4-3 義姉妹と予想外
「はっ、はっ、はっ……!」
私は今、マンションの階段を走って上がっている。
撮影も終えて縁さんに送ってもらったはいいが、エレベーターが遅すぎる!こっちは早く帰って俊介のお見舞いをしなきゃいけないのに……!
一応、他に思いつく手もなかったから雪音お姉ちゃんに看病を頼んだけど、お姉ちゃんも俊介のことが好きだし、もしかしたら弱ってる俊介に迫ってるかも、とか考えたらエレベーターを待つ事なんて出来なかった……めちゃくちゃ疲れるけど!
うっ、私もじゃんって?
だって、あんな弱々しい俊介を見ることなんてなかなかできないんだもん……
はぁ、階段きっつ……
でもようやく玄関までついた!
「しゅ……」
おっと危ない危ない。
さすがに病人がいるのに大声はダメよね。
ん?なんかリビングからゲームの音がする。もしかして、俊介が起きて来てから雪音お姉ちゃんとゲームでもやってるのかしら。
そう考えながら私はリビングの扉を開けると、目の前には私の考えとは、まったくの予想外な光景が広がっていた。
「……ゆ……yukiちゃん?」
「……ん?あ、舞香、ちゃん……」
そう、雪音……いや、yukiお姉ちゃんがリビングにてゲーム実況をしていたのだ。
私は一瞬で状況を察してカメラ外に出たが、普通にカメラに映っていたみたいで、お姉ちゃんの前のモニターに映し出されているコメント欄が荒れているのが目に見えてわかる。
うわー……
これは縁さんに怒られるなぁ……
ん?
バッグに入れていた携帯が振動している。
見てみると縁さんからのメールだった。
はっや!あ、そっか、縁さん yuki の配信の大ファンとか言ってたな。おそらく、事務所に戻って実況を見ていたら私が突然現れた事に対するお叱りのメールだろう。事務所を通せとかなんやらの……
だが、メールを開いてみると内容は予想外のものだった。
『舞香!実況にそのままでなさい!
責任は私がとります!NGワードには気をつけるのよ!』
…………はい?
まさかこんな内容のメールが来るとは。
確かに私が所属するアイドルグループ『Amour』は現在は破竹の勢いで人気を高めていると言えるが、このまま何もしなければ当然だが勢いも衰え、のちに来るであろう新しいグループなどに今の地位を奪われる可能性もあるだろう。
そのためにも新しいチャレンジをしていき、可能性を模索することは日々必要なことであり、縁さんのこの勢いから見て、彼女は配信に少しでも可能性があるとは感じたようだ。
縁さんは社内でも一際腕の立つ人物として有名で、私たちをここまで押し上げてくれた1番の功労者と言っても過言ではない。
そんな先見の明を持ち合わせた彼女がそういうんだから、私は素直に従うまでだ。
だけど、だけどよ?今この状況がまずいのよ!
ここは、雪音お姉ちゃんの配信部屋じゃなくて私と俊介の暮らしている普通の部屋で、結構やばい人の出入りも多く、扉越しには俊介も寝ている。
ここで俊介が起きて来たらさすがにやばい……俊介に迷惑がかかっちゃう……
しかもさっきの撮影で縁さんと俊介が熱を出したことを話していたら、あのデカ乳隣人が聞き耳立てて聞いてたし。その時は別にどうでもいいからスルーしてたけど、この状況では最高に嫌な予感しかしない……
おそらく雪音お姉ちゃんは、私が帰りが遅くなるって言っていたから、やむをえずここを使ったのだろう。だから私がすごく早く帰ってきたので内心とても驚いているはずだ……
とりあえず、俊介にメールしてっと、あ、返信はや。起きているみたいね、それなら好都合。
覚悟を決めて、いきますか!
*
「あはは、それはノーコメントで……」
「yukiさ〜ん!」
「……え!?どうして!?」
やっぱり雪音お姉ちゃんは、さっきの出来事の後処理に追われていた。
私はカメラに映るとすぐさまお姉ちゃんの隣に行き、耳元で許可が出たというと、めちゃくちゃ嬉しそうな顔を浮かべ
「皆さん!すごいことが起きましたよー?
みんなも知ってるよね!アイドルグループ『Amour』から、斎藤舞香ちゃんが来てくれましたー!」
「どうもはじめまして、舞香です!よろしくね〜!」
私がそう挨拶を行うと、コメント欄がすごい勢いで流れすぎてもはや固まった。
ここまで反応があるとちょっと嬉しいかも……
「おぉ、勢いすごいね……ん?
舞香ちゃんとどういった関係ですか?って……」
コメントを読み終わると、雪音お姉ちゃんは私の方を向いた。おそらく、言ってもいいの?ってことなのだろう。
私が首を縦に振ると、笑顔になったお姉ちゃんは
「では、許可をいただきましたので言いますけど、舞香ちゃんは私の妹なのです!!!どう?可愛いでしょ!世界一でしょ!」
そう自慢げにカメラに向かい公言した。
いうまでもないがコメント欄は依然として荒れている。あぁ、もうこれは明日のネットニュースには確実にのるな……
てかさ、改めて思うけど配信時のお姉ちゃんのテンションが素の時と違いすぎるよね……え?私は言えないって?うるさいわよ!
ともかく、こうして私と雪音お姉ちゃんのゲーム実況は、一抹の不安を残したまま始まったのだった。もうこうなったら、なるようになれ!よ!
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