第23話 夏祭り 前編

 夏祭り当日、神社の入り口で茉桜を待っている。


 去年までの夏祭りは朱音と紫織の三人で来ていた。


 一度ダブルデートをする話にもなったが、付き合って初めての夏祭りという事もあり、今回は二人で来る事となった。


 朱音と紫織もこの夏祭りには来ると言っていたし、すれ違う事もあるだろう。


 神社の鳥居をくぐっていく人にたまにではあるがチラチラと見られて、初めて着た浴衣がおかしいのかと勝手に思い居心地が悪くなる中、茉桜が少しだけ早足に歩いてきた。


「ごめんなさい、遅くなったしまったわ」


「いや、気にしてへんで。それよりもチラチラ見られんのやけど...ウチ、変?」


「え?何を言っているの?叶彩、とても似合っているわよ」


「そうなんかな?」


「ええ、大きくプリントされている牡丹の花、浴衣の色も紺色で大人っぽく見えてとてもキレイよ」


「う、うん。ありがとう」


「それに、牡丹と言えば何か思い浮かばない?」


「んー...あ、立てば芍薬座ると牡丹ってやつ?」


「そうそう、叶彩の場合は立てばカッコよくて、寝転ぶとかわいい、かしら?」


「なんやそれ」


「詳しく教えてほしいの?」


「...いや、やめとく」


 なんかめっちゃテンション高いやん、浴衣姿褒められるのは嬉しいけど、こんな所やとちょっと恥ずかしいな、でも嬉しい。


 まだ神社の入り口に立っているだけだが、茉桜は目をキラキラさせてかなり興奮している。


「茉桜もめっちゃ似合ってるで」


「ふふ、ありがとう叶彩」


 茉桜の髪型はいつもと違いポニーテールになっている。やはり浴衣に合わせるには髪はまとめた方が絶対にいい。


「ウチとお揃いやな」と言ってトレードマークのポニーテールをピコピコと揺らしてみせる。


「叶彩とお揃いなのは嬉しいわね」


 茉桜のうなじがチラチラと見えるのもポイントが高い。


「どうしたの?」と目線に気づいた茉桜がクスッと笑いながら聞いてきた。


「ん、茉桜に見惚れてしまっただけやで」


「ふふ、そうなの?」


 キレイやなー。浴衣着るだけでこんなに変わるんやな。茉桜の浴衣姿見れただけで今日の夏祭りは満足やわ。


 茉桜は長い黒髪に合う紫色の浴衣を着ている。水玉模様も少し身長の低い茉桜のかわいらしさを活かしている。


「行こか、ずっとここにいてもしゃーないし」


「そうね、行きましょう」


 二人でカランカランと下駄の音を鳴らして神社の鳥居をくぐっていく。


 まずは並んでいる屋台を軽く見ていき興味のあるものを選んでいく事にした。


 夏祭りの出費もバカにならないので、あれもこれもと言って買っているとすぐにお金は無くなってしまう。


 ある程度見終わった頃、少しお腹が空いてきた。


「先になんか食べへん?」


「私、たこ焼きが食べたいわ」


「いいやん!ウチも食べたがってん!」


「ふふ、だと思った」


「ん?」


「だって叶彩、食べたそうにしてたもの」


「そんなに?」


「見てたら分かるわよ」


 バレバレだったらしいので、茉桜の言う通りにたこ焼きを買いに行く。近くでリンゴ飴を買った茉桜とベンチに座って腹ごしらえをする。


 八個入りのタコ焼き、一つを茉桜にあげる。


「ほら茉桜、食べさせてあげるわ」


 ふうふうと少し冷ましてからあーん、と言って茉桜の方にたこ焼きを運ぶ。


 茉桜は嬉しそうにしながらパクっと食べた。


 なんか、ヤラシイわ。


「美味しいわね、ありがとう叶彩。私のもあげるわ」と言ってリンゴ飴を一口もらう。


「ありがとうな」


 食べ終えるとまた二人で歩き出す。


 また何か食べるか遊ぼうか迷っていると、話しかけられた。


「叶彩〜、久しぶり〜」


「元気そうだね」


 朱音と紫織だ。二人は浴衣は着ておらず普段着で来ていた。


「お、久しぶりやな」


「あなた達も元気そうね」


「夏休み何してたん?」


「紫織にいろんなポーズさせられてた〜」


「変な言い方しない。絵のモデルだよ」


「恥ずかしかったよ〜、裸だし」


「え?」


「それは置いといて、叶彩達は夏休み何してたんだい?」


「え、あー、ウチらは海行ったりピクニックしたりダラダラしたりしてたで」


「ふふ、そうね」


「へぇ〜、楽しんでるね〜」


「今度二人で温泉旅行に行くのよ、とても楽しみだわ」


「温泉旅行に?」


「なにそれズル〜い!」


「まあ、たまたまチケットが手に入ったんや」


 朱音と紫織に海で参加したイベントの事を話した。


 ピクニックで犬に突進された事も話して久しぶりに四人でワイワイお喋りした。


 大体の事を話し終えると二人は屋台を見てまわると言って歩いて行った。


「じゃ、ウチらも行こか。そろそろ花火が上がる時間やし」


「そうね」


 もうすぐ花火が打ち上がる時間というのもあり、人が増えて来ている。


 茉桜とはぐれないように手を繋ぎ花火が見えるところまで歩き出す。


「叶彩!茉桜!」と聞き覚えのある高い声が二人を呼ぶ。


 振り返ると真知子。


 振り返らなくても分かる真知子。


 黄色い浴衣に身を包み、いつも通りツーサイドアップの髪をピコピコと元気に揺らしている。


 うん、真知子は別にいいか。それより花火が見えるとこまで行かなアカンしほっとこ。


「待ちなさいよ!」と言って人混みをかき分けて目の前までくる。


「真知子久しぶりやな」


「久しぶりやな、じゃないわよ!何無視してんのよ!」


「ウチら急いでんねん」


「ちょっとくらい時間あるでしょ!」


「無いなー」


「そうなの?茉桜」


「まあ、もうすぐ花火が上がるから急いでいるのは事実ね」


「どうやら本当のようね」


「また今度遊んであげるから、今日はごめんな」


「ぐぬぬ、今回は諦めてあげるけど今度ちゃんと遊びなさい!」


「はいはい」


 真知子も友達と来ていたみたいだ。真知子が歩いて行った方を見ていると何人か女の子がいた。


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