第20話 序盤って、意外と難しい
何度も送ったのに落ちてしまう。評価シートでも点数が上がらない。
そんな方々の陥っている状態の一つに、『序盤が下手』、『説明が下手』というものがあります。
物語の序盤とは作品において、最も重要な部分です。
ここが微妙な出来になると、読者は先を読む気が薄くなってしまい、最悪読むのをやめてしまいます。
あるいは、読み進めたとしても読者のテンションが上がらないため、作者が想定してよりずっと低い感動などを味わうことになります。
「きちんとキャラやストーリーは書けているはずなのに落ちる」「センスも誤字脱字も問題ないはずなのにまた落ちた」――そんな、書き手からすると上手くいっていると思っていても、駄目な烙印を押されるパターンもあると思います。
その一つが、『序盤が下手』な場合です。
そもそも、作品の序盤の時点では、読者はその作品のことを何も知りません。
例えば「主人公がどんな性格か」、「どんな過去を送ってきたか」などは、何も知りません。
また、その作品がどんな舞台か、どんな歴史があるのか、文化は? 過去の大きな出来事はあったか? など、『物語において最低限の知識』すら知りません。
当たり前と言えば当たり前ですね。読者はその作品に初めて触れます。
作者から概要を聞かされていた場合は別ですが、基本的に読者は『その作品を何も知りません』。
本当に真っ白な状態で物語に入り込むのです。
けれど、作者は違います。
予め主人公の性格や過去を知っている。物語の舞台や大まかな歴史も知っている。
だからこそ説明が疎かになって、読者への説明不足に繋がることがあります。
例えばファンタジー。
例おw出しますと、主人公は冒険者だとします。
剣や魔法を使って迷宮に潜り、宝や魔物の素材を得ることを日常としている。
故郷には幼なじみの少女がいて、いつも帰りを待ってくれている。
そしてあと一ヶ月で結婚するという約束をしているが、ある日幼なじみが、盗賊にさらわれてしまう。
そういう作品があった場合、この記事を読んでいる方々なら、どのような描写で主人公を説明するでしょうか?
文章でそういったことを説明する?
セリフをたくさん並べてどんな人物か説明する?
誰かが主人公たちの噂をして、間接的に説明する?
正解はありません。どのやり方でも大丈夫です。商業作品にはそういった例もあります。
ただ、注意しないといけないことは、『情報はなるべく簡潔に、かつ濃く描写する』ことです。
例えば上記では、主人公は冒険者としました。
冒険者と言っても、色々あると思います。
エリート。底辺からの成り上がり。まだ初心者。あるいは以前は強かったが、今は何らかの理由で弱体化している。
他にも、一昔前に流行った、追放されて冒険者になった、というパターンもあると思います。あとは家が代々、冒険者だったなど。
種類は多岐に渡ると思います。
それらを上手く説明してください。
また、主人公が『そんな自分をどう感じているのか』も重要なポイントになります。
例えば追放された結果冒険者となった場合、『追放した元凶に復讐する』『追放されたけど前向きに生きていく』というスタンスでは、まるで主人公の性格は違いますよね。
復讐心を抱いているのに「前向きに生きていくぞ」と言う主人公は、人格が破綻しています。
主人公がどんな境遇で今の立場になったのか、ある程度の説明をしておく。そうすると読者は主人公の行動に納得がいきます。
具体例で言えば、商業作品で言うなら『回復術師のやり直し』。
本作では主人公は、自分を利用した王女に復讐するために様々な外道な手段を用いて復讐します。アニメでは一部カットされたり、ぼかして放映されたシーンがあるほど過激なものです。
『え、ここまでやっていいの?』と、原作やアニメを見た方には、そう思った方もいるかもしれません。
ただ、主人公がそうまで過激な行動をとることに、『納得感』はありました。
主人公は王女にひどいことをされます。
薬漬け、暴力、洗脳、犬扱い。主人公は王女たちと旅に出るのですが、その途中で人格を破壊されます。
非人道的な扱いも何度も行われ、たぶんほとんどの人が『この王女ゲスだ』と思うでしょう。
序盤から、散々そういった描写をされているため、主人公が過激な行動をするにも、納得がいきます。方法は賛否あるでしょうが、理解は出来るのです。
これが主人公の境遇が上手く説明出来ているパターン。
次に、『ぼくたちのリメイク』。
本作では主人公は誰にとっても最善手であろう手段を講じようとします。
困っている人がいるなら、知識を生かしてその人を助ける。悩みを相談されたら持っている情報を駆使する。
途中からは周りの人間の中心的人物となって、頼りにされる人間となります。
なぜ主人公はそこまで親切な人間なのか?
それは主人公は、一度は人生を失敗しているためです。
本作はタイムリープものであり、主人公は幸運にも大学入学直前まで時間を戻れます。
その後、『後悔しないように』努力をしようとします。
前の人生で苦い経験があるから、そうならないよう、以前の知識を活かす。問題がおきても、それを駆使して解決するのですね。
それは端から見れば魔法みたいなことで、かつ誠実さも滲みでいるので、信頼が生まれます。主人公としては前の人生の二の舞いを避けたいがための行動ですが、結果的に主人公は周りから好意や尊敬を向けられることになります。
これも、序盤で主人公が苦い思いをしていると描写しているから、読者としては納得出来ます。
『少し優しすぎじゃない?』と思うような行動もありますが、前の人生で苦労した経緯が読者に描写されているため、違和感なく読み進めることが出来ます。
序盤で、丁寧に主人公の描写と舞台設定が開示されている。その上で成り立っている好例だと思います。
しかし、新人賞を何度も落ちる場合、この『序盤での描写』を失敗しているパターンは多いと思われます。
主人公がどんな性格で、そんな状況なのか。それについてどう感じているのか。
その説明がない。
また、舞台がどんな場所で、おおよそどんな歴史があるのか、説明もあまりされていない。
それを飛ばして、いきなり本筋に入ってしまっている。
例えの話になりますが、『回復術師』で言えば、王女にひどいことをされたと説明しないまま、主人公が王女に復讐をしたら読者はどう思うでしょうか?
「え、なんでここまでこの主人公はするの?」
と、ドン引きすると思います。
理由の分からない復讐は怖い。
また『ぼくたちのリメイク』でも、冒頭で主人公の苦悩を描写していないと、タイムトリップしても主人公の喜びや意気込みがいまいち理解出来ないと思います。
想像である程度は補えるかもしれませんが、得られる感動は少ないと思います。
私はたまに、ネットで『一次選考落ち』や『二次選考落ち』の作品を拝読することがあるのですが、何割かはこのパターンに嵌まっています。
『序盤で主人公や舞台の描写がない』
そのせいで主人公がどんな行動をしても説得力が薄く、また舞台説明も不足。
「この作品ってどこまでアリなの?」と、気持ちがもやもやしたまま読み進めていくことがありました。
そういう作品は、物語に没入出来ません。ストーリーの山場に入っても、感動は薄い。
だから新人賞に出しても落とされる。
たとえ文章力が高くとも、キャラが立っていても、そもそもの『前提』が書かれていないため、すんなり入り込めない。
よって、序盤での『主人公の描写』は重要です。
『舞台の説明』も同じ。
なるべく詳しく、ただし読者が飽きない程度に、描写してください。
映画の話になりますが、冒頭で日常シーンが映され、主人公がどんな生活を送っているのか、どういう場所に住んでいるのか、流れるシーンを観たことがありますか?。
あれはストーリーを早く進めてほしい人にとってはやや退屈なシーンかもしれませんが、じつはこの『日常』と『主人公の生活』を入れることで、その後に始まるストーリーの本筋に説得力を持たせているのですね。
・主人公は優秀なのか。そうでないのか。
・物語の舞台は平和なのか。そうではないのか。
それらを見る側に伝えることで、その後のシーンに違和感なく繋げる。
基本ですが、とても大切なことです。
もし、一次選考や二次選考で落ちてしまう方がいれば、序盤を読み直してください。
――その作品には、主人公の性格、環境、過去が書かれていますか?
――冒頭、早い段階に、物語の舞台のあらましや簡単な歴史が書かれていますか?
――人々がどういう生活をしているか、なるべく簡潔に書かれていますか?
仮になかったのなら付け足してください。
伝えるべき情報は、過不足なく伝えてください。
ちなみに、私の場合は、受賞前に落選した作品を改めて読み直してみると、
「主人公と舞台のどちらか、あるいは両方」が、ろくに説明されないまま本筋に入っていました。
逆に、受賞作では説明がある程度されていました。だから受かる要因の一つになったのだと思われます。
序盤での主人公と舞台の描写。
これによって、物語の完成度はより高まります。
次回、序盤シーンで『やってはいけないこと』に続きます。
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