4-5 誤解と百合(?)



 予想外……いや、違うな。

 もうここまで来たらこの状況はむしろ予想内だ。分かるとは思うがコメント欄はもうお祭りどころの騒ぎではない。


 俺は自身の熱のことなどすっかりと忘れ、扉一つ隔てた先で行われている視聴者数が約30万人にまで膨れ上がった、異例のゲーム実況配信の心配のみをしていた。


 ……これはある意味のショック療法、なのか?



「え、絵里、さん?」


「ん?どうしたの?舞香ちゃん」


 扉越しに舞香の驚く声が聞こえた。


 うわ、画面見ないでも二人の表情分かるわ……絶対に絵梨花ちゃんはしてやったり顔してるな……


「え、えーと……とりあえず今回の実況には、同じ事務所の絵里ちゃんも参加していただきまーす!もう今更だけど、本当にいいの?」


「えぇ、許可は……でています!」


 ……いや、絶対に今の不自然な間は嘘だよねぇ!それに事務所から許可出ても家主から出てないですよ絵梨花ちゃん!


 てか、してもらう側がいうことじゃないけど皆本来の目的である俺の看病のこと忘れてない!? もう頭の片隅にもないよね!?


 俺も俺で未知の状況と体調の悪さからアドレナリンがドバドバと出ているのか、興奮しすぎてもう体調がすこぶるいいわ!


 同じようにコメント欄も、この三人に関わりがあると知らない人が大半だったこともあるが、今をときめく三人の大スターの共演に異常ともいえるほど盛況している。


「お?

 絵里さんとお二人の関係は?だって」


 コメント欄を見ていた雪音が、目についたこのコメントを読んで、目配せで絵梨花ちゃんに話題をふる。


「あぁ、yukiちゃんは同じ事務所に所属していて、かねてより私生活でも交流がありました。ですから今日も急遽ですがお邪魔したというわけです。


 舞香ちゃんはですね……実は、私の妹です!」


 ぶっ!?!?!?!?


 ゴホッゴホッ……

 思わず飲んでいた水を吹き出してしまったよ。いや!何言ってんの、この人!?!?


 ほら、コメント欄も本気にした人達が


『美人三姉妹じゃん!』

『最強の三姉妹降臨』とかきてる……あれ?あんまり大事になってない?


「ふふ、そうですよ?二人だけずるいなーって思って」


 そう画面越しで優雅に笑う絵梨花ちゃん。

 これは……?俺はコメント欄に目を移すと


『なるほど!そういうグループ活動の伏線的なやつね!』や『このユニットは推せる!』等のコメントが増えてきた。


 まさか、絵梨花ちゃんはこれを狙って……


 確かにこの流れなら、先程の舞香と雪音の姉妹発言も現実のものではなく、ビジネスといってはなんだが、友人関係の延長線上と捉えられ、この裏にある本当の関係が流出する危険性も低くなるはずだ。


 流石は絵梨花ちゃん……まさか、ここまでよんで敢えてこの場に立ったというのか。


 見直した、見直したよ絵梨花ちゃん!


 いつも舞香と一緒にバカやってる姿しか見ていなかったから、彼女の頭の良さを少し忘れかけていたが、そうだよ!絵梨花ちゃんは頭がいいんだった!


 そう考えていたら絵梨花ちゃんが、コメント欄を見て


「え?そういうユニットの伏線?

 違いますよ。舞香ちゃんと私は義理ですが本物の姉妹です」


 と、真っ向から完全否定してしまった。


 え……?なんで否定するの?

 絵梨花、ちゃん……?


「い、いやいや、絵里さんは違うでしょ?」


「もう……照れないでいいのよ?舞香ちゃん?」


「照れてないよ!?」


 次は舞香が絵梨花ちゃんの発言を否定すると、やんわりとそれを否定する絵梨花ちゃん。


 はぁ、どうやら俺はかいかぶりすぎていたようで、絵梨花ちゃんは本当に家族になる気が満々なようだ。


 それって俺と、結婚してってことだよな……?いや、30万人の前で爆弾発言してんじゃんこの人!


 30万人にとってはドキドキの美人ゲーム実況配信かもしれないが、俺にとってのドキドキはベクトルが違いすぎるぞ!


 それよりも、この発言を理解して焦っているのは、俺と画面越しの二人、のはずだよな……


 俺は目線を少し横にずらし、ドキドキしながらコメント欄を見ると、


『いや、絵里ちゃん二人のこと好きすぎwww』

『ま、まさかこれは……アイドルと女優の禁断の百合展開!?』

『百合なんて興味ないと思ってたけど、さっきから胸の動悸がすごいんだが!?』

『アリです』


 等のコメントで溢れていた。


 ……あれ?世間って意外とチョロい!?

 絵梨花ちゃんの作戦(?)は偶然にも功を奏したのだった。


 そして、沸く世間とは裏腹に、内心は焦っているであろう雪音は


「さ、さぁ、もう時間もいい感じだし、本日の配信はここまでにしておこうね!次の配信時間は私のSNSで告知するので、是非チェックをお願いね!それじゃね〜」


「「またね〜」」


 と終わりの挨拶をし、心臓が飛び出る程ドキドキした配信は終わりを迎えたのだった。


 *


 配信画面が暗くなり、終えたことを確認すると俺は扉を開けリビングに出た。



「……何か俺に言うことはあるかい?」


「「「……ごめんなさい♡」」」


 翌日のネットニュース及びテレビニュースでは、この奇跡の配信と何故か出てきた百合疑惑が大々的に取り上げられたのは言うまでもない……


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