その演劇部は、舞台に上がらない

溝野重賀

序章 それは舞台じゃないどこかで

男は少し青春を知り、期待は信頼へと変わる

 ――俺の想いは、考えは伝わったのだろうか。


 きっとあいつら以外の奴が訊いても分からないだろう。

 よもやあいつら自身も気づかずに分からなかっただろうか。

 

 それでも、どこまでも抽象的でなければいけない。

 どこかに具体性を持たせたら、その考えは俺一人のモノになってしまうだろうから。


 俺たちは、みんなで一つの結論を出さなければならない。

 誰かの意見に同調するのでなく、自分の意見を押し付けるのでもなく。

 みんなが同時に、同じ答えを言い合えるように。


 いや、多少は違っていいのかもしれない。


 けれど、各々が各々の結論を出し、意思を持たないとダメだ。

 そうしないと、俺たちは退廃していくだろう。


 ああ、今更になって、湯水の様に言葉があふれ出す。


 俺は勝ちたいよ。みんなとの部活で。

 俺は楽しいんだ。みんなとの部活が。


 辛い時も、上手くいかない時も、不真面目な時も、真剣に練習する時も、お互いの意見がぶつかり合った時も、部活帰りの他愛もない会話の時も、土日に遊んでも最後には部活の話をし出す時も、大会の時も、色んな時が幸せだった。


 これは俺の我儘だろうか。


 あいつらに同じような気持ちを求めるのは、ただの強欲だろうか。

 あいつらに自分自身で結論を出してほしいと思うのは傲慢だろうか。

 俺はもう答えを出したと考えるのは、どうしようもない怠慢だろうか。


 思い出を言語化するほど、俺の中で疑念の影が濃さを増す。


 されど、もう行動は示した。


 さあ、相も変わらず演じるとしようか。

 既に場は整えられ、光を照らされることも、音を加えられることも、きっかけ一つだ。

 ここから先、物語になりうるかは役者たち次第だ。


 そしてなにより


 物語を楽しむか

 情緒を味わうか

 世界を感じるか

 人物を慰めるか



 それは手に取る、観客次第だ。


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