第20話 海と真知子とコンテスト 前編

「ふふん!夏と言ったら海!海と言ったら私!」


 黄色い水着を着て、ツーサイドアップにしている金色の髪をピコピコと揺らしながら元気に犬のように吠える女の子。


 元々茉桜の事が好きだったらしくその後も何度か訳の分からない勝負を仕掛けてきたが、今は仲良くなって茉桜と二人でくるはずだった海デートに勝手についてきている。


「なにアホな事言ってんねん」


「相変わらず元気ね」


「茉桜ごめんな、海の事話してたらこいつ勝手に来よってん」


「気にしないで」


「はい!イチャイチャ禁止!」と間に割って入ってくる。


 シーズン真っ只中の海、言うまでも無いが人は多く、はぐれたらなかなか合流するのは難しそうだ。


「ほら!これで遊ぶわよ!」と言って真知子が手に持っているのはペチャンコになっているビーチボール。


「いいけど、まず膨らませないとダメね」


「頑張れ真知子」


「ジャンケンで決めるわよ!」


「やめとき、どうせウチが勝つんやから」


「茉桜も一緒にジャンケンするのよ?」


「それは...茉桜になりそうやな」


「叶彩、どういう意味かしら?」


「ウソやで、ジャンケンとか運やし茉桜も勝てるかもしれへんし大丈夫やで!」


 真知子の「せーのっ!」の合図でジャンケンをした。


 結果は茉桜の負け。


 ペシャンコのビーチボールを悔しそうに持って空気を入れ始める。


「叶彩ってキレイな体してるわね、やっぱりスポーツとかやってる人は違うわ」と言いながらペタペタと体を触ってくる。


「触り方がなんかヤラシイ!」


「ええ?いいじゃんいいじゃん!」


「ひっつくな!」


「良いではないか〜良いではないか〜」と言っている真知子の頭にビーチボールが飛んでくる。


 ポンと頭に当たり、ボールが飛んできた方を見ると、かなりのスピードで息を送り込んだのだろう、茉桜が肩で息をしながらこちらを睨んでいる。


「イチャイチャ禁止じゃなかったかしら?それに私の彼女にちょっかいかけないでくれる?」


「はーい」と全く反省の色を見せない返事をして、近くに転がっているボールを拾う。


 海辺に行き、三人で遊ぶ。


「連続何回出来るかな?落とした人負けね!」


「なんでも勝負にしたがるなー」


「その方が楽しいじゃん!」


「ジャンケンでは負けてしまったけど、これなら負ける気はしないわ」


 ポーンポーンと浮かして順調に回数を重ねていくが、突然茉桜が真知子に向かって強烈なスパイクを放つ。


「うわぁ!」


「茉桜すごいな」


「ふふ、ありがとう」


「いやいや!せっかく何回も出来てたのに!」


「勝負なのでしょう?落とした人が負けって言ってたじゃない」


 さっきジャンケンで負けた事相当悔しかったんやろな。


「ぐぬぬ、三回勝負よ!」


「でた、三回勝負。まあ、三回やれば勝てると思ってるのがかわいい所ではあるな」


「うるさいわね!」


 結果は、真知子を狙い撃ちにしていた茉桜が圧勝した。


 ウチほとんど見てるだけやったな。


「さあ、飲み物買ってきなさい」


 悔しそうにしながら何も言わずに走って行った。


「ゲームとかジャンケンは弱いのに体動かす系は強いな」


「それは、褒めているのかしら?」


「もちろんやん」


「ふーん」


「な、なに?」


 ジリジリとこちら詰め寄ってきて指先を体に当ててきた。


「さっきはどんなふうに触られたの?こんな感じかしら?」


「い、いや、もっと普通に」


「ふふ、もしかして喜んでいるのかしら?」


「恥ずかしいだけや」


「こんなところで私に触られて発情しちゃった?」


「好きな人に触られたら嬉しいやろ」


「誘っているのかしら?」


「誘ってへんし」


「買ってきたわよ!」と真知子が腕にペットボトルを抱えて帰ってきた。


「ふふ、またいっぱいかわいがってあげるわ」


「恥ずかしい事言うな」


「無視しないでよ!買ってきたって言ってんの!」


「はあ、随分と早かったのね」


「走ったからね」


「もっとゆっくりでも良かったのよ?」


「ゆっくり行くとイチャイチャするでしょ!」


「もちろんよ」


 真知子からペットボトルを受け取り二人の絡みを眺める。


 またウチほったらかしにされてるなー。なんかモヤっとするわ、ウチの茉桜やのに。


「ほら、いつまでもやってんと遊ぶで」と言って茉桜の手を取る。


「嫉妬してるのかしら?」


「してへんし」


「ちょっと置いてかないでよ!」


 少し遊んで昼頃、みんなお腹が空いてきたと言う事で一旦遊ぶのをやめて近くにある海の家に向かった。


「なに頼もうかな」


「私は醤油ラーメンにするわ」


「焼きそば!」


「ウチはカレーにしよ」


 全員注文を済ませた料理が来るのを待つ。


 なんか濡れてる状態で椅子に座るのちょっと気持ち悪いな。


 高い割には美味しいと言うわけではない料理をみんなで食べて外に出る。


「あそこ今日なんかやるんかな?」と準備中のステージを指差す。


「見に行ってみようよ!」


「そうね」


 近くに行くと張り紙があり、書かれていた内容は水着であれば参加は自由で簡単な特技を披露するらしい。


「へぇ、優勝の景品は一泊二日の温泉旅行にご招待だって」


「いいわね」


「ウチは参加しても優勝出来そうにないし、茉桜と真知子参加したら?」


「何言ってるの!みんなで参加しようよ!」


「そうよ、それに叶彩はとてもかわいいわよ?」


「こんなん恥ずかしいわ」


「ね、お願い」と手を握ってくる茉桜。


 何やら一泊二日の温泉旅行券という文字を見てやる気が全開になっている。


「...しゃーないなぁ」


「誰が優勝出来るか勝負ってわけね!」


 三時から始まるらしいので受け付けを済ませて時間を潰す事にした。


 あっという間に時間が過ぎ、ステージに向かうと参加者がゾロゾロと集まってきていた。


 スタッフの方が「水着で肉体美自慢コンテストに参加する皆さん集まって下さーい!」と案内をしていた。


 このイベントってそんな名前やったんや。


「肉体美自慢...叶彩なら勝てそうね」


「なんでやねん、茉桜の方がキレイやん」


「ふふ、ありがとう」


 ステージの裏側に案内され簡単な説明を受けた。


 呼ばれたらステージに上がり簡単なアピールをして終了。


 難しい事はないのだが、簡単なアピールが思い浮かばない。


 審査は観客の盛り上がり具合、審査員の好みで決まるみたいだ。


 イベントが始まり次々と名前が呼ばれていく。


 真知子が呼ばれて気合の入った顔でステージに向かった。


「受け付け順に呼ばれているみたいね」


「そーなん?」


「私達の前にいた人がさっき呼ばれて、真知子が呼ばれたでしょ?次のが私でその次が叶彩よ」


「ふーん、それより簡単なアピールってなにしたらいいんやろ」


 ステージの方からは「おお!」「かわいい!」という声が聞こえてくる。


「簡単なアピールでいいのよ、深く考えないで適当に、ね」


 真知子がステージから降りて茉桜の名前が呼ばれた。


「行ってくるわね」と言ってステージに上がっていく。


 真知子が降りてきて満足そうな顔をしている。


「あの盛り上がり聞いてた!?これは私が完全に優勝ね!」


「すごい盛り上がりやったな」


「ふふん、当然よ」


 茉桜の方も盛り上がっているみたいだ。


「私は女の子にしか興味がありません。今日一緒に来た子に...告白したいと思います」


 茉桜何言ってるんや...。


「叶彩さん!叶彩さんいますか!?ステージに上がって下さい!」


「え?ウチ?」


 おかしい、まだ茉桜はステージにいるしウチの順番でも無いと思うんやけど。


 スタッフの方に言われるがままにステージに上がり、茉桜の近くに立つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る