5.人を救うモンスター


「で、堅守のドラゴン。何しに来たんだ?」

「ガウ」


 朝早く、俺はリーシャによって叩き起こされ、アゼルのことを思い出し焦ってしまった。

 なのに、来てみれば堅守のドラゴンがちょこんと座っているだけだった。

 先に屋敷を出て来たからフェルスたちはそのまま寝ている。


 ……敵襲かと焦ったじゃねえかよ。

 心臓に悪すぎるわ。

 

 少しだけ苛立ちながらも用件を聞く。

 意味もなく貧民街に来るモンスターではないことは知っている。


俺は大して怖くないが、住民も堅守のドラゴンを敵対視していて、剣や槍と武装して構えていた。


「みんな、落ち着いてくれ。コイツは暴れない」

「ほ、本当か? ニグリスさんがそう言うのなら……」


 ゆっくりと武器を降ろした。

 よし、何とか混乱を治めることはできた。

 だが、イタズラ好きなのか堅守のドラゴンは突如鳴いた。


「ガウッ!」

「ひぃぃぃっ! やっぱりこのモンスターは敵だ!」


 わざとやったな……。

 どちらにせよ、誤解されると面倒だ。


「堅守、殴るぞ」

「ガウ……」


 俺が一喝すると申し訳なさそうに首を縮めた。その様子に住民は眼を見開いて驚く。

 分かってるなら最初からするなよ……。


 堅守のドラゴンは懐に一人の少女を抱えていた。

 まだ十二歳程度の、青髪の少女だ。


「おい、その少女……まさか、殺したのか?」

「ガウガウ!」


 首を横に振る。

 ……いや、違うか。息はある。でもすごい弱ってる。


 治癒(ヒール)

 治癒してもすぐには起きないか。


「……変わった手袋をしているんだな」


 星形の紋章が入った手袋をしている。

 魔法陣……? いやでも、少し形が違う。


 最近、魔法関係で良いことがないから少し警戒してしまうな。


 アリサ辺りに聞いてみるか。


「届けてくれたんだな」

「ガウッ!」

「……そういうのは有難いんだが、せめて静かに来れないか?」


 それにしたって、モンスターである堅守のドラゴンが少女を助けるなんてどんな風の吹き回しだ?

 何か物欲しそうに俺の後ろを歩いて来る。


 ✳︎


 屋敷に帰って来て玄関を開けると大騒ぎになっていた。


「に、ニグリス様!? 事件が起こったんじゃ!」

「あぁ、大したことじゃない。すぐ終わったし」

「えぇ!? ちょっとリーシャぁ~、大したことないって」

「た、大変ですよ! SSランクの堅守のドラゴンが来たなんて大事なんですからね!?」


 アリサはちょうど今向かおうとしていたらしく、慌ただしく準備したせいか赤毛がボサボサだ。


「それくらいで起こさないでくれ」

「か、感覚がおかしいですよ!」

「ガウッ」

「堅守のドラゴンぅぅぅっ!?」


 リーシャが泡を吹いて倒れた。

 絵に描いた倒れ方にアリサが感嘆とした声を漏らす。ツンツン、と突いて反応を伺っていた。

 ……気絶しただけか。まったく、朝から騒がしいな。


「ニグリス様、その女の子は?」

「堅守のドラゴンが連れて来たんだ。怪我人らしい」

「へぇ……モンスターが人助けなんて、変わってるのね」

「ガウゥ~ッ!」

「なによ」


 アリサに対してだけ、やけに威勢がいい。

 あぁ、家ぶっ壊されたからか。

 そりゃ根に持つわな。


「まだ部屋余ってるよな」

「はい。綺麗にしている部屋はいくつかありますが……」

「そこでいいか」


 空いている部屋でこの少女を休ませ、もう少しだけ治癒をすることにした。見たところ、目立った傷は外傷だけだ。


 俺はそのまま歩いて行くと、一緒に付いてきた堅守のドラゴンが中に入ろうとしてきた。

 その巨体で無理だろ……。

 たぶん、この少女が元気になるのか気になるんだろうな。


「ガッ! ガウ~……」


 何とか入れたものの、堅守のドラゴンにとって小さすぎるこの家では、天井や壁に頭をぶつけ泣いてしまう。


 そんな可哀想なドラゴンを見てアリサは腹を抱えて爆笑していた。


「アハハハッ! ドラゴンが泣きそうになってるマジおも────」


 堅守のドラゴンの衝撃により、天井の一部が崩れて落ちて来る。


 それがガンッとアリサの頭を直撃した。


「痛ったぁぁぁぁぁぁっ!」


 ……何やってんだコイツら。

 一応アリサに治癒を掛けておき、堅守のドラゴンには屋敷が壊れるから外で待っているように指示をした。


 いくら大きい屋敷とは言え、管理されていなかったから古いし脆いんだ。

 それに患者がいるんだから、少しは静かにしろよな。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る