど、私の方は自宅謹慎にもならず、アルフレッド殿下の研究室で宿題をしている。

 本当に涼しいんだよね、ここって。クーラーが入っている部屋みたいに。


 王族が生活魔法を使えるのは、珍しくないから良いのだけど、付与魔法が使えるとなると王位継承権が復活するかもしれないので内緒なんだって。 




 あの乙女ゲームは、悪役令嬢の断罪イベントが済んで攻略対象キャラと恋人同士になりました。というところで、終わっている。

 だからもう乙女ゲームの世界は終わっていて関係無いハズなんだけど、私も断罪されていないし。


 ベリアルは、殿下たちに連れられて王宮内をウロウロしているんだよね。

 アルフレッド殿下を、探しているのかしら。


「今日は、中庭にいたそうだな」

 うんざりするような口調でアルフレッド殿下が言っている。誰かが報告したのだろう。

「アルと廊下ですれ違うまで、来るんじゃないの?」

 今日はちゃんとソファーに座って、宿題を終わらせていた。


 おし。後は日記だけ。

 アルフレッド殿下に城下町に連れて行ってもらおうかな? それとも、また領地に……。


「ヒロインの方にも宿題とやらは出ているのだろう?」

 後は遊ぶだけの夏休みに思いを馳せていると、アルフレッド殿下がヒロインの事を訊いてきた。

「出てるでしょうね。同じクラスだし」

 私はいそいそとお茶を入れるための準備をしている。だって宿題終わったし。

「私と違って、後からやるタイプじゃないのかな? 他にもいるよ、そういう子」

 って言うか、最初の一週間で根を詰めてやる方が珍しいのでは?


「ルーズな子は嫌いだな」

 えっ? えー!

 頭ボサボサ、ヨレヨレのシャツ着て、珍しく私の向かいのソファーでボーっとしている、アルフレッド殿下がそれ言う?

「アルも、たいがいだと思うけど」

 そして私もね。普段はソファーに寝転がって本読んでるし。


「何か言ったか?」

「いいえ。別に……っと、クッキー出して良い?」

「おお。その為に持ってきたんだ」

 私はローテーブルの中央にお茶セットと一緒に置いてあったクッキーを出し、アルフレッド殿下の目の前にお茶を置いた。

 自分の所にもお茶を置いて、座る。

 さて、お茶を……と思ってカップを持ち上げようとすると遠くで悲鳴が聞こえた。


「な……何?」

 ビクッとなった所為で、カップがソーサーにあたってカチンと音がした。

「中庭の方からだな」

 アルフレッド殿下は悲鳴がした方角に顔だけ向けて言った。

 私はとっさに立ち上がる。

「おい。行く気か?」

 私の行動を止めるように腕を掴まれた。

「だって、気になる」

「なるほど。だが、ケガしたく無かったら行かない方が良いぞ」

 アルフレッド殿下の言葉は穏やかに言っているけど、掴まれた腕は離してもらえない。

「でも」

 それでもまだ行こうとする私に言う。


「ここに居れば安全だ。ドアの外には護衛がいるし、部屋の中には俺がいる」

「安全って」

「とりあえず座ったら?」

 やっと腕を離してくれた。

 促された通り座って、アルフレッド殿下を見ると、この事態を私にどう説明したら良いのかと思っているのか、めずらしく迷う素振りをしていた。

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