2-6 罰とご褒美




「舞香ちゃん、また明日ね〜」


「うん!また明日!」


学校も終わり、友達との挨拶をすませ

私は俊介がいる2-1の教室へと向かう。


今日は仕事もない!

俊介の放課後は抑えた!

明日の仕事はハードだし、

今日は絶対に心から楽しむ他なし!


「お兄ちゃん帰ろー!」


「おぉ、ちょいまちな」


私が兄のクラスに着くと、少しどよめく。

初日にくらべたら皆慣れたようだ。

仕事以外であまり目立つことは好きではない私としては、大変嬉しい変化である。


ふと奥に目をやると、あの銀髪牛チチ女は

珍しく私にニコニコ笑っていた。


え?なにキモ・・・

何か悪いものでも食べたのかしら・・・


周りはそんな絵梨花の顔を見てときめいているが、私はだいぶ引いてしまった。


けどいいなぁ、同じクラス・・・

なんの行事でも一緒に過ごせるんでしょ?


後一年早く産まれてれば・・・

それかあの有名なヒーローみたいに、俊介を氷漬けにして一年後に目覚めさせようかしら!


・・・やばい女ってのは分かってるから言わないで。


「よし、行くか。じゃあな小吉!」


「おーう!舞香ちゃんもじゃあね〜」


「はい、小吉さん!じゃあねです!」


「えっ、ちょっ俺の名前覚えて・・・」


謎にときめいている親友を冷ややかな目で見ている俊介。・・・クールな顔もステキ。

別に私もたまにはあんな目で見て欲しいとか思ってないから。思ってないから!本当に!




私と俊介は二人で、実家の近くにある大型ショッピングモールへと向かう。


義妹というポジションは正直あまり好きではないが、こういう時には役に立つ。皆、私たちが兄妹だという事を知っているから二人きりでもそこまで騒がれない。


問題があるとすれば、いかにして周りに兄妹と認識させつつ、俊介には恋愛対象として見てもらう様にするかだ。


これが本当に難しいんだよなぁ・・・





「ところで、何か見たいものでもあるのか?」


「とりあえず、クレープ食べたい!

 お兄ちゃん奢って〜」


俺は舞香と共に、ショッピングモールに来た。奢ってといい、甘えてくる舞香。


久しぶりに二人きりの場所で、お兄ちゃん呼びをされ少し、いや、とても萌えた。


「何味にするんだ?」


「んー。桃もバナナもどっちも美味しそう。

 けど、あんまり食べすぎたら太っちゃう。

 むむむ・・・」


「なら、俺が舞香が選ばなかった方にするよ。それなら二つとも食べれるだろ?」


「え?いいの?なら私、桃にする!

 お兄ちゃんありがとっ!」


こんなことで喜んでくれるのならいくらでも買うわ。それに、やはり舞香は笑顔が一番似合う。守りたい。この笑顔。


「わ!美味しそう!

 お兄ちゃん写真撮って!」


「はいはい」


そういって舞香がクレープを食べている写真を撮る。さすがアイドル、何枚か撮ったが事故画ゼロは恐れ入った。


写真も撮り終え、俺もクレープを食べようとしたら


ブブ


ポケットの携帯が振動した。

舞香が だれから? と少し不機嫌そうに聞いてくる。誰からか確認すると


瀬川せがわ佳奈美かなみ『俊介〜今度いつあいてる?

ちょっと相談があるんだけど』


という文字が画面に並ぶ。

横を見たら凄いしかめっ面の美少女がこちらを睨んでいた。やはり美人がすごんだら怖い!


「・・・佳奈美ってだれ?

 俊介、もしかして私たちだけじゃなくて他にも女がいたの?」


お、おい舞香ちゃんいつもの声色と俊介呼びになってるよ?なんかプルプル震えてるし。

これはまずいぞ


「ち、ちがうぞ!佳奈美っていうのは、俺の産みの母親の名前だ!父さんと別れてからもちょくちょく会おうって言ってくるんだよ!

ほら!」


そう言ってトーク履歴にある、母と二人で撮った画像を見せる。納得したのか、舞香は落ち着きを取り戻す。


「・・・な、なーんだ!

そうならそうと早くいってよ〜ごめんね☆」


「お前それやれば何でも許して貰えると思ってるだろう。」


「だってお兄ちゃん優しいじゃん」


「まぁ、許すけど」


はぁ。舞香の考えなしのところは困ったものだ。周りに人がいないから良かったものの、これではいつボロを出すか気が気ではない。


「そ、それよりさ昨日帰ってきてから、

 少しだけ元気なかったじゃん?

 なんかあったの?

 昨日あの女と遊んだって言ってたから」


「あー・・・まぁ、不良に絡まれたんだよ」


「え!?大丈夫だったの?」


「あぁ、運良く何も起こらなかったよ」


「よかったぁ。危なかったら警察に電話でもなんでもするのよ!周りもつかいなさい!」


「わかってるよ。

 ありがとうな心配してくれて」


舞香には悪いが言えない。

あの後、絵梨花ちゃんから連絡がなくて嫌われたと感じてシュンとしていたことを。


「当たり前でしょ。

 それともう一つ。何で今日、あの女はあんなに嬉しそうだったのかしら」


「え!?それは・・・

 お、俺が言うのもなんだけど不良に立ち向かう俺が格好よかったんじゃないか?

 あはは・・・」


「それはないわね。そんな美談が生まれるくらい格好よかったのなら、俊介は昨日あんなに落ち込んではなかったはずよ?

 ねぇ、なにか隠してるでしょ」


す、鋭い・・・女の勘ってやつか?

あの少年名探偵もビックリの推測に少し驚く。てか、そんなきっぱりないって言われたら悲しいぞ!


「そ、それは・・・」


「それは?」


グイっと顔を近づける舞香


「は、初めてキスしたからだと、思う。」


「・・・はい?」


舞香はポカーンとし、手からクレープが落ちる。俺は間一髪キャッチすることができ、胸を撫で下ろす。


「昨日?」


「お、おう」


「それ俊介からしたの?」


「いや、絵梨花ちゃんからだけど・・・」


「そう。へー。そう。


 ついに、ついにやってくれたわね!

 あの牛チチ!いや、泥棒クソビッチ!」


その時の舞香の迫力はカタギのものでは到底なかった。後ろに心なしか鬼が見える気がする。


「てか!

 俊介はそれファーストキスだったの?」


「へ!?」


「いいから答えなさいよ!」


「ち、違うけど」


「そう。とりあえずよかっ・・・


 って、誰としてたのよ!」


にだよ。いきなりあっちから。もうそれからずっと会ってないけどさ・・・」


「そう、それは知らなかった・・・

 

 とにかく!

 言いたいことはいっぱいあるけど、

 せっかくのデートを崩したくないし、

 この話はもう終わり!


 あーイライラしたらお腹すいた!

 ね、そっちの一口頂戴?あーんして?」


そう言って目を瞑りちっさく口をあける舞香。自分から言っといて恥ずかしいのか、

少し頬が赤いのもかわいいな。


「あ、あーん」


「ん!美味しい!」


さっきまでとは180度も違う笑顔に少しほっとする。修羅場ってこんな感じなのか。

二度と経験したくはないなこれは。


クレープを食べ終わると、俺たちはショッピングモール内の店を見てまわった。服などを試着したり、雑貨屋で小物を探したり、新作の飲み物を飲んだりとまるでカップルかのような充実した放課後を過ごせた。




「あー楽しかった!

 次は・・・ってもう19時か。

 ね、最後に一箇所寄りたいんだけど」


「ん?どこ?」


「あそこ。」


そう言って舞香はゲームセンターを指さす。


「プリクラが撮りたいの。

 あんまり二人きりの写真もないから。

 ねぇいいでしょ?」


「そりゃ舞香がいいなら、拒否するもんでもないけども。」


「よし!じゃあいくわよー!」


そう言って俺と舞香はプリクラ機へと入る。

あまり、というかほぼほぼプリクラ経験のない俺は少しソワソワしている。


『ポーズをとってね? 3・2・1!』


「え?」


カシャ!


「ちょw 何そのポーズw

お腹いたwwww」


「し、仕方ないだろ!」


いきなりポーズをとってと言われて、

変なポーズをとってしまい写真のプレビューを見て舞香は腹を抱えてケラケラ笑う。


それからは舞香がポーズを指定してくれて

結構撮りやすかった。こんなに色々な種類のポーズを知っているなんてさすがアイドルだな!


そして最後の写真になった時、

舞香のポーズ指定はなかった。


『ポーズをとってね?』


「ま、舞香?次は?」  


舞香から返事はなかった。


『3・2・1!』


その時、

舞香はオロオロしている俺の顔を掴み



カシャ!



唇へとキスをした。


「・・・え?」


「・・・こ、これは、

 私にキスした事を黙ってた罰と、勇敢に立ち向かった事へのご褒美のキスなんだから!


 あんたは私とだけキスしてたらいいの!

 ちゃんと反省してよね!べぇー!」


「えぇ・・・?」


呆然とする俺にむかって、舞香は顔を真っ赤に染め上げそう言い放ち、あかんべえをして、撮影ルームを後にした。


現像されたその時の写真をみてから、

二人とも顔色が元に戻るまでに相当な時間を要することになった事は言うまでもないだろう。



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