第二位階

「なぁなぁ見てくれよ!」


 魔城で富皇と奉政、そしてノスフェラトゥがこれからの事を話し合っているそのとき、突如部屋に淀美が入ってきた。

 とてもはしゃいでいるような様子である。


「ん? どうしたのかしら?」

「へへーん……ほらっ!」


 富皇が聞くと、淀美は右手のひらを上に向けながら前にかざす。

 すると、突如空中に大きな銃――AK-47――が浮遊しながら現れたのだ。


「まあ、これは……」

「な? 凄いだろ? なんだか朝急にできるような気がしてやってみたらできたんだよ。今まで手のひらサイズのものしか生み出せなかったのに、ここまで大きいものが作れるようになったんだ! さらに……!」


 そうして淀美はバッと右手を別の方向にある悪魔の形をかたどった石像へと向ける。

 すると、浮いていた銃の銃口がその方向に向き、空中でパララと発砲した。銃弾は石像の頭の部分に着弾し、吹き飛ばした。


「どうだ! 自分の体の周りって制限はあるが、生み出したものを自在に操ることもできるんだぞ! 凄いだろう!」


 嬉しそうに話す淀美。しかし富皇と奉政は淀美が思っていたよりも驚かなかった。


「あれ? あんまり驚いてないな」

「まあな。新たな力に目覚めたのは松永氏だけではないという話だ。私も宇喜多氏も、新たな力に目覚めている」

「ええっ!? そうなのか!?」

 淀美が大きく驚く。他のメンバーを驚かそうとしていた彼女の方がより驚いているその姿に、富皇はなんだかおかしくくすくすと笑う。

「ふふふ、本当に淀美さんは可愛らしい人ね」

「それは褒めてるのか?」

「ええ、もちろん」

「魔王様方が一国を落とし大陸に恐怖を振りまいたおかげで、皆様の力がより大きく覚醒……第二位階に目覚めたのでしょう」


 と、そこでノスフェラトゥが説明する。


「第二位階?」

「はい。魔王となる者が持つ力は、人々の恐れによってより力を増しますが、大きな区切りとして位階が存在します。皆様方はその力の第二位階に到達したということにまります」

「へぇー……」


 淀美の感心しているのだがどこか間抜けな声に、奉政が軽く頭を抱える。

 魔王としてその反応の仕方はどうなのかと思っているような顔だった。

 そんな奉政を見て、淀美が聞く。


「じゃあ二人はどんな力に目覚めたんだ?」

「ん? 我々か? 少なくとも私は松永氏ほど派手ではないよ。……ノスフェラトゥ、地図を」

「はい」


 ノスフェラトゥが奉政に地図を渡す。世界地図だ。

 それをテーブルの上に広げると、ぼおっと奉政の眼が光った。


「……ここに鉱物資源、ここに洞窟に隠れた水源地が、そしてここには……なるほど、逃げ延びた教国軍の兵士の隠れ家がある」

「えっ地図を見ただけで地図に描かれていないものの事まで分かるのか!?」


 淀美の驚いた言葉に奉政は頷く。


「ああ、占領した魔族領に限るが、どこに何があるかを瞬時に把握できるようになった。また、私のそうした知識を他者に分け与える能力もより強化され、一度に複数人に知識を授けることができるようになった。これでより工場作成が捗るだろうな。そしてさらに……ノスフェラトゥ、実験用の人間を連れてきてくれ」

「はっ」


 奉政に言われてノスフェラトゥはワープし人間を連れてくる。ボロボロの服を着た一人の男だった。


「ひっ!? 魔王……おねがいだぁ家に帰らせてくれぇ、死にたくないよぉ……」


 泣き言を言う男に奉政は近づく。

 そして彼の頭を両手でガッと掴んだかと思うと、彼女の瞳が怪しく輝いた。


「『舌を噛んで、自害しろ』」


 普通なら到底受け入れられない命令。だが――


「……はい」


 男はうつろな眼をしてうなずき、そして舌をその場で噛んだ。男の口から血が溢れ、やがて男は自分の血で溺れて死ぬ。


「……と言ったように、相手の心を操れるようになった。と言っても、目と目を合わせる必要があるし、相手の心が強いとうまく通じないようだが……」

「ほえぇ……いや凄いよ奉政! いろんな能力に目覚めているじゃないか!」

「それほど褒められることでもないさ。個々の能力では松永氏の能力には到底及ばない。使い勝手も良いとは言えないしな」

「それでも、使いこなすのが奉政なんだろう? まったく面白い。それで、富皇はどんな力に目覚めたんだ?」

「あら、私?」


 富皇は自分の顔に指を指して反応する。

 そして、軽く苦笑する。


「私は新しい能力というほどでもないわ。純粋に、自分の力が強まっただけよ。より強力な腕力を振るい、より素早く動け、より広範囲に攻撃魔法を使えるようになった、ただそれだけよ」

「へぇ……いやでも、前の時点でも勇者と互角に戦えてたんだから、それが更に強まったならいいじゃないか。これからも勇者の相手は、富皇に任せるとしようじゃないか」

「本当は、純粋な個のぶつかり合いをさせるよりも軍勢で相手をしたほうがいいのだがな。宇喜多氏の力は、本当に最後の手段にしたい」

「そうね。力に頼っては面白くないわ。いかに持っている手駒で相手を攻め滅ぼすか。それが楽しいものね」

「なるほどな。まあ確かにそれはあるな」


 頷きあう三人。

 三人の悪女は、その点においては共通の見識に至っているらしかった。

 ノスフェラトゥは、そんな彼女達について思う。

 この者達を召喚して本当によかった。これなら、魔族が世界を支配するのも夢ではないかも知れない、と。

 純粋にそう感動している自分がいるのを感じたノスフェラトゥは、そういうところが自分が魔族らしくないと富皇に言われたことを思い出し、一人苦笑した。


「まあ、私達の力に関しては後々適材適所で有効活用するとして、そろそろ次の侵攻を始めるとしましょうか。相手は、ソブゴ王国。始めの一手はどうしたものか……ふふふ」


 不気味に笑う富皇。

 それに合わせ、ニヤリと笑う淀美と奉政。

 新たな戦火が広がるときはすぐそこに迫っていた。

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